第296話 翔べ! デクスシエロ3、操作。


 エルシンの国王より覇王認定されたキーンは、そのころロドネアはるか上空で焦っていた。


 上空に昇っていい気になってロドネアの各地を眺めていたが下り方が分からない。意識を凝らせばモデナの宮殿の中庭が球型の壁に映るので転移で帰ることはできるが、デクスシエロを上空で投げ捨てることになってしまう。この高さから落下したとしてもデクスシエロなら大丈夫そうだが、落ちた先に何があるか分からないし試すわけにはいかない。


『試しに、他のキーワードを使ってみるしかないか』


「デクスシエロ、バタル!」


 キーワードをキーンが口にしたが何も起こらなかった。


『変だな。なにか変わったところはないか?』


 小部屋の中はもちろん何もないので変化はなかったが、壁に映っていたデクスシエロの四肢がわずかに動いて、拳を固めて半身になっているようだ。


『これって、素手で戦う前の格好じゃないか? 「バタル」と言うのは「闘え」なのかもしれない。相手がいれば闘ったんだろうけど、今は相手がいないから格好だけ。

 じゃあ、「フェンディ」ってなんだろう?』


『わからないときは、試してみるしかないけど、どう見ても「下りろ」ではなさそうだし、なにか嫌な予感がする。

 もう少しはっきりするまでこれはめておこう』



『整理してみよう。

 まず、アイヴィーが教えてくれたキーワードは「ソウ」「バタル」「フェンディ」の他になかったけれど、古文書には他にもキーワードがあった可能性もある』


『飛んだ後、下りる、または戻るにはキーワードがなく、他の方法がある』



『整理したけど、これくらいしか思いつけないし、どっちもどうしようもないじゃないか。困ったー』


『そういえば、「ソウ」で飛んだのはいいけれど、真上に上がっただけでそれっきりだ。これだと「翔べ」じゃなくて「昇れ」になってしまう。それだといちおう3つしかないキーワードなのにあまりに範囲が狭い。そう考えると、やはり「ソウ」は「翔べ」で、飛び回るために何か細かな操作をする方法が他にあるはずだ』


『まず、キーワードとして最初に口にする「デクスシエロ」という呼びかけ。

 このあと、他のキーワードが続くけど、何もキーワードを口にしなければデクスシエロはずーとキーワードを待ってる? 待ってるということは聞いているってことだよね』


 徐々にキーンに調子がでてきた。


『問題は僕の言葉ではデクスシエロに通じないということ。ということは言葉ではなく僕の「思い」を伝える方法を考えればいいわけだ』


『例えば、デクスシエロから転移で外に出た時と同じように、デクスシエロが空から下りて元の中庭に戻っていることを頭の中で考え「戻れ」とか言ってみればいいかもしれない。

 頭の中で考えたことに反応するくらいじゃないと、機敏な動きなんかできないから、きっとそうに違いない。まあ今回は魔力が巡っているのを意識する必要はないかもしれないけど』


 などと、自分の考えに自分で納得したキーンはさっそく試してみることにした。


 まずは、デクスシエロが命令を聞く状態にする。


「デクスシエロ!」


 そして、念のため身体の中に巡る魔力を意識しながら、デクスシエロが宮殿の中庭に舞い戻る姿を思い描く。


「……、戻れ!」


 キーンが戻れと口にする前から、小部屋の中の壁に映っていた周囲の景色は上に流れ始めていた。


『やったー!

 思った通りだった。よかったー』


『待てよ、デクスシエロから転移で外に出たときはキーワード『デクスシエロ』なしで転移できたけど、あれは?

 ああそうか、あの時はデクスシエロの力で転移したんじゃなくて僕の力で僕が転移したからか。あそこで「デクスシエロ、転移!」とか言ってたら僕が転移するんじゃなくて、デクスシエロの転移の力でデクスシエロが・・・・・・・転移してたかもしれないんだ。そうしたらゲレード中佐たちはびっくりしただろうな。

 そう簡単じゃないと思うけど、デクスシエロの転移はいずれ試さないと』


 うまくデクスシエロを操ることができたおかげでキーンに余裕が戻ってきたようだ。


『こうなってくると、やっぱりデクスシエロに大剣を持たせたくなるな』


『どこか真っ直ぐな木を探して、木の大剣を作って、それを変性して立派な大剣を作ってやるからな! 期待して待っててくれよ、デクスシエロ!』


 デクスシエロはキーンの頭の中ではすでに長年の相棒である。




 デクスシエロがようやく下りてきた。すごい速さで下りてきたが地面に下り立ったときにはフワリと言った具合で緩やかなものだった。デクスシエロの中にいたキーンには揺れも振動も伝わってこなかった。


『デクスフェロを操っていたジェーンの弟は穴に落っこちた衝撃で亡くなったけど、デクスシエロの中では衝撃どころか揺れも伝わらないようだ。これならなにかのはずみで転んでもなんともなさそうだ。そういえばこれまで何度かデクスシエロが傾いたはずだけど、僕自身はこの丸い部屋の中でまっすぐ立ってる。この部屋はデクスシエロがどういった姿勢をとっても傾かないんだ。それはそれですごいな。さすがは最強のアーティファクト。

 ゲレード中佐たちも話を聞きたいだろうから、そろそろここを出て、帰るとするか。

 転移!』



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