第303話 引き継ぎ3、置き土産2


 転移魔法を使って正面の扉の真ん中を切り取ったキーンは意気揚々と倉庫の中に入っていった。


 もちろん中の金属の小山群に変化はない。


「目的は金貨を作ることだ。金貨って純金じゃ柔らかすぎるしもったいないから、銀とか銅を混ぜると聞いたことがある。ついでだし、金が10トンなら銅はいいとして銀を2、3トン分運んでおくか。だけど、銀貨も銅貨もあった方がいいから、どれも10トンずつ持っていこう。どうせミニオンが運ぶんだから問題ない。

 とはいえ、重さを測るものもないし、適当に運んでいくしかないな。銀も銅も金の半分くらいの重さだったはずだから、金の延べ棒は350本でいいはずから、銀と銅はそれぞれ700本だ」


 キーンは先程まで自分が乗っていた強化パトロールミニオンはそのままに、今度は素材をキャリーミニオンとした強化キャリー・・・・ミニオンを3個作り出した。込めた魔力は強化パトロール・・・・・ミニオンのときの10倍ほどなのでかなりのものを運べるだろうと期待している。


 キャリーミニオンは自分では数を数えることはできないので、キーンが転移を使って金の延べ棒350本、銀と銅の延べ棒それぞれ700本を小山を3つ作り、それぞれを強化キャリーミニオンに運ばせることにした。


 金属の延べ棒を大量に腹の中にしまったキャリーミニオンは不格好に膨らんでしまったがそれでもちゃんと浮き上がっている。金を飲み込んだミニオンで直径が1メートルちょっと、銀と銅を飲み込んだミニオンでその3割増といったところで、思ったより小さかった。


「見た目はちょっと悪いけど、誰も見ていないし、いいかな。

 それじゃあ、キャリーミニオン、宮殿中庭まで移動してそこで待機だ!」


 3個のキャリーミニオンが順に倉庫からでていき、キーンは最初の強化パトロールミニオンに乗って後を追おうと思ったが、60センチではやはり狭く乗りにくかったので、強化パトロールミニオンは消して、空飛ぶ6角盤を新しく作ってそれに乗り込んで後を追った。


「扉も壊したままだけど、どうせそのうち勝手に直るだろうからこのままでいいよね。

 こうして、キャリーミニオンの動きを後ろから見ても、ふらふらするわけでもなくしっかり飛んでエライもんだ」


 などと感心しながら後を追うこと40分程で大穴の底に到着した。キャリーミニオンは止まることなく最初の指示通り大穴を昇っていき、以前土砂を固めたサイコロを置いていた場所の上で停止した。





 キーンは乗っていた空飛ぶ6角盤から地面に降りて宮殿1階の中庭への出入り口を大きく開け放ち、キャリーミニオンを宮殿の中に入れた。


「さて、どこに置いておくかな。それなりに重いものだから、床が抜けては大変だし、どこかいいところはなかったかな?」


 宮殿内は初日にくまなく調べたが、床の強度まではわからないので、30トンもの金属をどこに置いていいのか分からない。


『何も宮殿の中にこだわる必要もないから、兵舎の一部屋の床を抜いて、地面に穴を掘ってそこに積んでおくか。穴の底と壁をコンプレスで固めておけば大丈夫だろう。駐留地ならいつも兵隊はいるから宮殿よりも警備は万全だ。実際は、また取りに行くのが面倒なだけで、全部盗まれてもたいしたことないけど』


 金で言えば、一山7000トンの数ある小山の中から10トン分抜き出しただけである。まさに微々たるものである。


 いったん宮殿の中に入ったキーンだが、宮殿内を移動しなくても直線的に駐屯地に帰ったほうが速いので、出入り口前に置いていた空飛ぶ6角盤にもう一度飛び乗って、宙に舞い上がり強化キャリーミニオンを引き連れてそのまま真っすぐ駐留地に帰っていった。



