第250話 バーロムへ

[まえがき]

2022年4月10日、20万PV達成しました。ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 キーンは井戸の底から通路側に戻り、そこからアイヴィーが壊した石組みの破片を集めコンプレスで固めて、簡単に孔を塞いだ。それだけでは心配だったので、手前の床に大穴を掘り返し、出てきた床材やその下の岩石を使って孔を塞いだ正面の壁の手前に厚さ5メートルほどの壁を作り完全に井戸と通路を遮断してしまった。


「これなら普通の工具じゃ孔も空かないから大丈夫と思う」


「これなら、私でも簡単には壊せそうにありません。

 最初の部屋に戻りましょうか」


 二人揃って駆け出し、1時間半ほどで最初の部屋まで戻り、部屋の中を良く見てなにもないことを二人で確認した。


「これでこの遺跡の中で行けるところは全部回ったみたいだね」


「そうですね」


「セントラムに帰ろうか」


「せっかくですから、バーロムに寄ってみませんか?」


「そうだね。休みは1、2カ月って言って許可貰ってるし。遺跡のことが書かれていたという爺ちゃんの古文書も気になるから探してみよう。アイヴィーの肩が早く治ったから余裕があるね」


 最初の部屋を出たところで、振り返ったキーンが、


「僕が斃した鎧の巨人もそのうち直っていそうだから、人が勝手に中に入ったら危ないよね。人や砂が入ってこないようしっかり閉じてしまおう。

 うん? よく考えたら、あの鎧の巨人だけどあんなのが味方だと心強いし、敵も驚くか。あの巨人を直るくらいなら、この遺跡のどこかで新しく巨人を作ることもできる?」


「どうなんでしょう。私自身あのコンテナの中に入っているだけで肩が直りましたから修理はできると思いますが、新たに作り出すことはないんじゃないでしょうか。現に私がこの遺跡を去って数十年経っていますがあのコンテナは私が最初に出てからそのままみたいでしたし」


 キーンは最初にディッグアースで孔を空けたときにできた小石の山を使って出口側から部屋への入り口の通路を塞いでしまった。


「これでよし」




 二人はきたときと同じく1日かけて山から国境の峠までたどり着いた。そこからバーロムまで街道伝いに約700キロあるのだが、途中宿場町もあるので旅は困難ではない。




 二人は国境の峠からちょうど1週間で、ギレアを横断しヤーレム経由でバーロムまでたどり着いた。街に入ったところでキーンはいったん強化を解いている。


 バーロムではまずテンダロスの墓を訪ねて王都に出てからのことを報告し、その後、商業ギルドのギルド長マーサ・ハネリーを二人で訪ねた。



 石造りの商業ギルドの玄関ロビーの窓口で案内を乞い、4階にあるギルド長室に通してもらった。


 部屋に入ったアイヴィーはキーンのマントを脱いだので、黒い戦闘服姿だ。


 マーサ・ハネリーはアイヴィーの派手・・な姿を見て笑いながら、


「アイヴィーとキーンくん、お久しぶり。

 そういえば、キーンは子爵閣下だったわね。キーンと気安く呼べなかったわ」


「いえいえ、キーンで十分ですから」


「じゃあ、お言葉に甘えて。

 アイヴィーのその格好は久しぶりね。

 それで何かあったの?」


「いえ、休暇をとって用事を済ませたもので一度屋敷に帰って様子を見ようとやってきました。せっかくなのでご挨拶にきました」


「あら、わざわざありがとう。屋敷の方は特に問題ないようよ」


「ありがとうございます」


「そう言えば、先日のボスニオンでの戦いのうわさがここにも流れてきてるわ。この街でもキーンくんとアービス大隊のうわさで持ちきりよ。

 そういえば、アイヴィーが敵の大物を討ち取るとき負傷したとかうわさになってたけど、見た感じは大丈夫そうね」


「はい。キーンが休暇をとったのは、肩を潰され左腕が全く動かなくなった私のためでした。そのおかげで無事直すことができました。今はこの通り以前と変わりません」


 そう言ってアイヴィーが肩を回してみせた。


「良かったわ。アイヴィーが負傷したなんてわたしは信じてなかったんだけどね。

 二人とも、いつまでこっちにいられるの?」


「屋敷で少し探しものをするつもりなのですが、それでも、2、3日もあれば十分なので」


「そう。それは残念」


「何かありましたか?」


「せっかくだから、二人の凱旋がいせんを祝ってギルド主催でパーティーを開きたいと思いついたんだけどね」


「申し訳ありません。でも、来年にはまた戻ってくるつもりなので、そのときは是非ぜひ


「待ってるわよ」


 二人はギルド長と雑談しながら出されたお茶を飲んで、ギルドを後にした。



 ギルドを出た二人は商店街で食料品など簡単な買い物をして屋敷に向かった。買い物をしている間、街の人が二人を見守っていた。キーンの方は将校の軍服の上に背嚢をかつぎその背嚢には大剣がくくり付けられているし、アイヴィーの方は寒いわけでもなく雨も降っていないのに薄黒いマントを着ている。かなり目立つ。とはいえ、どうすることもできないし、今更服を買うこともないので二人は極力気にしないようにして買い物を済ませた。



 バーロムの南門を出たところでキーンは強化をかけた。そこから屋敷までは7キロほどなので、二人の足なら20分ほどだ。


「この道も久しぶりだね」


「そうですね。秋も深まって並木の葉も落ち始めていますから道に葉が散らばりますね」



 ローム湖へ続く街道を折れて屋敷への小路に入ったところで、母親の墓だと聞かされた丸石に手を触れたキーンはアイヴィーと屋敷に向かった。



 屋敷の前の広場は二人が屋敷を去ったときと変わらず、雑草なども生えていなかった。


「ハネリーさんところでちゃんと面倒を見てくれていたようですね」


「そうだね。裏の畑や花壇も荒れてないかもね」


「そうですね。手入れされていないのが普通ですから期待しないでいましょう」


「アイヴィー、鍵は持ってきている?」


「さすがに、この屋敷の鍵は持ってきてはいませんが問題ありません」


 アイヴィーは右手の人差し指を10センチほど伸ばして鍵穴に入れた。


 すぐにカシャリと音がして鍵が開いた。


 扉を開けて屋敷の中に入ったところ、玄関の中のものは薄っすらとホコリをかぶっていたが人が入ったような気配は全く無かった。


 屋敷中の窓を開けながら一通り屋敷の中を点検した後は裏庭の点検だ。


「やっぱり手入れされてる」


 裏庭の花壇は立派に手入れされていた。野菜畑の方はきれいに耕され雑草などもほとんど生えていなかったが何も植えられてはいなかった。


「ありがたいですね。セントラムに帰ったらお礼の手紙を出しておきます」


「そうだね」



 屋敷の中に戻ったアイヴィーは服を着替えたが、キーンには体に合う服がなかったので軍服のままだった。


「キーン、軍服のまま雑巾がけをするとかなり汚れますから、居間で休んでいてください」


 そういってアイヴィーは屋敷の中を雑巾がけしていった。


 1時間もしないうちにホコリ等はきれいになった。


「私はこれから、簡単なものですが、夕食の準備をします。その間キーンはお風呂に入ってもいいでしょう。探しものは明日にしましょう。明日1日あればなんとかなるでしょう」


「下着は替えがあるから、お風呂に入ってくるよ」



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