第268話 新歓バーベキュー大会1


 アービス連隊の訓練場から寮に帰ったキーンたちは、それぞれシャワーを浴びたあと、夕食のため食堂に集まった。もちろん他の寮生たちも集まってきている。


 新しく中隊長になった5人に対して、寮生たちが初日の感想を聞く。


「どうだった?」


「今日集まった新人たちは、キーンたちから話を聞いていたからある程度想像していたけど、その通りだった」


「確かに」


「何がその通りだったの?」


「うーん、集まったのは確かに新人で、新兵じゃないのよ。まずは整列がうまくできない。それで、古参兵を中心とした当番兵が、班に分かれた新人たちに対して『右向け右』といった基本的な号令から訓練するんだけど、揃わないのよ」


「あー。わかる。それ。俺も最初の実技で、右左みぎひだりにすぐ反応できなくてよくゲレード教官に怒られたもの」


「思い出した。そういえば、あなただけ何だか遅れてたものね」


「でも2日目にはちゃんと反応できるようになったぞ!」


「みんな初日の最初から簡単にできることだから、威張らないでよ」


「きょうは、まごつく新人たちが何人もいたけど、今の話のように遅くても2、3日ですぐ慣れるから問題ないよ。3カ月もすればいい線いくし、体力もついてくるから」と、トーマス。


「まだ中隊はできてないんだろうから、新中隊長の5人はなにしてるの?」


「新人の訓練の見学と、ソニアたちの訓練の見学かな。入隊してから1年しか経っていない兵隊たちが8割なんだけど、もう貫禄が違うんだよ」


「もとアービス大隊は2回も実戦で活躍してるから、いくら成人したての兵隊たちでも立派なベテランだもの」


「そういえば、来月の初めにはうちの・・・入試だろ? キーンの養女の女の子も受験するって話だったけど、大丈夫そうかい?」


「うん。ジェーンは座学の方は問題ないらしい。体格に恵まれていないから実技は厳しいけれどなんとかなると思っている」


 さすがにキーンも滑り止め・・・・のことはみんなには黙っていた。


「ジェーンが入学するのと入れ替わりに私たちが卒業するのが残念ね」とソニア。


「そういえば、合格すればジェーンは寮に入るわけだし、僕たちは学生じゃなくなるわけだから休日の日にしか会えないんだ。あれ? それって今と同じか。アハハ。

 そうだ、この前のボスニオン戦での報奨が出たんで今度の休日、またバーベキュー大会をするつもりなんだ。みんなよかったら参加してくれよ。今回は2000人も兵隊がいるから、前回と違って連隊内だけで開くつもりの準備してるんだけど、40人増えたところで構わないから」


「やったー! 俺は参加希望」


「私も!」


 結局当日用事のある者以外全員でアービス大隊のバーベキュー大会に参加することになった。前回は校長から臨時に半休を貰ってのバーベキュー大会だったが、今回は休日実施なので全員揃って昼前までにアービス連隊の訓練場にいくことになる。



 翌日、キーンは3年間担当してくれたゲレード少佐をバーベキュー大会に招待したところ、快く参加すると返事をもらった。ジェーンの受験を控え、なにげにフォローもできるのである。




 そして、バーベキュー大会当日。その日までに新人たちは号令での基本動作を卒業して、行進と駆足の訓練に移っている。




 今回もボルタ兵曹長の差配さはいでバーベキューの準備が進められている。前回野外コンロの穴掘り係だった黒玉は騎兵連隊に無期限貸出中のため、キーンがその係となっている。その関係でキーンは他の寮生たちより一足早く訓練場にやってきている。ソニアたち5人の中隊長たちも部下が作業をしているためキーンと一緒に駐屯地にやってきて、自分たちの中隊員たちの作業を見守っている。


 前回のバーベキュー大会では野外コンロ用の金具や金網などは他部隊からの借り物だったが、今回は連隊が自前で用意したものだ。


 他の兵士たちは、テーブルとイスを適当に並べていき、厨房から食材と飲み物、食器など運んでテーブルの上に置いていく。


 開会予定時間は11時ということにしているので、11時前には、ゲレード少佐を先頭にして残りの寮生たちがやってきた。陽も中点近くに上って、風もない穏やかな晴天のせいか、冬のさなかの吹きさらしの訓練場でのバーベキューではあるが、寒いわけではない。


 すでに野外コンロには火が入れられており、良い匂いも立ち始めている。ローエンから運ばれた海産物の干物もこのところ比較的安価になっており大量に仕入れてバーベキューの網で焼かれている。


「そろそろ始めましょう。まずは、連隊長殿から一言お願いします。

 全員傾聴!」


 時間になったところで、ボルタ兵曹長が号令をかけ、キーンが指揮台の上に上がった。


「新人の諸君を歓迎してバーベキュー大会を開きます。

 1日も早く先輩たちに追いつけるよう、真面目に訓練に励んでください。

 今日はほとんどの者が成人を終えているので、お酒類もたくさん用意しています。いくら飲んでもらってもかまわないけど、適量を超えないよう。

 以上」


「連隊長殿、ありがとうございました。

 それでは、各自コップないしグラスに飲み物を注いでください。……。

 いい匂いも漂っていますので、僭越せんえつですが私から、

 アービス連隊のますますの武運を祈って、乾杯!」


「「乾杯!」」


 乾杯のあと、今日の当番兵が網の上で焼けたものから順に小皿にとって回していく。


 キーンは挨拶あいさつが終わった後、すぐにゲレード少佐のもとにいった。少佐の周りには、寮生たちが集まっている。


「ゲレード教官、お忙しいところありがとうございます」


「いや、休日でもあるし、私は全く忙しくないぞ。いやー、こちらこそ呼んでくれてありがとう」


「教官はお酒ワインですね。

 どうぞ、……」


 キーンがすかさず、3分の2ほどカラになったゲレード少佐のグラスにテーブルの上に並べられていたビンからワインを注ぐ。


「いやー、済まんな。

 こういったところで飲む酒はまた格別だ。ワッハッハッハ」


 ごくごくとグラスの中のワインをほとんど一気に飲んでしまったゲレード少佐は、


「アービスは何を飲んでいる?」


「いちおうジュースを飲んでます」


「もうすぐ卒業だし、ワインくらいは飲んだほうが良いぞ。飲めないわけじゃないんだろ?」


「たくさん飲んだことはありませんが、問題なく飲めます」


「それじゃあ、グラスを替えて。いでやろう」


「ありがとうございます」


 キーンの持つ新しいグラスにゲレード少佐がなみなみとワインをそそぐ。


「ぐっといけ、ぐっと」


 ゲレード少佐は乾杯の一杯だけで酔っているわけではないが、かなり調子がいいようだ。


「いただきます」


 キーンも言われた通り一気にグラスいっぱいのワインを飲み干した。


「なかなかいい飲みっぷりじゃないか。それじゃあもう一杯」


「その前に、教官に」


 そうやって二人でワインを注ぎ合いながら2本ほどボトルが空いたところで、顔を幾分赤らめたゲレード少佐が、


「アービス、その歳でよく飲めるな」


「いままで、これほどワインを飲んだことはないんですが、なんともないようです。

 ところで教官、軍学校のつぎはどちらに?」


とりあえず・・・・・軍本営の対外部とかいう部署だ。希望は第1兵団か第2兵団かどちらかの実戦部隊・・・・だったんだけどな」

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