第327話 モーデル帝国4、ソムネア
セロトに引き続きダレンについても同じような作戦が展開され、ダレンもモーデルの傘下に入った。ルクシオンに対しても同様の作戦が展開されたが、ルクシオンの王宮内でダレン国王の第4王子だった国王アーロンを発見することができなかった。ルクシオン軍の実権を握っていたエドモンド将軍の逮捕によりルクシオン軍は混乱したが、サルダナ軍がルクシオンに向け南進するにおよび、順次降伏した。その後も国王の行方は分からずじまいであるが、ルクシオンの北半分はサルダナ公国の領有となり、南半分はダレンに返還された。
こういった作戦が展開される間、キーンはデクスシエロがフェンディによって焼き払ったセロトの大地について考えていた。街道上に立っていたデクススコルプを中心として半径5キロにわたって溶岩池を作ってしまった以上、敵兵5万は仕方ないにせよ、その中にセロトの村か町は存在していた可能性は高い。今さらどうこうするわけにもいかないので黙っておくことにした。
いつもと様子が違うキーンにボルタ中尉が、
「連隊長殿、どうかなさいましたか?」
「実は、……」
「そんなことがあったんですか。
セロトの国民が本当に犠牲になっていたのなら気の毒ですが、今さら何をどうしても帰ってくるわけではありません。もし、ソムネアがあのまま進軍してセロトの都を陥していれば犠牲はその程度で済んではいません。セロトに対して借りがあったとしても、モーデルがソムネアを撃退したことで十二分に借りを返しています」
「そうだね。だいぶ気が楽になった。ありがとう」
ロドネア西方が片付いたため、ソムネアに滅ぼされていたローム、ブレスト両国の奪還に取り掛かることとなった。
ソムネアを両国から追い出すため、モーデルからの
ソムネア軍はセロト軍に対して、特殊兵を繰り出してきた。ソムネアはこれまでエルシンとの国境地帯だけで特殊兵を活動させていたため、エルシン兵にはなじみがあり対処法も確立していたが、セロト兵には初対面である。
ソムネアの特殊兵は戦闘前にとある薬品を飲むことで、負傷しても一切痛みを感じないばかりか、傷口からの出血もほとんどないため、頭部を粉砕される以外の負傷では戦闘不能にはならない。
当初セロト兵は、斬る、刺す、では斃しきれないソムネアの特殊兵と対峙して戦慄した。しかし、ソムネアの特殊兵といえどフルメンニグルムの敵ではなく各所でソムネア軍を撃破したセロト軍はロームの各都市を順次解放し、1カ月余りでソムネアをロームから駆逐した。余勢をかったセロト軍はさらにブレストに侵入し、ブレストも1カ月ほどで解放してしまった。
モーデルは、間を置かず、モデナに保護し伯爵位を与えていた両地を治めさせるため両国の旧王族を送り出した。
これにより、ソムネアを除くロドネアの全ての国がモーデル聖王国の傘下に入った。その年の9月のことである。
こういった動きの間、ソムネアの軍事アーティファクト、デクススコルプがデクスシエロによって破壊されたことで恐れるものの無くなったエルシンが、セロトの動きに呼応して、ソムネアとの国境沿いで大攻勢をかけた。当初ソムネア側もエルシンの攻勢を凌いでいたが、キーンの操るデクスシエロがソムネア軍の後方を脅かすにおよび、ソムネア軍は大崩れして、両国の国境は200キロほど東に移動することとなった。
キーンにかかれば、これまで通りモーデルからソムネアの王都に対してもいつでも兵隊を転移させることも可能だし、デクスシエロで乗り込むこともできるのでソムネアの王都制圧自体は容易と思われていたが、王都を制圧したからといって広大なソムネア全土を制圧できるか不明であることが問題だった。へたに王都のみ制圧して残りの全土を無政府状態とするより、時間はかかるかもしれないが、数年がかりで周辺から順次制圧していくことになった。
ソムネア側から見た場合、反撃のため最前線付近に軍を集結すればデクスシエロの襲撃を受け壊滅の憂き目にあうことが簡単に予想できるため、
ソムネアとて、デクスシエロに抗するすべがない以上、いずれモーデルに飲み込まれることは承知しているだろうが、ソムネアからモーデルに対しては何の反応もなかった。
ソムネアの完全掌握、ひいてはロドネア全土掌握には当分時間がかかると見たメアリーは、セルフィナの了承のもと、ソムネア攻略を本格的に開始する前にモーデル聖王国の呼称をモーデル帝国と改め、翌年3月末にセルフィナの皇帝戴冠式を執り行うと発表した。帝笏はこれまでの王笏だが、新たに帝冠を作ることにした。
メアリーにモーデル聖王国の名をモーデル帝国に改めることを許可したセルフィナは一度宮殿奥の自室に戻った。部屋の中にはセルフィナとノートン姉妹がいる。
「モーデルに帰れただけでも幸運だったのに。私の代でモーデル帝国復興の夢が叶うなんて」
「陛下、まだソムネアが残っていますが、時間の問題だけです。おめでとうございます」
「おめでとうございます」
3人とも、セルフィナにとっては父に当たる前聖王のことを思い描いたが口にはしなかった。
しばらく喜びに浸っていた3人だが、その後、セルフィナはノートン姉妹と担当の官僚を連れてモデナ周辺の農地の視察に出かけた。
この春、モデナ近郊で試験的に栽培を始めた小麦は順調に生育し、目の前の農地では立派に実った小麦の刈り取り作業が行われている。
これを受けて、モーデルでは大々的に小麦畑の開墾を進めることとなった。もちろん、キーンの出番である。キーンは空き時間、指定された土地を転移とムーブアースを組み合わせることで簡単に開墾していき、同時に水路も併設していくことで農地を大量に作り出していった。
[あとがき]
残るは3話。
明日「第328話 帝国の守護者」、明後日「第329話 終話、ロドネア戦記」および「キーン40歳時の登場人物たちと名前の由来」を投稿して完結となります。最後までよろしくお願いします。また、タイトルを『ロドネア戦記、キーン・アービス -帝国の藩屏(はんぺい)-』と変更しました。
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