終章 モーデル帝国

第315話 モーデル帝国構想。

[まえがき]

ここまでお読みいただきありがとうございます。いよいよ最終章。最後までよろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝。


 昨夜放ったパトロールミニオンがヤーレムの駐屯地に到着していたので、自称『転移使い』キーンは、ヤーレムに転移してみた。転移した場所は、駐屯地の門前である。ゲレード中佐が各中隊の訓練を見ていたので、後ろの方から近づいていったキーンは、


「ゲレード中佐、おはようございます」


「おっ! 連隊長。びっくりはしませんが、どうしたんですか?」


 ゲレード中佐が驚いてくれなかったので少々残念だったが、そこは仕方ない。


「ミニオンをここまで飛ばして、そのミニオンを介して転移でここまでやってきました」


「そんなことまでできるとは。さすがと言うか、本当に連隊長は何でもありですな」


「それほどでも。

 そうだ、ゲレード中佐、忙しくないようなら、ちょっとモデナまでいってみますか?」


「モデナまで? そうか、連隊長はモデナから今やって来たわけだから、転移で人も送れるということか。モデナに用事があるわけじゃありませんが、お願いします」


「それじゃあ、いきます。『転移!』」




 ゲレード中佐がモデナの駐留地に現れ、その後についてキーンが現れた。二人の近くにはパトロールミニオンが浮いていた。


「たしかにここはモデナの駐留地。一瞬でアノ距離を飛んだわけか。

 連隊長。ミニオンを介して自分を転移したということは、兵隊たちもミニオンを介して転移できるということでしょう。となると、ミニオンがいるところには、兵隊を送り込めるということですよね?」


 さすがはゲレード中佐だとキーンは感心した。


「そういうことです。まだ試したことはないけど、64人までなら一度の転移で運べます。それを10回繰り返したとして、2、3秒かな?」


 10数秒もあれば、1個連隊を転移で送ることができるわけだ。


「ミニオンはどこにでも潜り込むことが可能なのですか?」


「敵国の王都でも、王宮内の宮殿でも。ミニオンが飛んでいくのに多少は時間がかかるけど、デクスシエロからなら、どこにでも直接ミニオンを作れるからその時間もそんなにかからないはず」


「なんと! それでは兵隊同士の戦いなど無意味じゃないですか。いや、戦争そのものが無意味になる」


「そうかも。デクスシエロ自身も上空から好きなところに転移できるしね」


 中隊単位での魔術攻撃でさえやりすぎではないかとゲレード中佐は考えていたが、もはや戦争の意味さえなくなってしまうことに、急に力が抜けてしまった。


「連隊長。そのことを各国に教えてやれば、みな恭順するしか無くなります。連隊長は覇王となることも可能です」


「そうかもしれないけど、今はセルフィナさんが聖王だから、モーデル聖王国の名まえで各国に教えてやればいいかも」


「来年開かれる聖王陛下の戴冠式のとき各国の要人がこのモデナに招待されますからその時実演して見せればいいかも知れません。小官はサルダナの軍人ですが、全ての国がモーデルの傘下に入ることでこのロドネアに平和が訪れるのならば、結構なことだと思います」


「そうか。モーデルの傘下のもとに各国を入れてしまえば確かに戦争は無くせるんだ」


「そうなれば、モーデル聖王国はその昔ロドネアを統一していたというモーデル帝国ですな」


「モーデル帝国。……」


 キーンとゲレード中佐がそんな話をしていたら、訓練場の門からメアリー・ソーンが部下を数人連れてやってきた。


「アービス将軍、おはようございます」


「おはようございます。ソーン宰相代行」


 セルフィナの即位に伴い、メアリー・ソーンの肩書は宰相代行ということになっている。名目上の宰相をモーデルの名族から選んでくれとメアリーはセルフィナに頼んでいたのだが、セルフィナは、あえてしがらみを作る必要もないし、小国モーデルの名族よりサルダナの侯爵位のほうがよほど意味があるといって逆にメアリーに宰相就任を頼んだ。宰相就任を受けたメアリーだが、さすがに二十歳すぎの小娘が宰相を名乗るわけにもいかないと思い、宰相代行という肩書を作ったわけである。


「それで、どうしました?」


「実は、お願いがあってやってきました」


「何でしょうか。僕にできることならいいですよ」


 ゲレード中佐は、話を聞く前からキーンが安請け合いするので苦笑したが、実際大抵のことは簡単にやってしまうので、キーンの場合、安請け合いしたところで問題が起こることもまずない。


「ここモーデルはご存知のように大きな川がないため各所にため池を作って農業に使っているわけですが、それだけですとこれから開墾をするにあたって水が足りなくなります。

 それで、開墾前に大型のため池を何個か作っておきたいのですが、そのため池作りにお力をお借りできないかと思いやってきました」


「ため池はいままで作ったことがないから、はっきりとしたことはわかりませんが、要は、大きな穴を掘って、水が漏れないようにすればいいだけですよね?」


「その通りです」


「それなら簡単。場所がわかっているなら今からでもいって作ってしまいましょう。場所さえわかれば1つ当たり1、2分もあればできますから」


 このキーンの答えにメアリーはひどく驚いたが、ゲレード中佐は予想通りだったので顔の笑いをこらえるのに必死になった。


「図面はまだできていないので、作業の方はその後に改めてお願いします」


「修正は後からでも簡単ですから、図面は適当でいいですよ」


「は、はい。わかりました」


 メアリーは、義理の弟になるキーンのことを少々甘く見ていたようだ。


「ソーンさん」と、そこでゲレード中佐がメアリーに声をかけた。


「何でしょう?」


「うちの連隊長ですが、御存知の通り何でもできてしまいまして、その気になれば兵隊をどこの国の宮殿内にも流し込めるそうなんです。それにデクスシエロも一緒にです。

 うちの連隊長の実力を各国が知れば戦争自体無くなるのではないでしょうか?」


「仰ることが事実とすれば、確かにそうなるでしょう。そして仰ることは事実なんでしょう」


「聖王陛下の戴冠式に招かれる各国の要人に連隊長の実力をお見せして、その上でモーデル帝国の成立を宣言してはどうでしょうか? 目先の利く国ならモーデルの傘下に入ると思いますが」


「なるほど了解しました。前向きに検討します」


 キーンの副官のゲレード中佐が頭が切れるようなのでメアリーは少々安心した。

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