第312話 鎧袖一触(がいしゅういっしょく)
キーンはセルフィナをデクスシエロに乗せ上空からモーデルの各地を回っていたら、モデナに通じる街道を4本足の巨獣がエルシン方向から驀進してきた。巨獣の見た目は鎧を着た獅子である。
「なんだ?
あんなのが
セルフィナさん、ちょっと怖い思いをするかもしれないけれど、いまからこのデクスシエロであのバケモノを退治します」
幸いなことに峠の周辺には通行人や荷馬車などもいなかったので気にせず闘うことができる。
巨獣がモーデルと南東ギレアとの国境の峠を越えたところでキーンは後方から追い抜いて巨獣の50メートルほど前にデクスシエロを下ろした。
いきなり目の前に現れたデクスシエロに驚いたのか、巨獣はその場に停止した。
キーンは、正面から
「デクスシエロ、バタロ!」
デクスシエロが巨獣を前にして格闘戦の構えを見せた。『バタロ』は格闘戦専用のキーワードであると当たりを付けてはいたが、実際どういった働きがあるキーワードなのかは正確には分からなかったので、巨獣の動きをみて、敵が強敵のようなら魔術攻撃をしてやろうとキーンは考えた。
そういうことなので、キーンは敵の出方を待っていたのだが、いきなりデクスシエロがすごい勢いで巨獣に向かって駆けだした。
巨獣はデクスシエロのいきなりの突進に対して横に跳び退こうとしたが、一歩遅れてしまい、デクスシエロの体当たり気味の左の膝蹴りを左前足の付け根部分に受けてしまった。デクスシエロがめり込んでしまった膝を引き抜くと、巨獣の左前足が胴体からちぎれ、地面に落っこちて転がってしまった。
左前足を失い着地に失敗して体勢を崩した巨獣に対して、デクスシエロは先ほどの左足を軸にして右足を回し蹴った。デクスシエロの右足は巨獣の下半身を砕きめり込んでしまったがそのまま振り切ったことで、巨獣の下半身が向こう側に折れ曲がってしまった。
デクスシエロは回し蹴った右足を地面につき、流れるような動作で両手を合わせて振り上げ巨獣の頭部に振り下ろした。
巨獣の頭部は砕けはしなかったが、その一撃で頸椎か何かが折れたか外れたかしたようで巨獣の頭部は真下を向いてしまい、巨獣はそのままドウッっと街道の路面に倒れて、それっきり動かなくなってしまった。
「デカいだけで、弱かったですね」
「一体何だったんでしょうか?。形から言えば獅子?」
「エルシン方向からやってきたわけだからエルシンのアーティファクトだったのかも」
「アーティファクトだとすると相手が弱かったというより、このデクスシエロが強すぎたということかしら」
「いちおう、このデクスシエロは最強のアーティファクトのハズだから、強すぎたんでしょう。
そうだ。転移で動かしてやろう。このくらいの大きさなら転移できると思うけどどうかな?
転移!」
巨獣の残骸は、50メートルほど街道から離れた茂みの中に転移した。
「うまくいった」
「転移っていいなー。私も転移が使えるようにならないかな」
「宮殿に帰ってから、降りる時にコツを教えますよ。セルフィナさんならすぐに転移が使えるようになるんじゃないかな」
「そうだといいな」
「それでは、そろそろ宮殿に戻りましょうか」
「はい」
すでに二人は巨獣のことは忘れてしまっていた。
街道沿いの宿場町の食堂で食事を終えたガイ王子は、デクスリオンを置いた林に戻り、デクスリオンに再び乗り込んだ。デクスリオンはふたたび街道に戻って北に向かって走り始めた。街道を行き来する馬車や旅人たちはデクスリオンの姿に驚きその場で凍りついてしまうのだが、デクスリオンは器用にそういった馬車や旅人を避けて走り抜けていった。
街道を北上すること3時間。目の前の上り坂の先は南東ギレアとモーデルの国境のある峠だ。そのままデクスリオンは峠を駆け抜けていった。
峠を過ぎ、下り坂を少し進んだところで、頭上を影が追い抜いていった。影については気にもとめなかったガイだが、突然、目の前に6色の光をまとった青白い巨人が現れた。巨人を前にしてデクスリオンはその場で急停止した。6色の光の消えた目の前の巨人は青白い全身鎧を着ている。その巨人がデクスシエロかどうか確かめるすべはないが、行く手を塞いでいる以上倒さなければならない。
「デクスリオン、バタル!」
これで、デクスリオンは面倒な指示を出さなくとも目の前の巨人を斃すはずだ。
ガイがデクスリオンに指示を出したか出さないかのうちに、目の前の巨人が構えを取り、いきなり突っ込んできた。
後は、壁に映る外の様子が妙な具合に上下したかと思ったらいきなり大きな音と一緒に部屋の中が真っ黒になってしまった。
暗くなったのは一瞬だけだったようですぐに部屋の中に光が差した。その光は、壁が割れてできた隙間から差し込んだ外からの光だった。
なんとか小部屋の壁にできた隙間から這いだしたガイは、見事に破壊されたデクスリオンをみて言葉を失った。デクスシエロに対してデクスリオンは全く相手にならず、ただ破壊されただけだった。自分が生きているのはただただ運が良かっただけだ。痛みは感じなかったが左足を痛めたようで、ガイはうまく動かない左足を引きずりながら、南を目指して歩き始めた。
無断でデクスリオンを駆りだしたあげく、完全に破壊されてしまった。父王に知られれば大変なことになる。このまま
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