第295話 エルシン王宮
ここはエルシンの王都エルシオン。その中央にある王宮宮殿内のエイ6世の執務室。
この時点では、モーデル解放軍によってモーデルが解放され、エルシン勢はエルシンへ退却中であるという報告はエルシオンの王宮まで届いていない。
「陛下、北方の空に凶星が昇りました。現在も輝いております」と、王宮全般を取り仕切るカオ宮内卿がエイ6世の執務室を訪れ報告した。
「なに? 凶星?」
「はい。おそらくはモーデルの地より昇ったものと思われます」
執務室をでたエイ6世が北側の窓から空を望むと、たしかに青空の中、明るく輝く星が遠方の山の稜線の上に見えた。北からやや東に寄っているところから、確かにモーデル方向である。星に対して昇ったという表現は普通ではない。
「もしや、デクスシエロが
デクスシエロの搬出ができないのなら、地中に埋るよう指示しておったはずだが、どうなっておる?」
「モーデルの宮殿内に掘られた大穴の底で発見されたデクスシエロを搬出しようと試みましたが、大穴は
そのため、ご指示通りデクスシエロを埋めるため大穴に土砂を投入しております」
「それで、デクスシエロは完全に埋めることができたのか?」
「モデナでは限られた人夫しか手当できなかったでしょうし、直径が20メートルもある巨大な穴でしたので、おそらく工事は未完であったと思われます」
「いまさら、なにを言っても仕方がないが、あの光がデクスシエロとして、デクスシエロが空に昇ったということは、いまの聖王ではなくモーデル帝国の真の後継者が現れたということだ。
わが王家に伝わる秘書によると、全ての軍事アーティファクトはデクスシエロを完成させるため造られた試作に過ぎないそうだ。いかにわが国の軍事アーティファクトが強力であろうともデクスシエロには歯が立つまい。デクスシエロがその気になれば、このエルシオンも一瞬で灰になるとも秘書にあった。よもや秘書に偽りが書かれてはおるまい」
「あの光が本当にデクスシエロなのか確認しなければなりません。現在聖王都モデナに派遣しております者に命じて至急確認させます」
「聖王をこのエルシオンに幽閉して以来モデナの人員は減らしていたのではないか?」
「左様でございます。官僚を20名と兵を200ほどをモデナに残しておりました」
「デクスシエロさえ無力化できればモーデルなど不要の地ではあるが、官僚はいいとしても兵の数が少なすぎないか?」
「犯罪などもほとんど起こらない地のようですし、モーデルの民は牙を抜かれた虎のごとく大人しく、反乱などの心配はないとの判断でございます」
「そうであったな。
聖王の男系の血筋を絶やしたいが、私の名まえで聖王を害することは
「今はこのエルシオンに聖王陛下を軟禁しておりますから、その胤が続くことはありません」
「これからのことではなく、目の前のあの光が問題ではないか。あれがデクスシエロなら、聖王の実の
「陛下、穴の周りには
「では、あの光はデクスシエロではないということか?」
「その可能性はあります」
「望みは薄いがな。ここはデクスシエロだとしてどうするか考えねばなるまい。これまでモーデルに対してわが国がなしたことを考えれば、このエルシオン、いやエルシン全土が焼き払われるやもしれん」
「陛下、それは大げさでは?」
「大げさではないぞ。数百年も昔の話だが、今のソムネアの地にサゴという国があり、周辺国と
「存じております。
それでは陛下、いかが致します?」
「デクスシエロを操る者、モーデルの後継者をなんとかして斃すことができれば一番良いが、しくじればただでは済むまい」
「優秀な刺客を探してみますか?」
「使う使わないは別として、刺客は用意しておいたほうが良かろう。相手の人物を見て付け入るすきがありそうなら試すこともあるかも知れぬからな。しくじればこのエルシンが文字通りなくなるわけだから、最終手段だ。
あの星がデクスシエロであるとして、
デクスシエロを操る新たなる覇王より警告がくる前に、モデナの王宮から持ち出したものを返して、さらにそれなりのものを添えて聖王をモーデルに送り返す。
モデナから持ち出した金品は処分してはおらぬだろうな?」
「王宮の宝物庫に収めております」
「ならよい。そういった
「モーデルの王太子は?」
「病死したことにせよ。デクスシエロに乗っているのはモーデル帝国の後継者であり、聖王の息子だ。いまさら弟など欲しくはなかろう」
「承知しました」
……。
しばらくエイ6世は空を眺めていたが、
『星ならわずかずつではあるが空を動く。しばらく眺めていてもあの光は一向に動かぬ。少なくとも星ではない。デクスシエロと考えるよりほかあるまい。
わが覇業もここまでと考えなければならぬのか』
それからしばらくモーデルの上空に輝く星を眺めていたエイ6世はその星がモーデルの地に驚くべき速さで沈んでいくのを眺め、深く息を吐いた。
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