 駐留地で訓練していた中隊長や兵隊たちは、キーンが変なものに乗ってさらに後ろに奇妙に膨れたミニオンを連れて帰ってきたのを目にしたが特に気にすることもなく訓練を続けていた。毎日のように派手に光り輝くデクスシエロがそこらを翔び回っていたわけで、その程度では誰も驚かないのである。


 キーンは空飛ぶ6角盤から降りて、迎えたゲレード中佐たちに向かって、


「金、銀、銅それぞれ10トンずつ持ってきました」


「持ってきたということは、この駐留地にですか? 確かに後ろのミニオンは大きい上に腹が膨らんでる」


「30トン全部を宮殿の床の上に置くと床が抜けるかもしれないので、それくらいならこっちの方がいいと思って持ってきちゃいました。適当な兵舎の部屋の床を抜いて、そこに穴を掘って置いておこうと思っています」


 総大将がやることなので誰も文句は言えないが、やることが荒っぽい。と、ゲレード中佐が思った。とはいえ、たしかに30トンもの金物かなものを床に積み上げて置けば、大抵の床は抜けてしまうのも事実。平たく均して置けばかなりの量を置くことができるだろうが、それくらいなら自分で穴を掘って地面に直接置いたほうが簡単だし建物的には安全に違いない。


 使っていない兵舎の一棟のうち、あまり傷んでいないものを見つけて、キーンはキャリーミニオンを連れていった。


 先に作業しないと運び込めないので、キーンは延べ棒を腹の中に入れたキャリーミニオンを玄関前に残してその兵舎の中に入っていった。


「どうせ使っていない兵舎だから、出し入れが簡単なように玄関の隣の部屋にしよう」


 玄関から入って左隣の部屋の扉を開けると、都合がいいことにその部屋は大部屋ではなく物置か何かだったようで床の上にはないもない状態だった。




 壁際に沿ってエアカッターで床板を切り取っていく。床板は土台となる横木の上に張り付けられていたので、土台の木材も切り取っていく。


 できた端材はキャリーミニオンが運び出して兵舎の外に出し玄関脇にひとまとめにしていった。あっという間に床は剥ぎ取られた地面の上には何もなくなった。


「土台の木材も切り飛ばしたから兵舎自体が弱くなったと思うけれど、一部屋ひとへや分くらいで兵舎が崩れはしないはずだから」と、自分を納得させたキーンは作業を進めていく。


「次は穴掘り。後で固めるからその分広がるので、ここは幾分狭くディッグアース」


 掘り返された土砂は兵舎の玄関脇、切り取られた床材の小山の反対側に移動していき小山となった。


「それから、底と四方の壁を固めるコンプレス」


 部屋の大きさとほぼ同じ大きさで深さ3メートルほどの四角い穴が空いた。穴の底と四方の壁はキーンが魔術で固めたので、石のようになっており、おそらく叩けば金属音する。


「よーし、良いんじゃないか。階段もあったほうがいいか、幅は60センチもあれば十分だな」


 今度は玄関横においた土砂を階段状に固めた物を作り出してそれを穴の底に置き、部屋の入口から穴の底に下りることができるようにしてしまった。


「よーし、これで、でき上がり。

 金、銀、銅の順番に延べ棒を置いて完了だ」


 すぐに金を腹に抱えたミニオンがやってきて穴の底に降りて金の延べ棒を並べて積み上げ始めた。積み上げる時には次にどこに置くのかキーンが意識しないと難しいようだったが、キーンの手間はその程度で済んだ。


 金の延べ棒の後は、その隣に銀の延べ棒。その後に銅の延べ棒を積み上げて作業は終了した。


「ふー。って言うほどのこともなかったな。

 これで、メアリーさんたち官僚団も仕事がやりやすくなるだろう」


 一仕事終えたキーンは満足して、ゲレード中佐たちのところまで戻っていった。




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