第19章 魔術革命
第270話 キーン、ジェーンの魔力の詰まりを掃除する1
[まえがき]
ここから、『第19章 魔術革命』です。短めの章ですがよろしくお願いします。
◇◇◇◇◇◇◇
キーンは当番兵から渡された皿に盛ったバーベキューを口に入れながら、魔術師小隊に対する教育方法をあれこれ考え始めてしまった。もちろんいい考えは浮かんでこない。
軍学校の同級生たちも、春になればどこかの部隊に配属されて兵隊たちと過ごすことになる。よその部隊の兵隊にはなるが、兵隊たちの中に溶け込もうと思ったのか、訓練場のいたるところにバラけていってしまった。
「ところでアービス」とゲレード少佐があらたまってキーンに話しかけてきた。
「はい?」
「先日、軍本営にいった時、ボルタ兵曹長の話だけでなく、ローエン軍の話も出たんだよ」
「ローエンですか?」
「ヤーレムに駐留中のローエン軍だが、春までに駐留地を引き払って本国に帰還するそうだ。
当分エルシンのギレアへの再侵攻は無いものとローエンも判断しているのだろうな。
これは3人しかいない『黄金の獅子』の一人をアービスが討ち取ったからだろう。光の騎兵隊がいる以上、連中の『狂戦士』ではボスニオンまでの道中で撃破されてしまうからな。
ソムネアとの国境に張り付いている残った2人の『黄金の獅子』のうちから、一人引き抜いてギレアに投入できれば局面の打開は可能かもしれないが、それはまずないだろう。
それで、ローエン軍の駐留地の跡地だが、わが軍が使ってはどうかと言われているらしい。
5万もの兵士がいた駐留地だが、わが軍にはそれほどの余った兵隊はいないがいちおうは引き受けるそうだ。
そうだなー、ギレアにも近い場所だけに駐留地の規模を縮小して、どこかの連隊が引き継ぐことになるかもしれんな」
「ローエン軍が帰国するとなると、あの辺りにまとまった部隊がいたほうが良いですものね」
「アービスもそう思うだろ? フフフ」
ゲレード少佐とキーンがそういった真面目な話をしていたので、先程の新人女子たち以外二人に近づくものは飲み物や食べ物を運ぶ当番兵くらいのものだった。
その後も、30分ほど二人で飲食しながら話をしていたところ、ゲレード少佐はかなり酔ったようだったが、終始機嫌が良かった。
「アービスも私の相手だけでなく、部隊を回って、他の連中の相手をしてやれ」
そういってゲレード少佐がキーンを送り出したので、キーンは新人たちの集まっている辺りから始めて各中隊を巡り歩いた。
そんなこんなでその日のバーベキュー大会は2時すぎに終わった。
「片付けなどは兵隊たちでちゃんとやっておきますので連隊長殿はお帰りください」と、ボルタ兵曹長に言われたキーンは、いったん自宅に帰ってそれから寮に戻ることにした。
ゲレード少佐はキーンにもう一度礼を言って、寮に直帰する寮生たちと一緒に軍学校に帰っていった。自宅が連隊の駐屯地に近い者はキーン同様、自宅にいったん帰ってそれから寮に戻ることにしたようだ。
「ただいま」玄関先で声をかけたら、
『おかえりなさい』と、居間の方からアイヴィーとジェーンの声がした
居間に入っていくと、アイヴィーは先日バーロムの屋敷で見つけた『古文書』を見ていたようだ。なんとか読もうと頑張っているらしい。その隣でジェーンも本を広げて読んでいた。こちらは軍学校の受験勉強らしい。
「テンダロスの古文書を読もうとしているんですが、今のところあまり先に進んでいません。それでも少しずつ意味のわかるところも出てきています。
キーンも帰ってきたことですし、そろそろお茶にしましょう。ジェーンは手伝わなくてもいいので、キーンとお話でもしていなさい。キーンに何か聞きたいことがあるって言ってたでしょ?」
「はい」
アイヴィーは二人を残して台所にたった。
「ジェーン、何だい?」
「キーンお兄さんを見てたら、私もそんなに苦労せずに『強化』ができるようになると簡単に考えてたんだけど、どうしても『強化』ができないの。なにかいい方法はないかな?」
「そうだなー。
ジェーンは体の中の魔力は感じるんだよね?」
「なんとか感じることはできていると思う」
「その魔力が、体の中をめぐって
「隅々にまで行き渡っているかと言えば、そうでもないような。
というか、身体の中で詰まってしまって
「身体のどの
「はっきりわからないけれど、手首とか首の付け根辺り、かな?」
「そうだ。
僕がジェーンを『強化』すれば、知覚も強化されるから、それでどの辺りで魔力が詰まっているか感じてみてくれるかい?」
「うん」
「それじゃあ、『強化』」
ジェーンの
「これでどうだろう? 試しに魔力が体の中を回るよう意識してみてくれるかい」
「……。
やっぱり。左右の手首はわずかに手先まで魔力が
ジェーンが両手の指先で左右の鎖骨のくぼみを抑えて魔力が滞っている場所を示す。
「なるほど、少しかもしれないけれど手先まで魔力は回っているから、簡単な魔術なら手先から発現できるということか。頭の方に魔力が回れば魔術が上達するのかどうかはわからないけれど、僕自身は頭も含めて体中に魔力が巡っている感覚があるから、まずその詰まりを治してみよう」
「キーン兄さん、そんな事ができるの?」
「できるとは言い切れないけれどね。
ちょっと首元を触るね」
「どうぞ」
そう言ったジェーンは目をつむってじっと立っている。
「ジェーン、別に目を閉じなくていいから」
「……」
なぜかジェーンが顔を赤らめた。
「じゃあ」
キーンはジェーンの顔の変化には気付かなかった振りをして、両手の人差し指と中指でジェーンの左右の鎖骨のくぼみを軽く抑えた。
「ジェーン、また魔力を身体に巡らすように意識してみてくれるかい」
何か分かるかもと思って手を当てて10秒ほどじっとしてみたのだが、何もわからなかった。その代わり、自分の魔力を流し込めば、ジェーンが言う『詰まり』が解消するのではないかと思いついた。
一度手を離したキーンが、
「ジェーン。今のじゃ、全然分からなかった。試しに僕の魔力をジェーンに流し込んでみて『詰まり』が通らないか試してみるよ。今度は手を握って、ジェーンの左手から魔力を流し込んで体の中を巡らせてから右手から出ていく感じでやってみる」
ジェーンがうなずいて両手を前に出したので、キーンはその手をとって、自分の魔力を流し込み始めた。
もちろんキーン自身、自分の魔力を他人に流し込む方法など知らないし、そもそもそういった事ができるかどうかも分からない。キーンはとりあえず、自分の魔力を右手に集めてジェーンに流し込み、流し込んだ魔力がジェーンの体の隅々まで巡って、左手から自分に戻すようにイメージしてみた。ようは、ジェーンの身体もキーンの身体の一部のつもりになって魔力を巡らそうとやってみたのである。
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