奇跡の代償
@PIRORONIA
聖夜の夜
雪の降る駅前、眩しいくらいのイルミネーションと行き交うカップルの群れを避けながら私は1人、足早に病院へと向かった。
妻が余命宣告をされたのは2年ほど前、目の前が真っ暗になり、脳が医者からの言葉を理解しようとそれだけを繰り返し、外の音が全て、見ているはずのもの全てが認識出来なくなったのを感じた。
治すには多額の医療費が必要になる。ただのサラリーマンに出せるような金額ではなく、延命治療だけを繰り返している。
こんな自分が悔しい。式で誓ったはずのただ1人すら私には助けることが出来ない。
そろそろクリスマスか...。
年甲斐もなく、空を仰いで願ってみた。
決して直せない病気ではない。金がいる。
「お金が欲しい」
誰に言うわけでもなく、いるわけもない赤いおじさんに願ってみた。
そろそろ病院が見えてくるころかなんて考えていた時、携帯がなった。
なんてことない日常にありふれてるはずの1シーン。それが何故か今は酷く怖い。
嫌な予感がしたから。
「はい、山本ですが...」
「もしもし、桜病院ですが」
妻がいる病院だ。嫌な予感もしたが、期待もせずにはいれなかった。
もしかしたら病気が治ったよなんて続きが聞けると、最高のクリスマスプレゼントだねなんて笑い合えるのを期待したんだ。
でも決まって、こういう時は悪い予感が当たるんだ。
妻の容態が急変し、今、亡くなったと。
それ以上の話はよく聞こえなかった。気がつけば道には私の嗚咽だけが響いた。
何が悔しいって、願いは叶ったんだよ。
妻は自分に保険金かけてたみたいでさ、ホントに、奇跡みたいに必要な額ピッタリのお金が入るらしいんだ。
笑えないよな。いまさらこの金を何に使えばいいんだろう。
人々が聖夜の奇跡を歌うその日、あるアパートの屋上に立っていた男性は、その下の雪を真紅に染め上げた。
奇跡の代償 @PIRORONIA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます