第272話 キーン、魔力詰まりの掃除法に名前をつける
キーンが自分の魔力をジェーンの身体に巡らせたことで、ジェーンの魔術能力が劇的に上がった結果、強化が使えるようになった。これで心配だった軍学校の入試での実技も簡単にクリアーできそうだ。残念ながら他人に対しての強化を発動させることはできなかった。どうも、キーン自身、自分とセルフィナ以外に他者に対する強化を使えるものはいないことに気付き始めている。
その日遅めの夕食を自宅で取ったキーンは、それから軍学校の寮に戻っている。ジェーンはジェーンで自分の魔術能力が上がったことで色々魔術を試そうとしていたが、『ライト』と『ファイア』それに『強化』しか知らなかったので、結局『強化』の練習だけしていたようだ。
翌日の午前中、これまでの復習のような座学を終えたキーンは中隊長たちとともにアービス連隊の訓練場に向かった。中隊長も10人となり、ぞろぞろと11人で王都内を中心部に向かって歩いているものだからかなり人目につく。とはいえ、これまでも昼過ぎになると6人でぞろぞろ歩いていたわけで、目新しい訳では無い。
キーンは、昨日ジェーンに行った、自分の魔力を相手の体内に巡らせて、魔術の通りをよくする方法にカッコいい名前をつけようと考えていた。
『うーん、魔力を無理やり身体の中に巡らせるから強制魔力循環だよな』
『魔力が巡っている場所のことは、回っている道、回路と名付ければかっこいい』
『その中で、何が原因かわからないけど、回路を塞いで、占拠してたものをどこかに吹き飛ばしたわけだ。それで回路が正常になったわけだから開放したとも言える。エルシンからモーデルを開放するみたいだ』
『まとめると、
強制魔力循環による魔力回路の開放。これだー!
くー、カッコいいー』
「キーン、難しい顔してまたなにか考えてるのかと思ってたら、急にニヤニヤし始めて、大丈夫か?」
黙って訓練場への道を歩いていたキーンが急にニヤニヤ笑いを始めたので、トーマスが話しかけた。
「うん。実は、昨日バーベキューからうちに帰って、ジェーンに相談を受けたんだよ」
「相談?」
「みんなも知ってると思うけどジェーンは来月
「よほどの魔術師じゃないとキーンの『強化』は無理じゃないか?」
「うん。それでもやっぱりできたほうだいいだろ?」
「それはそうだ」
「それで、自分を強化するには魔力が身体の隅々に行き渡る必要があるんだけれど、話を聞いてみると、どうも身体のいろいろな場所で魔力が滞ってしまってるって」
「俺はそんなことは感じたことないけれど、魔術は下手だぞ」と、トーマス。
「トーマス、あなたのことなんてどうでもいいの。ちゃんとキーンくんの話を聞きなさいよ」
「へーい。ソニアはいつもこうだよ」
「なにがいいたいのよ?」
「なんでもありません」
「それでキーンくん、どうなったの?」
「うん。
それで、僕の魔力をジェーンの身体の隅々まで巡らせたら、魔力の
「キーンくん、そんな事もできたんだ」
「いや、その時までそんな事ができるとは思っていなかったし、実際ジェーンの中に魔力が入っていって戻ってきたんだけど、ジェーンの体の中でどう魔力が流れたのかは全然わからなかった。
その代わり、ジェーンは自分の体の隅々まで僕の魔力がいき渡って流れたことを感じたそうなんだ」
「それで?」
「そのあと、試しにジェーンが『ライト』を発現させたら、すごく明るい光球が現れた。魔力の流れが良くなったからだと思う」
「すごいじゃない」
「それで、これまで言ってきた魔力を体全体に巡らす感じで強くなることを意識したら『強化』できたんだよ。しかも、自分の魔力が減っていく感覚が殆どないって言ってた。僕の見ている限りだとずーっと『強化』は続いていた」
「なにそれ? すごすぎじゃない。それってもしかして私たちでもキーンくんの『強化』をかけられるかもしれないってこと? それも長い時間続けて?」
「その可能性は大いにあると思う。その代わり、残念だけど他人に対して『強化』はできなかった」
「そうなんだ。でもあの『強化』を自分でかけることができればそれだけで最高よ」
「俺もキーンの『強化』ができるように成れば、すっごっく嬉しいぞ」
他の中隊長たちもトーマスの言葉に
「それで、キーンはさっきニヤニヤしてたのか? その前の真面目な顔から考えると、ちょっと違うような気もするけど」
「それで、せっかくスゴイことができたから、名まえを考えてたんだよ」
「どんな名まえを考えたの?」
「強制魔力循環による魔力回路の開放」
「何だか、すっごく難しそうな言葉がカッコいい!」
「確かにかっこいい名前だ。キーン、センスあるんじゃないか? 黒玉のときは全くセンス無いと思ったけどな」
「黒玉は黒玉でいいと思って付けたんだけど、あのときはカッコよさまで考えてなかったかも」
「まあいいよ。黒玉も今は騎兵連隊にはなくてはならない存在だし、あんな名まえでも、アーティファクト級、いやそれ以上だものな」
「今日の訓練が終わったら全く魔術ができない新人が5、6人僕のところに魔術を教わりにやってくることになっているんだ。ジェーンにはうまくいったんだけど、他の人にもうまくいくかその連中に『強制魔力循環による魔力回路の開放』を試してみようと思ってる」
「実験とすれば、なかなかいいかも。
全く魔術ができなかった人が魔術を使えるように成れば世の中が変わるわよ」
「まさか」
「まさかってことはないと思うわ。ねえ、キーンくん、ちょっと私にその『強制魔力循環による魔力回路の開放』をやってみてくれない?」
「道の上だとちょっと」
「歩きながらじゃなくて、立ち止まってもいいわよ」
「そういう意味じゃないんだけど。訓練場に着いたらやってあげるよ」
「「俺も!」」
「「わたしも!」」
当たり前だが、みんなやってくれと言うので、キーンもみんなにやってやることにした。トーマス以下の男子中隊長たちといちいち両手をつなぎたくはなかったが、キーンは観念した。
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