第324話 モーデル帝国1、セロト1
セルフィナの戴冠式が終わり3カ月が過ぎていた。
モデナ各所で建物の建て替えや新築が相次ぎ、
ギレア、メイファン両国ともすでにモーデルの傘下に入っており、両国ともモーデルの一地方となっている。両国の国王はモーデル聖王国の侯爵となっている。諸侯の領地となった各国は王国から公国を名乗ることとなった。
メアリーはソムネアに滅ぼされたローム、プレスト、各々の王族の生き残りと
アービス連隊がサルダナからモーデルに正式に引き渡されたことを機に、キーンの肩書はモーデル軍大将になっていた。そのことをきっかけとして、キーンは黒玉をサルダナ軍に正式に譲渡している。サルダナの軍人ではなくなったキーンだが、情報交換のため、週一程度でサルダナ軍本営にキャリーミニオンを飛ばして手紙のやり取りをしている。
いまのところモーデル軍に軍本営は設けられていないが、いずれ軍本営が設けられれば、自分が軍総長に就くだろうとキーン自身は勝手に思っており、いつも機嫌のいいキーンだがこのところいつも以上に機嫌がいい。
アービス連隊について言うと、セントラムとヤーレムの駐屯地を引き払い、全員聖王宮に隣接する駐屯地にモーデル軍として駐屯している。セントラムの駐屯地で雇っていた人員はそれぞれ別の駐屯地に異動している。モデナの駐屯地ではセントラムの駐屯地同様、モデナから厨房要員や厩舎要員を雇い入れている。
また、ゲレード中佐は大佐に、ボルタ兵曹長は中尉にそれぞれ昇進している。現在のアービス連隊の先任兵曹長は第1中隊の先任兵曹だったケイジ兵曹長である。第1中隊の先任兵曹は中隊次席兵曹が繰り上がっている。アービス連隊は名実ともにサルダナ軍からモーデル軍になったわけだが、兵隊たちの中でも多くの者が昇進している関係か、今のところ不平不満は出ていない。
メアリーについてはこれまでの宰相代行から代行を取って、正式にモーデル聖王国宰相を名乗っている。
当初、メアリーはエルシンとソムネアとの国境を心配していたが、セロトの4分の1がソムネアによって奪われたという情報がサルダナの情報部からキーンのキャリーミニオンによるサルダナ軍本営との手紙のやり取り経由でモーデルにもたらされた。その際、ソムネアはサソリ型の軍事アーティファクトを使用しており、セロトのダヤン将軍がその戦いの中で討ち死にしたことも伝わってきていた。それらの情報を入手時点でソムネアはなおも進撃を続けているとのことだった。
それに関連し、エルシンからもたらされた情報で、ソムネアの軍事アーティファクトの名まえだけはデクススコルプということが分かっている。
――先にセロトか。デクスシエロでデクススコルプを斃し、恩を売ってセロトを傘下に組み入れるとしよう。セロトとて、エルシン以下の国々がモーデルに臣従していることは承知しているだろう。使者を出して揺さぶるとして、ここモデナからセロトの都ハイネリアまで一月半。使者の到着前にソムネアによってハイネリアが陥とされている可能性もないとは言えないな。いっきにいくか。どれ、アービス大将は駐屯地かな?
聖王宮内の庁舎から駐屯地に出向いたメアリーは、訓練場で兵隊たちの訓練をゲレード大佐たちと並んで眺めているキーンに、
「アービス大将、おはようございます」
自分の名を大将付きで呼ぶメアリーの声に振り向いたキーンの顔が幾分緩んでいる。
「ソーン宰相、おはようございます」
「今後の展開についてお話したいことがありやってきました」
「分かりました。それなら会議室にいきましょう。
ゲレード大佐、ボルタ中尉、ソーン宰相が話があるそうなので一緒に聞きましょう」
会議室に入った4人がそれぞれ席に着いたところで、メアリーが話し始めた。
「セロトに侵入したソムネア軍は、現在は停止中とのことですが、このまま放置した場合、セロトがソムネアに飲み込まれる可能性があります」
ここまでは、もちろん出席者全員の共通認識だ。
「そうなった場合、当然セロトの多くの街が戦火に飲み込まれ、多くの兵士とともにセロトの国民にも犠牲が出るでしょう。
セロトに対して、モーデルへ臣従すればソムネアを退けると、このモデナから使者を出したとしても到着までに
それでは、セロト救援が手遅れになる可能性もあるため、こちらから先にセロトに侵入したソムネア軍を撃退してしまい、その後セロトに対し臣従を迫る。というのはどうでしょうか?」
「特に問題はありません。ソムネアの軍事アーティファクトがサソリ型のアーティファクトということですが、空を飛んではいないようですし、何とでもなるでしょう。自軍の軍事アーティファクトが簡単に斃れる姿を目の前で見せつけられれば、ソムネア兵たちも引くでしょう」と、軽く答えるキーン。
ゲレード大佐もボルタ中尉もキーンの言葉に頷いている。
「あとは、セロトに対する交渉ですが、デクスシエロでいきなり乗り込んでもいいし、兵隊たちを王宮に送り込んでもいいし」
「そうですねー。陛下の戴冠式でのエキジビションを見ていない各国に対して、教訓となるようデクスシエロでセロトの王宮に乗り込んだ上、兵隊たちも送り込んでしまうのはどうでしょう」と、ゲレード大佐。
「良いですね。それで行きましょう。
実施は明日でいいかな?」と、キーンがボルタ中尉に尋ねたところ、
「王宮一つ制圧する程度ですと、作戦は1時間もあれば完了できますから、用意するものもほとんどありませんので問題ありません」
とこともなげにボルタ中尉が答えた。
軍関係のことには素人のメアリーだったが、一国、それも大国に名を連ねるセロトの王宮の制圧など朝飯前と言わんばかりの物言いに、これでいいのか? こんなものなのか? と妙な気持になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます