第293話 翔べ! デクスシエロ1


 キーンはゲレード中佐とノートン少佐を伴い『転移魔法・・』についてあれこれ考えながら駐留地に戻ってきた。



『転移魔法』についてはまだ確かめなければいけないことがあるし、いろいろ可能性もありそうだ。キーンは『転移』ついて魔術ではなく『魔法』という言葉を使っている。


 では『魔法』と『魔術』は何が違うのかというと、キーンは『魔法』にその他の機能を持つ『魔法』を追加して使いやすく昇華させたものを『魔術』と呼んでいる。


 ファイヤーアローでいうと、『火でできた矢』に『前進する機能』を追加しており、それぞれが魔法に相当している。ここで魔法「火でできた矢」を魔法「水でできた矢」や魔法「氷でできた矢」に切り替えればそれぞれ、ウォーターアローとアイスアローとなる。実際は「AでできたB」はさらに「Aを作り出す」と「Bの形にする」という2つの魔法に分解される。


 この例で「矢の形にする」を「針のように細くする」に変えるとニードル系の魔術になる。魔術をどこからでもどこへでも発動することのできるキーンにとっては不要ではあるが、魔法「目標を定める」魔法「目標に向かう」をファイヤーアローに付け加えれば、定めた目標の移動に合わせてアローが追尾するようになる。


 要するに魔法とは、キーンが子どものころ部品といっていたものに相当する。




 朝からやってきていたモデナの商人もボルタ兵曹長と交渉を終えて帰ったようだ。


 ボルタ兵曹長から交渉結果の報告を受けたキーンは、『転移』のことを考えながら、警備に駆り出されず、訓練場に残って訓練している5個中隊の訓練を眺めていた。彼らのうちの当番兵が聖王都警備に出ている2個中隊の食事の準備その他もこなすことになっている。街道警備に出ている3個中隊については、各自の背嚢に詰めた携帯食で食事を済ませることになっている。


 キーンの隣では、キーンがデクスシエロを大穴から地面に引き出したことと『転移』を使えるようになったことを、ゲレード中佐とノートン少佐がボルタ兵曹長に話していた。



「自分も午後から巨人を見物にいってもよろしいですか?」と、ボルタ兵曹長。


「デクスシエロを動かすあては今のところないけれど、もう一度中に入っていろいろ試してみるから、午後から僕と一緒にいきましょう」


「それなら、われわれは兵隊たちの訓練を見ています」とゲレード中佐とノートン少佐。




 昼食を終えて、キーンはボルタ兵曹長を伴い、デクスシエロの立つ宮殿の中庭まで歩いていった。


「ほう。これが巨人デクスシエロですか。以前見たデクスフェロより二回りは大きいようですな。しかも硬そうだ。連隊長殿の大剣でも傷がなんとか付くくらいでしょうか?」


「僕の金剛斬バジュラスラッシャーとは違う材質のようだけど、金剛斬バジュラスラッシャーでも傷を付けることができない気がする。

 僕は中に入ってもう一度様子を見てきますから、ボルタ兵曹長はここで待っててください。

 デクスシエロ、インペルム!」


「了解しました」


 ボルタ兵曹長が返事をしたときには、キーンはボルタ兵曹長の目の前から消えていた。キーンの頭の中には例の言葉?が響いていた。



「ほう。いまのが転移か。ゲレード中佐殿たちから聞いた話によると、自分が転移でどこでも行けるだけでなく人や物も転移させられるという。さすがはわれらの連隊長殿」


 先ほどの転移はキーンの行ったものはなく、デクスシエロがキーンを転移させたのだが、ボルタ兵曹長はしきりに感心していた。



 デクスシエロの中に入ったキーンは、周囲が明るくなり黒い壁面に外部が映るのを待って、球形の小部屋の中を調べたが、やはり足元の銀色の円盤と天井の光る円盤以外何もなかった。


 壁面に映るボルタ兵曹長を見ると、キーンが穴の底の土砂を固めて中庭に積んでおいた一辺2メートルのサイコロの小山が気になったようでその近くで眺めていた。意識を芝生とサイコロの境目に持っていったところ、その部分が拡大されて映し出され、細かく見えるようになった。芝生の地面がそれなりにへこんでいる。


『ほう。

 よく見たいものに意識を向けると、それが拡大されて映るのか』


 その後もキーンは芝生の上をよく見たところ、芝生の上を歩くアリなどもはっきり見えた。


『ここまで見える必要があるとは思えないけれど、もし空高く飛べたなら遠くのものが詳しく見えてかなり面白そうだ』


 しばらく辺りを見回していたキーンだが、


『今日はこれくらいにしておこう。もう少しできそうなことを考えてから色々試していくとしよう。とにかくデクスシエロに乗り込むことはできたし、「転移」も覚えたし。今日の収穫は上々だ』



 キーンは転移でサイコロを眺めているボルタ兵曹長の後ろに現れた。


「ボルタ兵曹長」


「ほっ! 連隊長殿びっくりさせないでください。

 しかし、武術の試合などでこれを使われたら相手は手も足も出ませんな」


 武術の試合で魔術を使っていいか悪いかはわからないが確かにボルタ兵曹長の言う通りだ。


 そこで、キーンは閃いてしまった。


『そうだ! デクスシエロに乗ったままデクスシエロごと転移できたら無敵じゃないか? 今のデクスシエロは素手だけど、デクスシエロ用の大剣なら適当な大木を削って大剣を作って、それを変性させればいいだけだし。

 相手の意表を突いた場所から巨大な大剣を振り下ろすデクスシエロ。

「われの一撃で斃せぬものなし!」

 うーん、カッコいいー!

 その前にデクスシエロを思うように動かせないといけないけどね。あれ? 動いたら動いたで最強らしいから結局大剣の出番はないのかな?』



 その日の夕食後。


 キーンは軍本営への定期報告を書き終え、キャリーミニオンに持たせて送り出した後、アイヴィーにデクスシエロについて手紙を書いた。


 手紙の中で『インペルム』というキーワードを口にしたところ、転移でデクスシエロの中に入ることができたことと、何か他に足りないらしく、それから先は進展がなかったことを書いておいた。


 翌日。昼食時に返ってきたアイヴィーからの手紙に、


『あの古文書でデクスシエロに関係するところがある程度読めました。

 皇族男子のうち十分な魔力を持つ者がデクスシエロに向かって「インペルム」と言えばデクスシエロは動く?ようです。残念ですが「インペルム」が何を意味する言葉かは分かりませんでした。

 ほかにもキーワードのようなものがありましたが、どれもどういった意味があるのか分かっていません。

「インペルム」の他のキーワードで分かったのは「ソウ」「バタル」「フェンディ」の3つです。どれもキーワード「インペルム」の後に続けて口にするようです』とあった。




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