第299話 ローエン海軍1、出撃

[まえがき]

2022年5月29日。大陸がただ一つの状態で、「大陸」という概念が生まれるとは思えなかったため、本文中で「大陸」という言葉を削除し、「ロドネア」に統一しました。ロドネアは大地(アース)と言った意味になると思います。

◇◇◇◇◇◇◇



 ローエン海軍では120本オールの大型ガレーと、40本オールの標準ガレーを軍艦として採用している。


 120本オール艦は艦首に敵艦に体当りするための衝角しょうかくと2本のマストを持つ2段オール式のガレーで、1本のオールに3名の漕手が付き、片舷30列、両舷合わせると、30列×上下2段×両舷2で120本のオール、漕手360名+控え漕手120名、それに20名から30名の下士官、士官が乗艦している。控え漕手は海戦中は弓兵として敵船に矢を放ち、敵船に接舷すれば切り込み兵になり、岸に上がれば襲撃隊となる。また、艦上には上陸用として4艘の10人漕ぎボートを積み込んでいる。その10人漕ぎボートには漕ぎ手と合わせて20人ほど乗船することができる。


 これに対して40本オール艦は、1段オールのガレーで、衝角とマストを1本持つ。1本のオールを2名の漕手が漕ぎ、片舷20列、漕手80名、控え漕手80名、下士官、士官が10名ほど乗艦している。控え漕手は120本オール艦の控え漕手と同じ役割を持つ。漕手と控えの比率が同じであるため、120本オール艦に比べ長時間高速が発揮でき、漕手一人あたりの艦の重量が比較的軽いため最高速度も高い。こちらは、2艘の10人漕ぎボートを積み込んでいる。




 今回ローハイム艦隊は、半数出撃で120本オール艦5隻、40本オール艦30隻という陣容でセロト西海岸を襲撃すべくその日の早朝ローハイム港を出撃している。中央に120本オール艦5隻で1列、その両脇を15隻の40本オール艦が縦列で並走する形だ。


 艦隊合戦準備の旗が旗艦の後部マストに上がると、40本オール艦は速度を上げながら左右に広がっていき、最終的には中央の120本オール艦は単縦陣を保ったまま40本オール艦が左右両翼に広がる変則単横陣の合戦陣形ができ上る。小規模な襲撃などでは、そういった陣形はとらず、40本オール艦が敵の規模に応じて艦隊から分離して襲撃することになる。


 これが、艦隊全力出撃の場合、中央に120本オール艦5隻2列を挟んで左右各30隻の40本オール艦が並走することになる。合戦準備となると中央の2列はそのまま直進し、40本オール艦が増速しながら左右に広がっていく。


 今回の出撃では、第1次ボスニオン会戦でボーゲン将軍の取った戦法を取り入れ、火矢に染み込ませる油として、火が付けば、視力を奪い呼吸困難にさせる煙を出す例の魚油を用意している。もちろん海戦前には乗組員全員解毒剤を飲む前提である。


 艦隊は時速6キロから8キロといった速度で東に進んでいった。


 乗組員たちは昼前に交代で食事をとり休憩してたところ、南東の空に明るく輝く星が上り、その後しばらくして見えなくなった。


 当初、艦隊各艦で乗組員たちが騒いだが、それぞれの艦の艦長の指示で士官や下士官が「瑞兆だ」と大声で触れて回ったところ乗組員たちは落ち着いた。



 その後、艦隊は出会ったセロトの艦船を無差別に撃沈していき、あの星はやはり「瑞兆」だったのだと大いに士気が上がった。



 そうやって、1週間ほどセロトの西海岸を荒らした艦隊はいったんローハイムに帰還した。




 ローエン湾の湾口東側に張り出したカスコ岬の先端にレマという港湾都市があり、セロト海軍の拠点ともなっており、20隻ほどの大型ガレーと40隻ほどの中小型ガレーが常時停泊している。


 これまでローエンはセロトと本格的開戦を望んでいなかった関係で決戦に及んでいなかったが、今回陸海合同での東進作戦を展開するにおよび、ローエン艦隊は このセロト海軍を撃破するため艦隊全力となる120本オール艦10隻、40本オール艦が60隻で再出撃した。


 今回初めて使用したいぶし矢・・・・の威力が予想以上だったため、ローハイム艦隊ではセロト海軍の軍船を完全撃破するつもりでの全力出撃である。いぶし矢であるが、強風時はこれほどの効果は期待できないが、そもそも強風時や雨天時には、どこの艦隊もよほどのことがない限り海戦を避けるためまず海戦は起こらない。




 ここはローハイム艦隊旗艦ネベンケブラ。ローハイムを出撃してすでに1週間ほど経っている。


 現在ローハイム艦隊はローエン湾を時速6キロほどでセロトの西海岸沿いを北上中で、位置はレマの南南西約70キロ。太陽は中天に差し掛かる前だが、すでに艦隊内では交代で昼食は済ませている。


 風は緩やかな南風で海面はほぼいでいる。


 旗艦ネベンケブラの120本のオールの動きは太鼓手が艦内で叩くドラムの響きに合わせてゆったりしたものだ。マストに張られた四角帆スクエアセイルはわずかに風をはらんでいる。


 上甲板より一段高いところにある艦首露天艦橋の上に立つのはローハイム艦隊総大将、ヒルマン・モンドー海将。つば広の丸帽の下の顔は赤銅色に日焼けしている。帽子を取れば、眉間みけんの白茶けた傷跡が見える。モンドー海将の後ろには副官が控えている。


 ネベンケブラの艦長は今は艦尾露天艦橋で舵を操る2名の操舵手の隣りに立っている。



 ローエンの艦隊が北上中であることは、セロト側の海岸からでも遠望できる。港で在泊中に襲撃されればなすすべもなく殲滅されるため、セロト艦隊は出航して迎撃するか、東に向けて逃走を図るしかない。戦力的にも技量的にもローエンに劣るセロト艦隊だが、大国の意地もあるため、必ずセロト艦隊は海戦に応じるものとモンドー海将は考えていた。


「そろそろじゃないか?」と、モンドー海将が呟いた。


 そのときちょうど、前方マスト上の見張り台に立つ見張り員が艦影発見を大声で告げた。


「艦首右1点(注1)、艦影発見! 距離16キロ(注2)」


「進路変更右1点」と艦尾の艦長が操舵員に指示を出した。艦尾の操舵員が右に1点分舵をきり、ゆっくりと艦の向きが変ったところで、


「舵中央」の艦長の声。


 その声で、副官がモンドー海将に、


「合戦準備始めます」


「頼む」


 副官が後方に向けて「合戦準備!」と叫ぶ。


 後部マストの上に合戦準備を表す旗がシュルシュルと上った。すぐに展帆中の帆が引き上げられ展帆用の横木ヤードくくりり付けられた。




注1:

1点、90度を8等分したもので、11.25度に相当します。


注2:

航海術から言って海里使用が妥当なのでしょうが、ここではキロで表しています。



[あとがき]

ガレーでの海戦に何となく興味があったので少し書いてみました。本編にはほとんど関係ありませんでしたー。m(_ _)m

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