雨の街
妃代
雨の街
雨が降っている。5年も前から降り続けている。青空なんて、もうずっと見ていない。
水上に作られた家の扉を開け、水上に浮かぶ木造の道を傘をさして歩く。雨水が道のすぐ下まで溜まってきていた。
ここももうすぐ浸水する。
傘に雨粒が当たる音がうるさい。風情だなんて思えない。ただただ鬱陶しい。
これだけは慣れなかった。
雨足が強くなると、他の音が聞こえづらくなるから、話し声が大きくなる。疲れる。
バス停まで歩いたら、傘を畳んで水上バスに乗り込んだ。
夏の雨はムシムシしていて好きじゃない。密閉されたバスの中は、変にじめじめしていて居心地が悪い。
駅に着き、バスを降りる。
電光掲示板が今週の天気を予報している。5年前から変わっていない。
今週もずっと雨だ。
道行く人が、錠剤を口に入れているのを見た。日光に当たらないとビタミンナンタラが不足して、人体に害を及ぼすらしい。大変だ。
雨が続くと気持ちが落ち込む。人間社会も少し暗くなった気がした。
なんとなく足を止めて、上を見上げる。屋上で、金髪の若い男が空に手をかざしているのが見えた。風が強めに吹いた。
嫌な予感がした。
急いで非常階段を上がり、屋上に出た。
上がった息を整えるために、男の所までゆっくり歩いた。
そして、空に掲げられた男の手を掴み、
低い声で言った。
「ダメだよ、太陽の神。まだ私の気は済んでいない」
金髪の男は驚いた顔で振り返り、悲しそうな声で呟いた。
「水神……」
雨の街 妃代 @hi_yoyo
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