第256話 アービス連隊3
エルシンの王都、エルシオンの王宮宮殿内で、ギレアでの再度の敗戦と、『黄金の獅子』の1人レミア・ブラウン将軍の喪失について軍務卿バーラト・ドルガ大将軍を中心に
帰還した兵隊たちからの聞き取りからレミア・ブラウンは『サルダナの悪魔』とキーン・アービスによって討ち取られたということがわかり、今後のギレア対応を見直すことになった。
サルダナ軍には『銀戦士』が通用しないいま、ボスニオンを陥とすには『黄金の獅子』を投入せざるを得ないが、残る二人の『黄金の獅子』のうち一人でも失えば、国境地帯でのソムネアとの勢力均衡が確実に崩れてしまい、ソムネアとの国境が大きく後退することが予想される。
新たな『黄金の獅子』の誕生まで、ギレア
キーンたちはその日の訓練を終え軍学校の寮に戻っていった。
「……。そういうことで、年が明けた段階であと5名同期からうちにくることになる。そのことがみんなに知れると授業に身が入らなくなったりするから秘密にしておいて」
「了解」
「しかし、モーデル解放軍か。なんだかエライことになってきたなー」
「モーデルにいるエルシン軍はそんなに多くないはず。その代わり野戦で雌雄を決するような戦いだけじゃなくなるもしれないから、黒槍だけでなく、剣も使えるようになっていたほうがいいかもしれない。
木剣を人数分揃えて、変性させておこう」
「鋼の剣を人数分揃えるのはそれなりに大変でしょうけど、木剣だと簡単に揃えることができるからほんとうにキーンって便利よね」
「今となっては変性させるのも簡単だからね」
ソニアたちと連れ立って寮に帰ると、すぐに寮生たちが集まってきたので、
「寮母のおばさんに挨拶した後、着替えて食堂に行くから」といっておいた。
寮母のおばさんに挨拶したところ、
「アービスくんおかえりなさい。食事は用意してなかったはずだから、まかないに一人前用意させる」と言ってくれた。
礼を言っていったん自室に戻ったキーンは、すぐに普段着に着替えて食堂に下りていった。
一緒に帰ったソニアたちのうちトーマスだけは食堂に下りてきていた。他の寮生たちは食堂に集まっていた。
いつもの席に座ったキーンに、
「トーマスたちから、ボスニオンでの戦いの話はいちおう聞いてるけど、やはりここは、アイヴィーさんと『黄金の獅子』を斃したキーンに詳しい話を聞きたいなー」
「キーンが帰ってきたということはアイヴィーさんは良くなったんだろ?」
「大剣で『黄金の獅子』を斃したそうだけど、ソニアたちはその戦いを直接は見てなかったんだよ」
ワイワイ言っているうちにソニアたちも食堂に入ってきたので、
「わかった。
まず、アイヴィーは元通りに治ったよ」
「よかったー」
「それと、『黄金の獅子』との戦いだけど、その戦いの何日か前に全力で魔術攻撃をしかけたんだけど、全く効かなかったんだよ」
「その全力魔術攻撃ってどんなことしたの?」
「底の開いた円錐形をミニオンの殻で作ってその奥でファイヤーボールを爆発させたんだ。そうすると円錐の底が向いた方向に爆発の威力が真っ直ぐ進むんだ」
「うわー」
「うん。そのファイヤーボールも、僕の全力のファイヤーボールだからかなり威力はあると思う」
「うわー」
「それで、その円錐を『黄金の獅子』の周りに64個作って、その円錐全部でファイヤーボールを爆発させたんだ」
「64個も同時に?」
「そう」
「それでも、『黄金の獅子』は無傷?」
「うん。『黄金の獅子』の周囲100メーターは吹き飛んだんだけど、『黄金の獅子』は立ち止まっただけだった。2回その攻撃をしたところで無駄だと思い諦めた」
「周囲100メートルが吹き飛ぶような爆発でなんともなかったんだ」
「魔術攻撃は無駄みたいだったから、勝てる見込みがあるのは大剣しかなくなったんだよ。それでそれなりに訓練したんだけど思ったようにいかなくて、このまま『黄金の獅子』と対決すれば危ないかなとか思ってたら、ボーア大将からも直接対決はするなと釘を差されたんだ」
「そうなんだ」
「うん。そのつもりでいたんだけど、『黄金の獅子』がどこにいるかわからないまま、大隊を率いて敵の側方に回り込んだら、敵の側面部隊に出くわしてしまい、そのまま戦っていたんだ。そしたら、いきなり『黄金の獅子』が目の前に現れたので、逃げるわけにもいかず、応戦するしかなかったってわけ」
「それはまた」
「『黄金の獅子』は大型ハンマーを持っているんだけど、僕の大剣で受けるのが精一杯のスピードでしかも一撃一撃がずっしり重たいんだ」
キーンの『黄金の獅子』戦の話を寮生たちは声も立てずに聞き入っている。
「それを何回か受けていたんだけど全く反撃なんてできそうにないくらい追い込まれたんだよ。あと受けても数回、それ以上はもたないと思ってたところでアイヴィーが牽制してくれたのでなんとか一息入れることができたんだ」
「アイヴィーのおかげでなんとかしのいでたら、アイヴィーが『黄金の獅子』を止めると僕の前に出て、『黄金の獅子』のハンマーを左肩に受けたんだ。ハンマーヘッドはアイヴィーの左肩にめり込んで、簡単には抜けなくなったところを、アイヴィーが右手でハンマーを持つ『黄金の獅子』の左手首をがっちり掴んで止めてくれたんだ。僕は動きの止まった『黄金の獅子』のヘルメットに
「アイヴィーさんの肩がそこまで壊れても元に戻ったならよかった。普通の人なら簡単に死んでるよね。怖くなかったの?」
「いきなり隊列の兵隊たちが目の前で吹き飛ばされて気づけば目の前に『黄金の獅子』がいてハンマーを振り上げてたんだ。さっきも言ったけど、逃げるに逃げられず、ハンマーを受けるだけで精一杯で、そのまま戦いが始まったんだよ。怖いとか考えもしなかった」
「そういうところが、凄いところだよな」
その日の夜、キーンはクリスに『セルフィナさんのことで大事な話があるので次の休日クリスの屋敷にいく』と手紙を書いて、キャリーミニオンに届けさせた。
翌朝、キーンは早めに寮を出て、校長室に向かった。少し早いかなと思ったが、校長は在室していた。
「おはようございます」
「アービス生徒。おはよう。
アイヴィー殿の負傷を治すために休みをとったと聞いていたが、朝から顔を出したところも見るとアイヴィー殿の負傷は良くなったということかね?」
「はい。元通りに治りました。直接連絡をせず勝手に休んで申し訳ありません」
「規則上はマズいのだが、アブリル生徒から話は聞いているし、すでに少佐であるアービス生徒を規則で縛るわけにもいかんしな。しかもアイヴィー殿と協力しての武功を立てたさいアイヴィー殿が負傷した聞く。大目に見んわけにはいかんからな。
それと、儂の方から、ゲレード少佐に話をしておいたから、補習はないと思う」
「ありがとうございます」
「そうそう、年が明けてからのことはアービス生徒も軍本営から聞いておるだろ?」
「はい」
「年が明けたら1号生徒の中から5名をアービス生徒の部隊に送ることになるが、だれが欲しいとかあるかね?」
「いえ、みんな優劣つけがたい同期ですので、だれが配属されても問題ありません」
「わかった」
「それでは失礼します」
校長室を辞して、教室へ向かいながら、キーンは補習がないことが確定したことで気持ちが急に軽くなってきた。
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