死人の受付役

神楽 雪

第1話

ここには、多くの人がやってくる。人を殺した人、殺された人、自殺をした人、病気で亡くなった人。多くのお客様が受け付けをする。わたくしはここで受付を担当する山岸というもので、もう何年ここに務めているかは分からないがここで受付をするのは一生飽きない自信がある。今日も新しいお客様が受け付けをしにやってきた。

今日のお客様はとても小さい。4歳でここへやってきた。

━「お客様、ようこそ受付へ。今回お客さまの担当をさせていただきます。わたくし山岸と申します。」

━「こんにちはぁ!えっと、わたしはあんです!4歳です!」と、大きな声で答える。とても可愛い女の子だ。今、この子は自分の状況が分かっているのだろうか。

━「はい。こんにちは、それでは説明をさせていただきます。」この子がここへ来たのは、ついさっき。親から虐待を受けていたそうだ。


───「わたしは、まっしろいおはながたくさんさく、おはなばたけにいた。すすんでもすすんでも、きれいなおはなでたくさんだった。わたしは、なんだかさみしかった。しろいお…」

━「うるっさいなぁ、この糞ガキ。ここで読むな!」そう言ってお母さんは私の絵本を取り上げる。いつもお母さんは頑張っているのに、私が迷惑をかけている。

━「ごめんなさい、むこうでよむから、うるさくしてごめんなさい 」そう謝ると、お母さんはイラついた様子で私の絵本を畳に投げつけた。私はお母さんに怒られないように、隣の部屋に行って絵本を読んだ。

━「しろいおはなのおはなばた…」ドンっと大きな音を立ててお母さんは家をでていった。

━「また、おこらせちゃったかな、ごめんなさいお母さん、いいこじゃないくてごめんなさい。」そんな、私の言葉を無視してお母さんは階段をかけおりていった。

次の日の朝、お母さんは私が起きた頃に帰ってきた。いつもは私を幼稚園に連れて行ってくれているのに、今日は連れて行ってくれなかった。また、昨日みたいに絵本を読んだ。けど、やっぱりお母さんはそれが気に食わないみたいだ。

━「…あんたがいるから、あんたを産んだのが間違いだった。」そう言ってお母さんは私をベランダに押しやって鍵を閉めた。そのまま準備をしてまた、家を出ていった。

━「…お母さん?」そこには冷たい私を包む冬の風と空気と、お母さんが3歳の誕生日に私に買ってくれた絵本があった。


───「ありがとう、お母さん! 」そう嬉しそうに私が言うとお母さんは優しい声で答えた。「いいのよ、あん。大事にしてね。」

「うんっ!だいすき!」───


そう、私は知ってる。私のお母さんはいつだって優しい。ずっと優しいお母さんだ。私の大好きなお母さんだ。いつも美味しいご飯を作っくれて、お父さんがいなくても、たくさん愛してくれるお母さんだ。お父さんなんかいなくても充分だった。いつも一緒に寝てくれて、子守唄も絵本も一緒に読んでくれた。お母さんはいつも優しくてあたたかくて、私にいい子だねって笑顔で言ってくれた。だからずっといい子でいようって思った。私はいい子で入れたかな?お母さん。

━「あのね、お母さん…だいすき…だ、よ。」何度呼んでもそこにお母さんは居なかった。その代わりに冷たい風と沢山の涙が空から降ってきた。「…お母さん、ごめんなさい。」───


─次の日、あんちゃんは幼稚園の先生が通報して見つけてくれたそうだ。あんちゃんは大事そうにしろい絵本を抱えて、雪のように白く冷たい肌で眠っていた。

━「あのね、やま…えっとおにいさん。お母さんはどこにいるの?」

━「ここにお母さんは居ませんよ。では、早めに受け付けを済ませてしまいましょう。」

きっとこの子はすぐに天国もしくは転生できると感じた。だから安心して受付をした。


わたしは、まっしろいおはながたくさんさく、おはなばたけにいた。すすんでもすすんでも、きれいなおはなでたくさんだった。わたしは、なんだかさみしかった。しろいおはなしかないここがさみしかった。だけれど、これからたびをしなくちゃならない。これからながいたびをして、たのしんだあとかえるんだ。ここに、あなたのいるばしょに。


──お空の国


「行ってらっしゃいませ、お客様。」

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