第5話

「じゃあな」

「元気で」

「しっかりね」

「ああっ。二人もな」


 レオルドの背中を見送る二人。

「行っちゃったね」

「そうね」

 ルーンがレミナに声をかける。


「いいの、レミナ?」

「何がよ、ルーン」

「だって、レミナは、レオルドのことを…」

「私には悠々自適ゆうゆうじてきな生活が待ってるもの。それより、ルーンこそどうなのよ。人見知りのあなたが唯一心を許せた男だったんじゃないの?」

「んっ。私は神に仕える身だから。そういうのは…ない」

「ほんとにぃ?」

「やめよっ。辛くなる」

 ルーンの言葉にレミナもレオルドの背中を見つめる。


「あいつって、自由よね」

「そうだね」

「命がけで戦って、死にそうに何度もなって、苦しんで……自分の持っているもの全てを賭けて、ようやく世界を平和にしたのに…富も名誉も、何にもいらないって言えるなんて…」

「唯一の祈りは強い。レミナの力の根源、愛の力。追わなくて本当に、いいの?」


 レミナは腕を組みながら、片目でルーンを見る。

「ふん、いいのよ。だって、考えて見なさいよ。幼馴染とうまくいっちゃったら、嫉妬で死ねるわよ、私……だから、まっ、あいつが今度は私がいないことに寂しくなって会いに来たら、考えてあげるわ」

「レミナ、不器用」

「私だって知ってるんだから、ルーンの気持ち」

「進もっ、レミナ」

「そうね、私たちも…前へ」



 ◇◇◇


 あっ、いた。

 井戸から水を汲んでいるシエルを俺は見つけた。

 魔王城の最後の扉を開けるよりも緊張するかもしれない。

 しかし、俺は勇者。怖気づきそうなときでも、前に進むのが俺のいいところ。

「よっ」

 振り返ったシエルはバケツを落として、両手で口を覆う。

「レオルド!!」

 駆け寄ってくるシエル。

 その心地よい声。あぁ、そうか……やっぱり。

「ただいま、シエル」

 

 この先は勇者の物語ではないから記すものはいない。

 しかし、ダナン村の一族にはこんな口承がある。

 この地より生まれでた勇者は世界を救い、その後、幸せに暮らした、とさ。


 終

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ドリーム・インフィニティ 西東友一 @sanadayoshitune

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