第四章:若気の至り
第22話 ホームレス狩り
燈火公園の或るZ町から少し離れた、都心部に近いS駅のホーム内は、金曜日の午後18時ということで混雑している。
合コンやイベントの打ち上げに出かける大学生達、親が出してくれる学費で勉強をしていると思いきや学生生活の大半を遊びで費やし、レポートはウィキペディア等の丸写しをしている学生の風下にも置けない阿保な面を浮かべた駄目学生の群れ。
ブラック企業で疲弊しているサラリーマン、彼等は週末ということで飲みに出かける為に仕事を早々に切り上げて、仲間内で会社の愚痴を発散、ピンサロやキャバクラで溜まりに溜まった性欲を発散させて家に帰ったらネットで愚痴るのが定番コース。
OLはどうかと言うと、やはり飲み会で会社の愚痴を発散させた後にホストクラブやこの街にある日本でも数少ない性感帯マッサージに通い性的なマッサージをして貰い、仕事漬けの日々で溜まった性欲を晴らすのだ。
中には、久しぶりの旧友を待ち合わせる人間もおり、夜遊びに出かける。
その中で、異彩を放つ連中が居る。
☆
「ねぇっ、カッちゃん遅くね?」
ピンク色に髪を染め上げた、やや細身で背が高めの部類に入る、顔が微妙に美人の女は、待ち人が遅いことにやや苛立ちを隠せないのか、駅の壁を足で軽く蹴っている。
隣にいる、年は女と同じぐらいの20代前半の金髪で腹が醜く出た、成人病まっしぐらのメガネをかけた男は、最新のスマホ10を操作している。
『今駅に着いたよ』
「駅に着いたらしいぜ」
「マジ!? 遅いんだよねいつも、あー早くクズをぶん殴りたいわね!」
「いや俺もだよミンミン、最近な、株であんまし儲けられないからこっちも苛ついていてさ、ホームレスぶん殴ればうさが晴れて、株で勝てるかもしれぬ……」
この男、株をやっているのか、もう一台のスマホを取り出して、何やら株のチャートらしきグラフをチェックしている。
「いやあんた、大卒だし働きなさいよ! 私なんて高卒だから、手っ取り早く金稼げるのはガールズバーかピンサロとかしかないのよ! 」
ミンミンと言うこの女、女性がしたがらない風俗業界や水商売で生計を立てているらしく、客からプレゼントを貰ったのだろうか、ブランド物のバッグを肩に掛けている。
周囲の雑踏の中に、背が高くて髪を肩まで伸ばして金髪に染めて、厨二病の人間が着るような、襟に金の鎖の付いた黒のロングコートに先の尖ったブーツ等痛々しい服装に身を包んでおり、口にピアスを開けている。
「遅いぞ、俺なんて、精子が爆裂しそうなんだ!」
「あぁ、悪い、ヒモがどうしてもやりたいっていっていたからさ、エッチしてたんだよ、ついさっきまで」
カっちゃん、と言うこの中二病の男は、キザにそう言うと、ふふふ、と笑い駅構内にも関わらず電子煙草を口に銜えている。
「そんなんどうでも良いから行きましょう! 」
ミンミンは、相当うさが溜まっているのか、唾を地面に吐きながら先頭になり足早に歩き出す。
*
この3人の、職業も性別もばらばらな、凸凹の組み合わせをした連中は、ネット上で知り合った仲である。
『ぼっちSNS』――日本全国の彼女や彼氏などがいない寂しい連中が集まるSNSがある。
このSNSはツイッターやフェイスブック、LINEの様に無料で出来るもので、自分のアカウントページを作った後に他のユーザーのいるタイムラインで思った事をツイッターと同じように呟き、趣味や考え方が同じ人間のアカウントをフォローすると言った具合の仕組み。
オフ会を定期的にやっており、リアル世界で仲良くなる人間も少なくは無い。
――だが、SNSの常なのだが――SNSは『出会い系サイト』と揶揄されており、出会い目的で利用する人間は絶えずいる、この『ぼっちSNS』ではオフ会の飲み会で気に入った異性と酒の勢いで一晩性交渉に励む輩もおり、アングラ系の雑誌では、『出会った女の事と直ぐにやれるサイト』だというのが裏社会での見解。
ミンミン達は、定期的にやっているsnsメンバーの大半が集まる大規模オフ会で知り合った。
前からは、同じゲームやアニメ、漫画の趣味で意気投合していた3人、オフ会の後の飲み会でラインを交換した。
『ねぇ、ホームレス狩りやってみない?』
ミンミンはある日の夜、酔っ払って帰ってきて彼等にそうメッセージを送る。
『やるナリ!』
『賛成っちゃ!』
週末に彼等はs駅に集まり、都内から電車で2駅ほど離れた燈火公園に集まり、取り敢えずバットを持ち、ホームレスが一人になった時を見計らい思い切り頭を叩いた。
のたうちまわっているところを、更にバットで暴行を加えていくうちに、彼等の中で何かが崩れた。
ある漫画の中での台詞に、人間は心の中に玉を持っている、と言う、その玉が割れた後に出るのは善か悪か……という内容なのだが、ミンミン達の玉の中に入っていたものは禍々しい毒の色の液体であった、どす黒い暴力衝動である。
その日から、彼等の中では、週末に集まりホームレスに暴行を加えてそれを動画に取り、ニコニコ動画やYouTubeに複数のアカウントで投稿をすると言うもので、そのまま、ホームレス狩りをしたと書けば特定炎上は明白となる為、通りすがりのサラリーマンがたまたま発見したという嘘の内容でアップ、閲覧回数は瞬く間に2000回を突破して、広告収入だけでもそれなりの額になり、益々暴力に拍車が掛かる。
だが、その日の雰囲気はどこか違っていた。
「ねぇ、なんか今日ホームレスの数とか少なくね?」
カッちゃんは、退屈そうに欠伸をしながら、燈火公園を見渡すが、ホームレスは2.3人程しかいない、普段ならば10人ぐらい寝泊まりしているのにもかかわらず、だ。
「ねぇ、やっちゃいましょうよ」
誰でもいいから殴りたいーー高校生のような気性の荒さを、普段は隠して、周囲が認めるような非がない人間を演じているミンミンは、社会での憂さ晴らしを社会弱者を殴って晴らそうとする人間の風上にも置けない屑。
「しかしよぉ、動画にアップするだけで金になるんだな! こんなボロい商売ないべ」
ここにも、生きる価値がない屑がいる。
カッちゃんは持ってきたボウガンで、一人でいるホームレスの太ももに狙いを定めて矢を放つ。
「ぎええ」
そのホームレスは、悲鳴をあげて倒れた。
「あははっ、ぎゃあだって!まじウケるわ!」
このミンミンという女、性根が相当腐っているのか、太ももを押さえてのたうち回るホームレスの男性を惜しげもなくスマホで撮影する。
「これでまた、炎上間違いないわね! うけるぅ〜」
「待てよミンミン! なんか今日は様子がおかしいぞ!」
カッちゃんは、異変に気がついたのか、ホームレスに蹴りを入れているミンミンを止める。
周囲には、スマホを片手に撮影をするホームレスの集団がぞろぞろと彼等の元へと集まってくる。
「ひえええ! なんだあんたら!?」
「それはこっちのセリフだ、おいお前ら、今すぐこの場所から立ち去れ、痛い目にあいたくなかったらな……」
黒縁眼鏡のハンチング帽の男は、パソコンを持ちながら彼等に忠告する。
「チッ、逃げるぞ!」
「ええ!」
彼等は身の危険を感じ、足早にこの場所を立ち去っていった。
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