第30話「線香花火の蕩け」4


 結局、先輩との変なちぐはぐにも決着がついて俺たちはコテージの中でゆったりと過ごしていた。


 ゆったりと——なんて言い方はしてはいけない。こんな旅行というかキャンプというか真面目な雰囲気は感じられないような遠出ではあるがなんだかんだ言って文芸部の合宿だ。


 先輩と俺と結城先輩、そして吉原先輩に部活の顧問。

 皆バラバラで何をしているのか把握してはいない。先輩はソファーに座ってぼーっと本を読んでいるし、吉原先輩はニコニコ笑いながら「もっかい海行ってくる!」と言い残して出て言っちゃうし、ましては監督兼保護者で着ている顧問はベランダでゆったりとタバコを吸っている。


「か、カオスだな」


 あの美しい身体と顔でタバコなんて本当にもったいないのだが案外俺の心には刺さる。かっこいい女、ロリコン主義でも熟女主義でもツンデレ主義でもない俺に刺さるとは中々の手練れ――と言ってやりたいのが建前で、あのクソ顧問なら一ミリも思わん。


「ははっ……毎度のことだよ、これはね」


「あ、結城先輩っ」


「ほら、これ飲んで」


「あ、ありがとうございます……」


 そんな混沌と化したコテージのリビングを端から眺めていた俺の隣にやってきたのはコーラを手にした結城先輩だった。微笑みながらこちらを除いてくる様は男の俺でも惚れてしまいそうになったが女ならきっとイチコロだろう。


 ということは——先輩も、か。まったく、あんなずぼらな先輩にこんなイケメンな人がいるとは、隅には置けない。ああ、もちろん、別に悔しくはないがな、悔しくはない、無論悔しくはない。断じて。


「乾杯」


「か、乾杯ですっ」


「——いやぁ、にしても賑やかだよね。副部長として誇りだよぉ」


「ま、まぁ……賑やかというか、むしろうるさいまであると言うか……」


「あれ、そんなにかな? でもさ、このくらいの方が面白くない?」


「お、面白い――ですか……確かに、そう言われてみればそうかもしれませんねっ」


「おっ、でしょ~~。椎奈と言い、吉原ちゃんと言い可愛いじゃん? はしゃげtルの見れていいって感じなんだよ~~」


「……ははは、中々言いますね」


 まったく、余りにもほわほわしすぎて聞こえていないのか。

 声が大きすぎてソファーで本を読んでいる高倉先輩に聞こえそうだ。というか、なんか先輩の耳が気のせいか赤いようにも見える。


「……それで、さ。あれなんだっけ、小説書いてるとか聞いたけど……」


 コーラの缶をすべて飲み切ったのか、何気ない顔で缶を地面に置いて、俺の隣に座った結城先輩。


「っあ、まあそうですっ——お恥ずかしながら書いてますっ」


「なーんで恥ずかしながら書くのさ……別にいいじゃんか、小説書くと事悪くないよ?」


「そ、その……フォロワー数も少ないので」


「いいって~~、僕はそういうの気にしないし! むしろウェルカムだよ!」


 満面の笑み。

 イケメンに天然に笑顔。もはや神様のいたずらどころの騒ぎではなかった。もしも俺が女なら、この瞬間に三回は恋に落ちている。そのくらい乗れでレベルで凄まじかった。


「……じゃ、じゃぁ、その、これを」


「ふむふむ、ネット小説ねぇ……」


 そして、ようやくこの合宿のメインとなる二人だけの小説講習会が始まった。







 

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お隣に住む地味で華奢な先輩女子高生が俺の小説のフォロワーだった件。 藍坂イツキ @fanao44131406

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