第305話 一時帰還
キーンたちは2日ほどでセントラムから送られてきた官僚団と近衛兵団からの派遣部隊に対し引き継ぎを終えた。
引継ぎが終わったところで、メアリーに乞われるまま、キーンはデクスシエロを官僚団に披露した。
宮殿中庭の大穴の底に置いているデクスシエロに乗り込んだキーンは、大穴の底から訓練場上空まで
「うおっ! 今のは『転移』!?」
「驚かせて申し訳ありません。最初はこのデクスシエロが転移で僕を中に入れてくれたんですが、そのうち自分でも転移ができるようになったもので。便利ですよね、『転移』」
『転移』は確かに便利は便利なのだろうが、魔術など素人の自分に、しかも幻の魔術とも伝説の魔術とも言われている『転移』について「便利ですよね」と言われても答えようがない。と、メアリーは思いながらも
メアリーは目の前の青白い巨人を再度見上げ、
――目の前の巨人は最強のアーティファクトと言われているそうだが、確かにこんなものが敵の前に現れたら、現れただけで敵は総崩れだ。
――しかもこの巨人は大木のような真っ黒い大剣を地面に先を突いて支え持っている。こんなのを叩きつけられたら真っ二つではなくペシャンコになり、地面には大穴が空いてしまう。
――この巨人が戦いだけでなく、何か他に役に立てばありがたいのだが。例えば運河や用水路建設。山の切り拓き。
などと考えていた。
メアリーの考えた「役に立つこと」は全てキーンにかかれば簡単なことだった。
キーンがメアリーたちにデクスシエロを披露した数日後には、サルダナから追加の近衛兵団3個中隊が到着し、モーデル国内の街道を警備していたモーデル解放軍の部隊も全て駐留地に引き上げを完了した。
官僚団たちについては、聖王宮内の旧庁舎に移り業務を再開している。
官僚団たちは最初の業務としてモデナから人を雇い入れ聖王宮内の整備を開始しするとともに、モデナ内の各所にある役場の業務を再開させていった。モーデルでもサルダナ同様10月から11月を納税期間としていたが、今年の納税は免除することになった。これはキーンが金銀を大量に残したから可能だったのである。
貨幣の鋳造については、国内で鋳造できる
それとは別に、サルダナ軍がモーデル各所の警備を行っている現状を変えるため、年明けには兵を募りモーデル軍を組織して順次引き継いでいくことにしている。軍制はサルダナに習い、当面サルダナから派遣されている近衛兵団の兵隊たちが教官を務め新兵たちをサルダナ式に訓練する予定だ。兵の募集年齢は15歳以上30歳までとしているので、旧モーデル軍の軍人も多数応募するものと思われる。
そして、最も大切なセルフィナのモーデル帰国は10月下旬。聖王として即位は帰国次第。正式な戴冠式は翌年の3月末ということで準備することになった。セルフィナの父ロベルタンは行方不明のままであり、前聖王扱いになっている。元王太子も同じ扱いである。
サルダナに引き上げるモーデル解放軍あらためアービス連隊は駐屯予定のヤーレムに最低でもセルフィナのモーデル帰国まで駐屯することになる。セルフィナの帰国時の護衛は当然近衛兵団の部隊が受け持つのだろうが、ヤーレムから先はアービス連隊から部隊を出して護衛することになるだろうとゲレード中佐は予想している。
また、セルフィナの戴冠式には当然サルダナからも高官貴族が参列するが、キーンは伯爵であり公にはされていないが新聖王の異母兄に当たるため、式典にはサルダナの高官貴族扱いとし参加することになるだろう。
今日はモーデル解放軍を解散して、アービス連隊としてサルダナに帰国する日である。わざわざアービス連隊をモーデル解放軍としたが結果的にあまり意味はなかったとゲレード中佐は思っていたが、もちろん口には出していない。
駐留地の訓練場に兵隊たちを集合させたキーンは、
「今日をもってわれわれはこの駐留地をはなれ、ヤーレムに向かいそこで駐屯することになります。名称もモーデル解放軍からアービス連隊に戻ります。
今回の出陣では戦いもなくここまで来ましたが、気を抜くこと無くヤーレムまで帰りましょう」
兵隊たちはすでに行軍用の出で立ちで、背嚢を背負い、腰に剣を佩き手には黒槍を持っている。
キーン以下3名が騎乗したところで、
「それでは、アービス連隊、
連隊長殿に続き第1中隊から順次行進始め!」ボルタ兵曹長が号令をかけた。
部隊は聖王宮の正門前で方向を変えモデナの北門まで続く大通りに入っていった。正門前にはメアリー・ソーン以下の官僚たちが見送りに出ている。キーンは馬上からメアリーに軽く敬礼した。
『
これは、その時のメアリーの感想である。
大通りをアービス連隊は足並みをそろえ行進していく。今回は長槍に楓の紋章の小旗は付けていない。モデナ入城時には通りの人影はまばらだったが、今では多くの人が通りを行き来しており、アービス連隊の行進を道の両側に
デクスシエロは、モーデルのアーティファクトでもあるし、適当な置き場所が思いつかなかったため、大穴の底の窪みに残している。
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