第271話 キーン、ジェーンの魔力の詰まりを掃除する2


 キーンはジェーンの両手を取って、ジェーンの身体からだも自分の体の一部とみなして魔力を循環させようと試した途端、ジェーンの目が見開かれた。ジェーンも自分の魔力を感じ取ったのだとキーンも安心した。


 キーンは確かに自分の魔力が右手からジェーンの身体の中に入っていき、左手から戻ってきているのを感じた。10秒ほどそうやっていたのだが、ジェーンに見た目の反応があったものの、ジェーンの身体の中で自分の魔力がどういった感じで流れているのかは全く分からなかった。


「うーん、僕の魔力をジェーンの身体の中に流し込んで、身体の隅々まで巡らせれば『詰まり』もなくなるだろうと思って試したんだけど、僕の身体の外、ジェーンの身体の中で魔力がどうなっているのかは全然わからなかった。ジェーンは僕の魔力を感じたようだったけど、どうだった?」


「……」


 ジェーンは目を見開いたまま返事をしない。


「あれ? ジェーン、どうした?」


「はっ! びっくりしたー。

 強化中だったからすごく感じたのかもしれないけれど、スゴイのが身体からだ全体を駆け巡ってた。逆に強化中じゃなかったら気絶してたかも」


「そうなんだ。

 体中を駆け巡ったってことは首から上や、手首から先もかな?」


「うん。身体からだ全体。左の手のひらから入ってきて右の手のひらから出ていくの」


 魔力を流し込んで循環させることはできたようだ。


「体中を巡ったってことは『詰まり』がなくなってるかもしれないから、もう一度魔力を身体に巡らせてみてくれるかい」


「はい。先生。

 それじゃあ、やってみます」


 ……。


「先生、スゴイ! 身体のスミズミまで魔力が回っているのが分かる!」


「試しに『ライト』で明かりを灯してみようか?」


「はい。『ライト!』」


 ジェーンの右手から天井近くまですっと白く輝く糸が伸びて、糸が消えると同時に、眩しいほどのライトの光球が天井あたりから部屋を照らした。


「いままでこんな『ライト』をつけたことない」


 まだ昼間の時間なので、居間の中は相当明るいが、ジェーンのライトは光り輝いている。


「手首の詰まりが解消されて、とどこおりなく十分な魔力が魔術として発現したんだと思う。これなら『強化』もいけるかもしれない。

 ジェーン、僕のかけた『強化』を一度消すからその後で、体の中を巡る魔力で自分の能力全部が高まることを意識してみて。

 解除」


 ジェーンを包んでいた強化の光が消えた。


「やってみる。

 ……」


 3秒ほどして、急にジェーンの身体が薄っすらと光に包まれた。


「1、2、3、……、6。

 全6種の強化が発現している。

 おめでとう、ジェーン」


「ほんとにできたんだ。魔力の循環を意識しなくても、強化は続いているんだね」


「いちいち意識して魔力を循環させておかないと切れてしまうようでは不便だから、そういうもののようだね。

 つぎは意識して、今の強化状態を解除してみようか」


「解除する必要ってあるのかな?」


「あまりないけれど、その光は目立つからね。強化は上書きされるから本当は消さなくても訓練できるんだけども、いちおう消したり発現させたりしたほうが訓練してる感じがするだろ?」


「それはあるかも。回数を数えることは大事だものね」


「そういうこと」


「キーンお兄さん。それじゃあ解除できるかやってみる。意識して魔術の循環を止めればいいんじゃないかな」


「きっとそれでできると思う」


「解除!

 どうだ?」


 ジェーンを覆っていた光はすっと消えた。


「ジェーン、スゴイぞ。

 これを何度も練習していれば魔力の流れもどんどん良くなるだろうし、いつでも一瞬で『強化』を発現できるようになるから」


「これから毎日時間を決めてやっていくね」


「そうだね」


 そういいながらも、ジェーンは強化したり解除したりを繰り返していた。


 ジェーンが『強化』の練習を続けているところを黙って眺めていたら、アイヴィーがワゴンにお茶と茶菓子を乗せて居間に入ってきた。


 アイヴィーはジェーンを見て、


「ジェーン、よかったですね」


「キーンお兄さんのおかげ。身体の中で魔力が詰まってうまく巡ってなかったの。その『詰まり』をキーン兄さんが通してくれたの」


「私には魔力のことは分かりませんが、そういうこともあるのですね。

 ということは、世の中で魔術の使えない人は、身体の中で魔力がうまく巡らないから使えないのかもしれませんね」


「もしそうなら、魔術の使えない人や、あまりうまくない人が、うまく魔術を使えるようになるってことだからスゴイことだよね。

 実は、今日のバーベキュー大会で全く魔術の使えない新人から、魔術を僕に教えてほしいと言われたんで承諾したんだけれど、どう教えるかは全く考えていなかったんだ。今のジェーンにした方法で魔術が使えるようになるのなら、すごく助かるよ」


「がんばってください。体の中の詰まりがなくなったのなら魔力の効率的なものもかなり良くなるのでしょうから、普通の魔術師もキーンが詰まりをすっかり通してやれば長時間魔術を発動できるようになるかもしれませんね」


「それだ!

 うちの魔術師小隊の連中にパトロールミニオンを作らせて偵察に使おうと思ってたんだけど、魔力が少ないと長時間ミニオンを維持できないから、どうしようかと考えていたんだ。もし魔力効率が高まって長時間魔術が使えるようになるならこの問題も解決だ」


「ミニオンを作る方も簡単に教えることができればいいですね」


「大丈夫。キーンお兄さんなら簡単よ」


「そう簡単ではないと思うけれど、頑張ってみるよ」


「じゃあ、冷めないうちにお茶にしましょう」


「そうだね」




 3人でお茶を飲みながら、


「ジェーン。今の『強化』がどれくらいもつのか、一度確認しておいたほうがいいよ」


「うん。今の感じは、魔力が身体の中で少しずつ減っていっているんだけど、体の周りから魔力が身体の中に入ってきて減った分がもとに戻っているの。だから、魔力切れを心配することなく『強化』をいつまでも続けられそう。とにかくこれで軍学校の実技試験は確実に受かるはず」


「座学の方は前々から問題ないって聞いていたけれど、どうだい?」


 ジェーンが答える前にアイヴィーが、


「ジェーンに私から教えていますが、かなりいい成績が期待できます」


「じゃあ間違いなくジェーンは合格だな」


「キーンお兄さん、そういったプレッシャーをかけないで」


「いや、悪かった。別に落っこちても問題ないし、気にしなくていいんだから」


「やっぱり、気にはするよ」


「それはそうか」


 ここで、キーンはジェーンを安心させるため、ゲレード少佐にジェーンを合格させてもらえるよう頼んで了承されていることを話そうかと思ったが、まだ子どものジェーンが潔癖すぎた場合取り返しがつかなくなるので、そのことを話すのは止めておいた。



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