「聞き耳…」

低迷アクション

第1話

 旅行中の“飯田(いいだ)”は、ふとした事で足を踏み外し、峠道から、

下の道へ滑り落ちた。


幸いな事に、地元民がトラックで通りかかり、怪我をした彼を町医者に魅せる為、

車に乗せてくれた。


そして、降ろされたのは、小さな村と、この限界集落で唯一の医療を

取り仕切っていそうな“診療所”だった。


「凄いね、アンタ…片足、ヒビだけで済むなんて…まぁ、ここは泊まる所もないし、

タクシー呼んで、麓の町まで行きなよ」


痩せぎすの医師は(彼と、ここには受付の看護師だけのようだ)


「まぁ、車でも、1時間はかかる場所だけどね」


と余計な事を付け加える。飯田としても、そこは承知だ…どのみち、外は暗いし、

1人で下山は無理そうだ。


しばらくここで待つ事に決め、とりあえず診察室から出ようと、腰を上げた飯田は、

いきなり開いたドアに押され、そのまま椅子に戻される。入ってきた中年の看護師は、こちらに構う事なく、医師を見て、言葉を発した。


「先生、モリタさんとこのお孫さん、ま・た・ですって…」


「ええーっ、またぁっ?弱ったな、ちゃんと説明した?」


「ええっ、何でも、この前打った注射が、とても効いたって…それで…」


「なんだね?」


医師の問いに、看護師は言いにくそうに答える。


「今回は頭の“アレ”も取ってほしいって…」



「ええっ!?それこそ無理だよ。手術なんて専門外だし、そもそも、あれは瘤とかじゃないからね?あの家の事を、君は知ってるのかい?あそこは代々…」


「先生!」


看護師が飯田を見る。こちらとしても、盗み聞きをする気はないし、不気味な話だ。

立ち上がり、びっこを引きながら、ゆっくり部屋を出る。

その背に医師達の会話が漏れ聞こえてきた。


「まったく、悪い事は出来ないね。先祖の業は子孫に還ってくるとは言え、因業な話だ」


「だいぶ、噛みつくって話ですよ。腕の力も年々強くなってきているとか…」


「どっちにしても、ウチで対処できる話じゃない。拝み屋にでも、頼むといい」


「もう、頼んだらしいですよ。でも、断られたって…」


「うーん…救いがないね」


一体、何の話をしている?気味の悪い…怖気を助長するにはピッタリの暗い待合に

座ると同時に、鳴った電話に飯田は腰を抜かしかける。


看護師が現れ、慌てたように受話器を掴む。


「えっ?家を出た?“痛み…どめるとごに行ぐ”って、ウチの事ですか?ちょっと、

先生―っ!」


電話が終わる前に、飯田が診療所を飛び出したのは、言うまでもない…(終)






















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「聞き耳…」 低迷アクション @0516001a

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