第4話
「俺、田舎に帰るわ」
「はっ?」
「えっ…」
二人は目をぱちくりさせながら、俺を見る。
俺は朝日を見る。東の空に白く光る太陽。どうだ、俺たちの新たな旅立ちを占っているようじゃないか。
(そういえば、あの日もこんな朝日の日だったか)
ダナンの村を出発する日のことを思い出す。
皆に反対されていた俺は、日中に出かけても
まさか、いつも寝坊の俺が誰も朝一番に起きるとは思っていないだろうと準備をしたが、村のじいさんやばあさんがあんなに早く起きているとは知らなかった。しかし、俺は勇者を目指した若者。
なんでいたのか、わからなかったがあの時俺は嬉しかったのを覚えている。
「…ルドっ!」
「んっ」
レミナに呼ばれて、妄想の世界から呼び戻される。
「あぁ、わり~、わり~。そういうことで、悪いんだけど先に村に送ってくれないか?姫様に会うの気まずくて…」
レミナとルーンは顔を見合わせて、ため息をつく。
「レオルド、ダメ。姫様、ずーっと、毎日祈りを捧げてる。きっと、待ってるレオルドを」
ルーンがむすっと怒ったような顔をしてる。
「そうよ、あんたね。人生を棒に振る気?あんたには世界一の栄光が待ってんのよ?」
(…人生か)
「俺は勇者、そして冒険者。自由を愛し、正義を愛する男。昨日考えたんだが、俺には難しい政治の話は無理だ。それにあんな
「姫様は、レオルドを愛してた。それは、私もレオルドもレミナも知っていること。レオルドは姫様と結婚するんじゃないの?」
そう、ルーンが言うように姫様の祈りは遠いこの西の果てにも届いていた。
三人で戦ってはいたが、必ず姫様の愛の力を受けて俺たちは自分が持っている力以上の力を発揮していただろう。
レミナもルーンの発言に一瞬驚いたが、悲しそうな、諦めたような顔をして俯く。
「あぁ、愛を感じた」
「じゃあ…っ」
「でもな、ルーン。姫様の愛は
「そんなことない、姫様を馬鹿にしないで」
ルーンが声を荒げる。
「すまない…ルーン。姫様はそう打算的じゃねーとは思うけど、結局俺にはそれを愛されているって感じねーんだ。俺は、俺だけを愛してほしい。そして、一番認めてほしい奴が、地元のダナンにいる」
ルーンはショックな顔でたじろぎ、レミナはさらに下を向いてほとんど顔が見えない。
「前にも話しただろう?幼馴染のシエルのことを。俺はあいつに会いたい。会って、俺やってやったぞって、自慢してぇんだわ」
「そんなの…自分勝手…」
「あぁ、自分勝手だ。俺は長男で実家の
「そう、レオルドは勇者。勇者ならだれもが認める。今なら両親も喜ぶ」
「でも、それだとシエルと同じ目線でいられないだろ?」
俺の言葉にルーンは黙ってしまう。
「…なら」
さっきまで黙って下を向いていたレミナが呟く。
「なら、私たちといようよ、レオルド。商人みたいに各国を回って、物を届けたり、盗賊を退治したり、野生の動物を狩りしたり…きっと今までみたいに楽しいと思うよ?」
不安そうな顔で瞬きもせずにレミナが喋ってくる。
「それも楽しそうだな」
「でしょ⁉」
「でも、俺はシエルに会いたいんだ、あいつと一緒にいたいんだ」
「…はっ、意味わかんないし」
レミナが悔しそうに話す。
「俺はシエルが好きなんだ。四年会えなくてその気持ちに気づいたんだ」
「もう…他の男がいるかもしれないじゃん」
「…あぁ。もう一人の幼馴染の木こりのジャスティンとも仲が良かったからな。もしかしたら、あの二人が付き合っているかもしれない」
「じゃあ、戻っても無駄じゃん」
「無駄じゃない。まぁ、二人が付き合っていたら、結婚していたら…
俺は二人の肩に手を添える。
「俺のやりたいことは終わった。そして、やれることも。これからの世界は俺のような一人の大きな力で解決する奴の時代は終わりだ。これからは姫様や、国民の一人一人が少しずつ力を出し合って、みんなで解決する時代。俺が上に立っちゃ、みんなが頼っちまうかもしれん」
俺の足りない頭で考えた精いっぱいの答え。二人は俺の顔を見つめる。俺は言いたいことを全部伝えた。そして、揺らぐことは……ない。
「わかったわ…」
「レミナ…」
レミナが返事をして、ルーンがレミナの腰に手をやる。
レミナが少し震えていたが、その手で震えを止め、ため息をつく。
「あ~ぁ、まったく…じゃあ、王子になることも……私たちといることも選ばないんだったら、その分、幸せにならなきゃ許さないんだから」
「おうっ」
「今まで…んぐっ。そうね、うん。三年間…本当に楽しかった。ありがと‼」
「ああっ」
レミナが肩に置いた右手を両手で握る。
「私も…今までありがとう。また会えるよね」
「あぁ、もちろんだ。俺の村にも来い。
「うん、楽しみにしている」
ルーンが肩に置いた左手を両手で握る。
「俺はこの三年を決して忘れない。もちろん、お前らのことも。お前らとじゃなきゃ、こんな偉業はできなかった。しかし、これからは進む道はそれぞれ別の道。一人でしかできない道だ。二人の幸せを祈っている」
二人は口を真一文字にして頷いた。
三人ともわかっていた。
魔王を倒した俺たちは次の夢に進む。
一度別れれば、二度と同じ関係には戻れない。もう二度と戦闘でコンマ何秒のズレのない連携を取れないことも、『あれ』『それ』『これ』などの代名詞で分かり合えることがないことも。次に会った時には少なからず心に溝が生まれることを。
これで自分たちの築いてきた関係は終わる。
お互いを想うがゆえの悲しい顔は生涯忘れることはできないだろう。
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