第21章 翔べ! デクスシエロ
第290話 巨人1
ボルタ兵曹長が、元聖王都の役人に紹介された商人の相手をしている間、キーンはゲレード中佐とノートン少佐を連れて、例の大穴の前にやってきていた。
「デクスシエロをじっくり観察するため、中の土砂を片付けて、デクスシエロを穴から地面まで上げてしまいます」
ゲレード中佐もノートン少佐もキーンがどのようにして大穴の底の土砂を取り除くのか見当もつかなかったが、簡単そうな口ぶりだったので、何か魔術を発動させてすぐに終わらせるのだろうと黙って様子を見ていた。
キーンは最初『階段魔術』で大穴の上にそびえている石組の円筒の上まで登ろうと思っていたのだが、そこから200メートルも階段を作りながら下りていくのは大変だと思い直した。階段魔術はミニオンの殻で作った関係でその場から自分では移動できないが、これがパトロールミニオンやキャリーミニオンなら移動も可能だ。使いやすさから言えばパトロールミニオンが一番だ。ただ、パトロールミニオンがどの程度の重さに耐えることができるのかは試してみたことがないので分からない。
そこで、キーンはまず上が平たい半球型のパトロールミニオンを作り、その上に飛び乗った。浮き上がらせようとしたのだが、パトロールミニオンは全然動かなかった。パトロールミニオン1個だけではキーンの体重を持ち上げることはできないようだ。
ああでもないこうでもないと、試行錯誤を重ねた結果、正三角錐をひっくり返した型にパトロールミニオンを作り、上から見て正6角形になるようにそれを6個をくっつけてみた。できた正6角形と同じ形で平たくしたミニオンの殻をその上からかぶせ、その上にキーンが乗ったところ、自由に宙を飛び回ることができた。急に動かすと滑り落ちそうなので、足元には両足をふんばった形で足型の窪みを入れているので、ある程度急な動きにも対応できる。取手のようなものを付ければ万全だが、そこまではしなかった。
『これはいい。これだと自由に空を飛んだことになるんじゃないかな? フフフ』
『これはこれで一つの完成形だから、次は一度で作り出せるよう頭の中に登録しておこう。名まえはなんて付けるかな?「空飛ぶ6角盤」でいいか。もうちょっとひねりが欲しいところだけど、前回の魔術回路開放みたいに長過ぎると自分で分かんなくなちゃうからこれでよし、としておこう』
ゲレード中佐とノートン少佐は口を半分開けてキーンのそういった一連の
キーンはニヤニヤ笑いながら、しばらく新しい
「下に見に行ってきます」と言ってオモチャに乗っていったん円筒の上まで昇っていき、そこから穴の中へ下っていった。
『空飛ぶ6角盤』に乗って穴を下っていったキーンは、最初に大穴を巡る回り階段の一番上の踊り場を確認してみた。壁には鉄でできた重そうな扉が付いていた。踊り場に下りたキーンが扉の取っ手持って押したり引いたりしてみたが鍵がかかっているらしく扉はびくともしなかった。力ずくで扉を壊してしまえばいいだけだが、そこまですることもないだろうと、扉はそのままにして、穴を下りていった。
ゲレード中佐たちの位置からでは大穴の中を覗けないので、キーンが中で何をやっているのかわからないが、しばらくして、キーンが円筒の上に浮かび上がってきた。
「そこらの空いた場所に、固めた土砂を置いていきます」
筒の上から一辺2メートルほどのサイコロ状に固められた土砂?が
「これで、全部です」
下の段が縦5個×横5個、上に上がるに従って縦横が1個ずつ少なくなって、ちょうど3段で終わっていた。
「25+16+9だから、ちょうど50個です」
積み上げられたのは2メートル立方の
「それじゃあ、デクスシエロを引き上げてきます」
これだけの土砂を宮殿内に運び込んで投げ入れるには相当の手間暇がかかったのだろうが、キーンにかかると数分で穴の底から持ち上げられて片付けられてしまった。
「われらの将軍閣下は、何でも簡単にやってしまうから大したことがないように見えますが、いまの仕事だけでも人夫1万人で何日もかかるような仕事でしょう。その気になればロドネア中に運河を張り巡らすのも可能かもしれない」とゲレード中佐。
「モーデルの山地もアービス将軍の手で切り拓いて農地に変えていただければ、モーデルも豊かになるでしょう」とノートン少佐。
「その手もありましたな」
そんな話をしていたら、円筒の上部から、ヘルメットをかぶった巨人の頭部が現れ、そのうち青白い鎧に覆われた全身が現れた。
巨人はゆっくりと横に移動し、それから地面に向かって下りてきた。キーンは巨人の直ぐ側で浮いているミニオン製の『空飛ぶ6角盤』の上にいる。
「大きい! 高さは10メートルはあるな。たしか、デクスフェロの高さは7メートルだったはず。強そうだ。これが空を飛べば、そこいらの軍事アーティファクトでは
ノートン少佐、どうです?」
「私も初めて目にしました。これが、モーデルの軍事アーティファクト、デクスシエロ。これが動いてさえいてくれれば、……」
「これほどの巨人でも、動いていない今は人形のようなもの。人形なら、足を固定しなければまず立てないはずですが、この巨人はしっかり2本の足で立っています。
ということは、生きている?」
ゲレード中佐とノートン少佐がデクスシエロを見上げて感想を話しているが、キーンは『空飛ぶ6角盤』に乗ったままデクスシエロの部位を近くで観察していた。
『やはり、中に入るための入口は見当たらないな。
鍵か何かを差し込むような孔もないし。
鍵といえば遺跡にあった四角い箱、ああいった形かもしれないから鍵穴とは限らないか』
何度か周囲を回って、それらしい個所や、どこかに出入り口を開閉する
『この巨人は、人が中にはいって動かすんじゃなくて、外から命令したらその通り動くのかもしれないな』
キーンはいったん地面に降りて、
「この巨人の中に乗り込めるような出入り口がないか調べてみましたが、何もラシイものはありませんでした。こいつは外から命令すれば、それなりに動くのかも知れません」
「セルフィナ殿下からうかがったとき、誰も扱えず久しいとか。
『扱う』というのが、命令することなのでしょうか?」
「確かに、『扱う』と『命令する』はだいぶ違う。
連隊長、やはり誰かが巨人を実際に動かすのでは?」
「うーん。何か呼びかければ反応して、中から扉が開くとかかな?
試しに名前を呼んで見るか。『デクスシエロ!』」
……。
『やっぱり、何も反応ないか。うん?』
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