第269話 新歓バーベキュー大会2


 キーンがゲレード少佐とワインを飲みながら歓談していると、ボルタ兵曹長がやってきた。


「ゲレード少佐殿、お久しぶりであります」


 サミー・ボルタが王宮警備隊勤めだった当時、ドリス・ゲレードは軍本営勤めだったため二人は元々お互いに面識がある。当時から階級は各々進んでいるがどちらも現在の階級を知っていたようだ。


「ボルタ兵曹長、久しぶり。頑張っているそうじゃないか」


「いえいえ、アービス連隊長殿あってこその連隊ですから」


「そうかもしれんが、ボルタ兵曹長のうわさは先日軍本営に顔を出したときも聞いたぞ」


「あまり良くないうわさでしょう?」ボルタ兵曹長が嫌そうな顔をした。


「どれもいい話だったぞ。

 要約すれば、アービスが伸び伸びやっていられるのもボルタ兵曹長のおかげという話だった。

 アービス、そうだよな?」


「もちろんその通りです。ボルタ兵曹長にはいつも助けられています」


「アハハ。ありがとうございます」


「私はアービスたち1号生徒が卒業する3月中旬には軍学校から軍本営に異動になることが決まっている。軍直轄連隊の先任兵曹長殿、その際・・・はよろしくな」


「古巣にお帰りになるわけですな。ご栄転おめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


 などと、3人でやっていたら真新しい軍服を着た5人ほどの女子兵士がキーンのもとにやってきた。5人ともワインの入ったグラスを手に持っている。おそらく5人ともキーンと同い年おないどしである。


「「連隊長、飲んでますかー?」」


「ほどほどに飲んでるよ」


 振り向いたキーンが、女子たちに向かって無難に答えた。


 5人とも顔を赤らめているところを見ると、それなりにお酒を飲んでいるようだ。


 ボルタ兵曹長は顔をしかめたが、何も言わなかった。ゲレード少佐は面白いものが見れそうだとグラスを口に運ぶのを止めて、成り行きを見守っている。


 やってきたのが結構可愛い系の女子だったため男子軍学校生たちは嬉しそうな顔をして、ゲレード少佐と同じくいったん飲食を止めて眺めていたが、女子軍学校生たちは気にせず料理や飲み物を口に運んでいる。


「わたしたちー、連隊長にー、お願いがあってやってきましたー」


 妙に語尾を伸ばす女子がそういったあと、残りの4人がうなずいた。


「なんだい? 無理なことはできないけど、無理じゃなければ」


「「ヤッター!」」


 キーンの返事を聞いた女子たちは嬉しそうにはしゃいでいる。


「難しいことじゃなくてー、連隊長にー、魔術を教わりたいなーって」


「「キャー!」」


 何が『キャー!』なのかは分からないが、彼女たちは嬉しいらしい。


 依然魔術師小隊に対してパトロールミニオンをどうやって教えたら良いのか手探り状態であることをキーンは思い出し、少しだけ気分が重くなってしまった


 とは言うもののキーンは良いことを思いついた。はっきりと素人しろうとと分かる5人に簡単な魔術を教えることができれば、いちおうは玄人くろうとの魔術師小隊の面々にパトロールミニオンを教えるのに役立ちそうだ。


「できるかできないかはわからないけれど、どういった魔術を習いたいのかな?」


「わたしたちー、ぜんぜん魔術ができなくてー、火をつけるとかー、明かりをつけるとかー。そんなのができるように成ればいいかなーって」


 残りの4人はまたもうなずいている。


「なるほど。そう言った魔術が使えないとたしかに不便だ。よしわかった。きみたちが魔術を使えるようになるとは保証できないけれど、教えて上げるよ」


「「ヤッター!」」


「そうだなー。訓練が終わったら僕は連隊長室で待ってるから明日からでも顔を出してくれればいいよ」


 キーンはそれまでそういった部屋を使っていなかったが、連隊長になったこともあり、来客や簡単な会議なども開けるよう連隊長室なるものをボルタ兵曹長が用意しているので、時間があるときなどはそこで過ごすようにし始めたところだ。


「「よろしくお願いしまーす」」


 5人はキーンと約束を取り付けると男子軍学校生たちには見向きもせずにそのままいってしまった。


 彼女たちを半分笑いながら見送ったゲレード少佐が、


「今どきの連中は積極的でなかなかのものだな。

 ところでアービス、剣を握ったことのない連中に剣術を教えることはそれなりに難しいができないわけではない。しかし、ファイアもライトも使えない連中に魔術を教えるのはそんなのと比べられないほど難しいと思うぞ。大丈夫なのか?」


「魔術を使えるようにしてやるとまでは言ってませんから、ダメで元々でしょう。

 実は、魔術師小隊が今回配属されたんです」


「その話は聞いている。なんでも、この春魔術師大学付属校を卒業する予定の生徒たちのうち成績優秀者という。うちの10人と同じようなものだが、アービスの歳に合わせての人選だろ?」


「そうだと思います」


「それで、その普通の・・・魔術師たちに大魔術師たるアービスは何をさせるつもりなんだ?」


「魔術師小隊にはパトロールミニオンを教えようと思っているんです。僕一人で10個、20個、ミニオンを飛ばすのは簡単なんですが、どうしてもあらが出るので、一人が1個、パトロールミニオンを飛ばして観察するようにすれば偵察の精度がかなり上がると思うんです。

 ですが、今のところパトロールミニオンの教え方がわからないので、さっきの完全な素人に簡単な魔術でも教えることができれば、なにかいい教え方を思いつくかもしれないと思ったまでです」


「なるほどな。呪文も何もない天才魔術師独特の悩みではあるな。だが、パトロールミニオンを作ることができてうまく操れたとして、そもそも誰もアービス並みの魔力はないんだから、長時間の偵察は無理じゃないのか?」


「あっ! それも解決しないと」


 なかなか世の中はうまくいかないものである。あと一カ月で魔術師小隊を受け持つのだが、それまでにこの問題を解決することができるのだろうかとキーンは大いに不安になった。



[あとがき]

ここまで読んでいただきありがとうございます。

これにて、18章終了。次話より『第19章 魔術革命』です。

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