第302話 引き継ぎ2、置き土産1


 宮殿の中庭にそびえ立つ石組みの筒の上を見上げたキーンは、その上に転移した。いまでは「転移!」と口にする必要もなくなっている。中庭に置いていた巨大サイコロ50個はボルタ兵曹長の発案で訓練場の隅に2個ずつ間隔をおいて並べられており、兵隊たちがそれを乗り越える訓練に使っている。



 キーンは転移で登った筒の上から大穴の底を覗き込み、そのまま転移してしまった。デクスシエロは最初に立っていた大穴の底の窪みにたたずんでいる。デクスシエロの大剣、黒柱ブラックピラーは切っ先を大穴の底につけて、デクスシエロの脇の壁に立てかけてある。


 デクスシエロの向かい側がキーンが壊して修理した通路側の壁なので、『ライト』を頭の先に灯したキーンがその壁を再度壊し、その先の穴も埋めて、さっそく緩やか上り坂を駆足で上り始めた。


 通路を駆けながらキーンはどうやって金の延べ棒を運ぼうかと考えていた。金10トンとなると延べ棒の重さは1本で30キロ弱だったので350本ほど必要になる。


 体積的には0.5立方メートルちょっとなので大したことはないが、空飛ぶ6角盤ではとても運べそうにない。


 キャリーミニオンだと金の延べ棒1本なら運べそうだが2本は無理だろう。ということは350本の金の延べ棒を運ぶには350個のキャリーミニオンをつらねることになる。それだとあまりにがない。


『本格的に物を運ぶ魔術を考えたほうがいいな』


 キーンは立ち止まり考え始めた。


 デクスフェロやデクスシエロを動かした『ムーブ』は移動魔術なので、運搬を意識したものではない。しかも目に見えるところまでしか移動させることはできない。『転移』も同様で見えている範囲にしか転移させることはできない。


『ムーブや転移じゃなくてやはりミニオン系になってしまうのか。

 要はキャリーミニオンを大型化してさらに強力化すればいいってことか。

 いままでミニオンの強化は防御力を増すためにミニオンの殻をかぶせた事はあるけど、ミニオン自身を真面目に強くしようとしたことはなかったな。この際だから強化ミニオンを考えてみるか。階段魔術のミニオンの殻は1つで十分僕の体を支えたけど、ちゃんとしたミニオンにはいろいろな機能がついている分ミニオンの殻に比べて弱いんだろうな』


『方法として、考えられることは単純に込める魔力を大きくすること。これまでは込める魔力を多くするとミニオンの生存時間が伸びる方向にだけ効いていたけど、これがミニオンの能力強化方向に効いてくれればいいわけだ』


『そう考えると、少し難しそうだ。

 あまり意識したことはなかったけど、ミニオンを作っている魔法部品を真面目にイジる必要があるな』


『うーん。魔力がここに蓄えられて、蓄えられた魔力は、魔力が薄くなった部分に流れていくようだ。

 いまのところ魔力を蓄える量が規定されていないのでいくらでも魔力は溜まるけどそこから流れ出るのはミニオンの各部で使われた分の補充だけみたいだ。

 ミニオンの各部に今まで以上の魔力を送り込めば能力強化はできそうだから、魔力を蓄える量を一定とした上で十分な魔力を込めてミニオンを作れば強化ミニオンができるハズ』


『しかしこうやってミニオンの内部を改めてみてみると、けっこう複雑だ。

 クリスは僕は魔術教師には向かないとか言ってたけど、僕のあの魔術教育で魔術師小隊の10人がパトロールミニオンを作って操れるようになったということは、実は僕には魔術教師の才能があったってことだよね。時間はかかってけれど、教えるのは簡単だったし』


 キーンに魔術教師の才能があるというのはキーンの勘違いかも知れないが、魔術師小隊の全員がパトロールミニオンを扱えるようになったのは事実である。


『……。

 こんなところかな。それじゃあ試しに、強化型で半球型パトロールミニオンを作って、その上に僕が乗って浮き上がれるかやってみよう』


「強化パトロールミニオン!」


 キーンは魔力を十分込めて、改造パトロールミニオンを作ってみた。


 大きさはこれまで通りとしたので直径30センチの半球形ミニオンがキーンの足元に現れた。


「僕が乗っかるのには小さすぎた。

 60センチでいこう」


 足元のミニオンが消えてすぐに直径60センチほどのミニオンがその場に現れた。


 その上に乗っかったキーンが、ミニオンに向かって浮き上がるように念じると簡単にミニオンは浮き上がった。


「うまくいった。せっかくだからこのミニオンに乗って倉庫まで飛んでいってやろう」


 キーンを乗せたパトロールミニオンが加速して結局時速60キロほどで通路を飛んでいった。速度はもっと出せたがそれ以上速く飛ぶと風が強くて60センチの丸の中に立っているのが厳しかったので速度を抑えたためである。


 20分ほど飛行したところで正面に壁が見えてきた。


「やっぱり通路は人がいなくなると勝手に塞がるんだ。

 旋回エアカッターだと繰粉くりこが散らばってホコリが立つから、

 ディッグアース!」


 5メートルの深さでキーンは正面の壁に穴を掘った・・・


 予想通り壁の厚さは5メートルだったのでピッタリ孔が空いてその中をキーンを乗せたパトロールミニオンが通り抜けた。


 通り抜けた先は例の50メートル四方の広間で、正面にあるはずの通路はやはり壁で閉ざされ見えなかった。


「ディッグアース!」


 同じようにキーンが真正面の壁に穴を掘ったら、その先の通路が現れた。



 できた孔をくぐり抜け、5、6分進んだところで行き止まりの扉が見えてきた。


 前回きた時、扉は金剛斬バジュラスラッシャーでボロボロにしたのだが目の前の扉は修理されたようでどこも傷んではいない。



「例の鍵は持ってきてないけど、壊しても勝手に直るようだから壊しても大丈夫だよね。あのときはファイヤーボールを撃ち込んだけど全然効いてなかった。ただの魔術じゃダメだったから今度はこれだ!」


 強化パトロールミニオンから降りたキーンは、正面を塞ぐ扉に向かって、


「転移!」


 正面の扉の真ん中が切り取られ、通路の壁に立てかけるような形で現れた。


「思った通り。転移魔法は普通の魔術と違って魔術防御では防げなかったようだな。フフフ」


 キーンは上機嫌である。




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