第298話 ローエン、セロト侵攻。東進作戦

[まえがき]

ここから、数話閑話的なものが入ります。あとがきに本編に関連する解説を入れているため、あえてサブタイトルには閑話と付けませんでした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ローエンの王都ローハイムは港湾都市でもあり、港の一画はローエン海軍の拠点となっている。


 キーンがデクスシエロに乗り込み、初めて空を飛んだ日の朝。


 ローハイム港からローエン海軍のローハイム艦隊がセロトの西沿岸に点在する港湾を襲撃するため出撃していった。


 ちなみにローエン海軍には今回出撃したローハイムを拠点とするこのローハイム艦隊の他、ローエンの西海岸を拠点とするローエン西艦隊があり、西艦隊は主にダレンに対しにらみを利かせている。



 ローハイム艦隊がセロトの沿岸を目指すかたわら、陸では10万のローエン軍の将兵がすでにセロトとの国境線に沿って1万単位で布陣・・しており、セロトへ侵入の構えを見せていた。


 そして、主力となるダイアナ・ボーゲン将軍麾下の10万の兵はサルダナ王国の了承のもと、クジー要塞を目指してサルダナ北部を移動中だった。セロトの西部沿岸地方と西部諸都市にセロト軍を誘引後、ボーゲン将軍の率いる主力がクジー要塞から出撃し、後方からセロト軍を挟み撃ちにする作戦である。この作戦に、サルダナはランデル大佐の騎兵連隊より1個中隊100騎を貸しだしている。ローエン軍は光の騎兵隊を部隊間の連絡要員として使うつもりである。


「海軍も今朝方けさがた出撃したはずだ。明日の午後にはセロトの港湾を襲撃する。われわれは急ぐ必要はないのでゆっくり進んでいこう」


 馬上のボーゲン将軍が、後を進む馬上の副官に告げた。


 副官はうなずきながら、ふと、南東の方角に目をやると、真昼の星が輝いていた。


「将軍、右手前方の空に星が輝いています」


「ほんとだ。昼間の星とは珍しいな。ああいった物を目にすると、凶星だとか、良からぬことが起こる前兆だとか騒ぎ出す者もいるが、星がどうなろうと世の中が変わるわけわけは無いのにな」


「おっしゃるとおりです」


 後ろを進む兵隊たちは自分たちの指揮官を信頼しきっているのか、昼間の星を見て騒ぎ出すような者はおらず、粛々と行軍を続けている。


 そうやって15分ほど進んでいたのだが、


「あの星の位置だが、先程からまるで動いていない。おかしいな」


「はっきりとは分かりませんから、もう少し様子を見ましょう」


 星を意識しながら進んでいたら、星が下に向かって下がり始めたではないか。


「どうなっているんだ。地面に星が落ちてしまうぞ。あの方角はモーデルか?」


「おそらくその通りかと」


「星が落ちれば、そのうち噂も流れてくるだろうが、少々気味が悪いな。

 いや待てよ、そういえば、エルシンをモーデルから叩き出すためキーン・アービスが自分の連隊を率いてモーデルに向かうという話があったが、もしや、今の星はキーン・アービスが」


「将軍、それは考え過ぎではありませんか?」


「たしかに、考えすぎだな。いくらキーン・アービスであろうと星を落とせるはずはないものな。ハハハ」




 こちらは、ローエンの都ローハイム。


 ローエンの王宮はローハイムの街並みを見下ろす丘の上にありその中心にローエンの軍事アーティファクトであり守り神でもある『守護の灯台』が建っている。


 その日、王宮からも昼間に関わらず輝く星が南東方向から昇るのが見えた。残念ながら、ローエンにはデクスシエロに関する言い伝えのようなものは残っておらず、王宮内にいた官僚や警備の兵士たちもただその星を眺めるだけだった。



 南東の空に星が昇ったという報告を受けた国王サンアレク1世も、宮殿の最上階に上がり南東の空を眺めたところ、確かに星が輝いていた。


 方向はモーデル方向であり、モーデルといえば、エルシンをモーデルから追い払い、モーデルの姫君をモーデルに帰還させるため、若年の大魔術師キーン・アービス率いる2000名が向かっているとサルダナから知らされている。


 あのキーン・アービスが何かしたのだろうかとふと思ったが、さすがに昼間の星とキーン・アービスでは繋がりようがないので、その考えはすぐに忘れてしまった。しばらく星が輝いていたが、気がつけば星は見えなくなっていた。あとで家臣に尋ねたところ、山の端に沈んでいったという。


「不思議なこともあるものだ。良からぬことが起こるやもしれぬし、よきことが起こるやもしれん。こういったものは気にするだけ無駄だな。こたびもわが姪、ダイアナに任せておけば間違いあるまい。

 どれ『守護の灯台』に入ってひとわたり様子を見ておくか」




 サンアレク1世は誰も従えず、宮殿から『守護の灯台』の前までやってきた。陽の光を浴びて青白く『守護の灯台』はそびえ立っている。


『ガルドリムトロ、アジャタント!』」


 サンアレク1世が呪文のようではあるが意味不明の言葉を唱えると、その姿が消え、『守護の灯台』の中の丸い小部屋の中に現れた。転移である。サンアレク1世自身今の言葉は呪文と捉えており、言葉の意味など考えたこともなかった。


 すぐに部屋の中が明るくなり、丘の上にそびえ立つ『守護の灯台』から眺めた景色が球面の壁に映し出された。


 父である前王から教えられた『呪文』を初めて唱えて以来、サンアレク世はこの部屋はこういったものだと思っているわけだが、実はデクスシエロ内の小部屋そっくりだった。


『椅子でもあればいいが、ここには衣服の中に入れることのできるものくらいしか持ち込めないのがつらいところだ。この歳になると、立ち詰めは堪える。そろそろ息子に譲れということだろうな』


『守護の灯台』からは陸地方向なら20キロ、海側ならば40キロの範囲が見渡せる。大型船のマストなら45キロ先まで見分けることができる。しかも意識をこらせばその範囲内のものなら拡大されて詳しく見ることができる。


 そして、対象を意識したサンアレク1世が『ガルドリムトロ、フェンディ・・・・・』と唱えれば、対象は一瞬のうちに焼き払われ跡形もなくなる。


 朝方出航していったローハイム艦隊は、時速6キロから8キロで東進しているはずだ。そう思って、サンアレク1世が東の海を見渡していると中1列が大型のガレー、その両脇を小型のガレーが並走し東進している艦隊を見つけることができた。その後、ローエン港に出入りする商船などを一通り観察し、港の賑わいに満足したサンアレク1世は、


「ガルドリムトロ、アジャタント!」


 もう一度、最初の呪文・・・・・を唱えた。


 その瞬間、サンアレク1世は『守護の灯台』の前に立っていた。







[あとがき]

お分かりのことと思いますが、『ガルドリムトロ』は『守護の灯台』の本当の名まえになります。アジャタントはサンアレク1世の姓ではありません。意味合い的には『副官』とかそんなものになります。デクスシエロのキーワード、インペルムはたまたまモーデル聖王家の姓ですが、実際は『皇帝』を意味しています。

また、デクスフェロ、守護の灯台などは、デクスシエロのプロトタイプにあたります。

キーンはデクスシエロから出る時、苦労して自分で『転移』しましたが、実は「デクスシエロ、インペルム」と口にしていれば、簡単に出ることができました。でないと、転移できない人が乗り込んでしまった場合、中で干からびちゃいますからね。

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