第249話 遺跡探検2、帝国の藩屏(はんぺい)、デクスシエロ

[まえがき]

副題『帝国の藩屏はんぺい』がやっと回収されます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 キーンたちは各種の金属インゴットが積まれた倉庫部屋を一周りしてみたが、インゴットの小山があるだけで先に進めるような通路はなかった。時刻は昼近くだったので、キーンだけ軽く携帯食を食べたあと、すぐに二人は最初の部屋に戻っていった。倉庫部屋を出たところで、部屋の扉が音もなく閉まった。



 最初の部屋に戻る道すがら、


「金属インゴットを保管しておくなら、加工する場所の近くに置いたほうが便利だと思うけど、あの部屋も行き止まりだったね」


「何のあてもなくただ金属を保管しただけのようですね」


「不思議だなー。実際ここを作った人ってどうなったんだろう? みんな死んじゃってるのかな」


「世界にはこういった遺跡がいくつかあるようなことをテンダロスが言っていましたから、まだどこかに生き残っているのかもしれません。それか、今生きている人間たちの祖先かもしれません」


「そういうこともあるかも。こんなものを作った人たちはきっとすごい人たちだったんだろうけど、長い年月で子孫たちがいろんなことを忘れたってことか」




 最初の部屋に戻ったところ、今度はいまきた通路の反対側、南側に向かって新たに通路ができていた。


「やっぱり、調べないといけないよね」


「そうですね」


 二人は目の前に新しく開かれた通路に入っていった。通路は他の通路と同じ材質、同じ造りでまっすぐ伸びていたが、下り坂になっていた。


 しばらく通路を進んでいったところで、


「この下り坂はどこまで続くのかな?」


「50メートルあたり1メートル下っています。今まで通り通路の長さが6キロなら120メートル下ることになります。なにか理由があるのでしょう」


 坂を下って1時間経過したが、行き止まりにはならず、通路はその先どこまでも続いているように見えた。


「どこまで続くのかなー」


 さらに1時間歩いたが、まるで通路に変化はない。


「アイヴィー、この際だから走っていこう」


「そうですね」



 そこから駆足で1時間ほど進んだところでようやく行き止まりが見えてきた。


「30キロはあったね」


「あの部屋から600メートルほど下っています。この位置はモーデルの聖王都モデナの辺りではないでしょうか」


「そんな所まで来ちゃったんだ。地面までどのくらいあるかな」


「モデナの標高は300メートルほどだったと思います。最初の部屋の標高は700メートルほどでしたからここはモデナの地表から200メートルほど下ではないでしょうか」


 行き止まりとなった通路の正面の壁は石組みの壁だった。


「この壁はちょっと感じが違うね」


「そうですね。これは人の手によって組まれた壁に見えます」


「そうだね。石も完全にピッタリくっついいているわけじゃなくて微妙にずれているから人が造ったものだよね。もろそうに見えるけど、壊して大丈夫なのかな?」


「壊してしまうと後が大変そうですが、地下200メートルにあるものですから誰にもわからないのではないでしょうか」


「それじゃあ、適当に壊しちゃおう。最後に適当にコンプレスで砕けた石を元の位置で固めてしまえば見た目は悪くてもいちおう塞ぐことはできるしね」


「キーン、私が壊しましょう。左肩も直っていますし、見たところ脆そうですから、この程度の石なら簡単に砕けると思います」


 キーンはディッグアースで壁に孔を開けようかと思ったのだが、アイヴィーも肩の調子を確かめたいだろうと思い黙って見守ることにしたようだ。


 アイヴィーが進み出て石の壁に左の拳を突き出した。


 ドーン!


 予想通り簡単に石の塊が砕け散り、その後数個の石の塊をアイヴィーが砕いたことで二人が並んで通れるくらいの孔が石壁に空いた。


「左肩も快調のようだね」


 キーンの言葉にアイヴィーが笑い、キーンも笑った。



 中に入るとそこは直径が20メートルほどの円形の部屋だった。


 部屋?の先には窪みがあり、青みを帯びた白い鎧の巨人が立っていた。一瞬キーンはハットして身構えたが、巨人が動く気配は無かった。大きさ的には先程の鎧の巨人や、デクスフェロの1.5倍ほどある。



 部屋の真ん中に出て、見上げると天井はなく、はるか上の方に青空が見えた。丸い部屋と言うより井戸の底のような場所だった。筒状になった石組みの壁には石の出っ張りを並べた回り階段が作られていて、上まで続いていた。石壁の上の方は緑に見え、コケか何かの植物が上の方の石壁を覆っているように見える。


 天井から雨が降って巨人を濡らすこともあるのだろうが、巨人の表面はつるつるしていてどこにも汚れた様子はない。左胸にかえでの葉の形をした赤いマークが見えた。


 巨人の立つ窪みの脇に銘板がはめ込まれた台座のようなものが置かれていた。台座自身は曇り一つない銀色の金属でできている。はめ込まれた銘板も金色に輝いており、銘板には巨人の名まえらしきものが彫られ、その下にキーンには読めない文字が刻み込まれていた。


            『天空の覇者:デクスシエロ』

ᚲᚢᛗ ᛞᛟᛗᛁᚾᚢᛋ ᛁᛗᛈᛖᚱᛁᛁ ᚠᛖᚢᛞᚨᛚᛁᛋ, ᛞᛟᛗᛁᚾᚢᛋᛢᚢᛖ ᚲᚨᛖᛚᛟᚱᚢᛗ, ᚨᛞ ᚲᛟᛖᛚᚢᛗ ᛋᚢᚱᚷᛁᛏ ᛖᛏ ᚨᛞ ᛁᚾᚠᛖᚱᛟᛋ ᛏᛖᚾᛞᛁᛏ, ᚾᛁᚺᛁᛚ ᛈᛟᛏᛖᛋᛏ ᛁᛗᛈᛖᚱᛁᛟ ᚱᛖᛋᛁᛋᛏᛖᚱᛖ.


「『天空の覇者:デクスシエロ』は読めるけど、その下はなんて書いてあるんだろう? アイヴィー、読める?」


「はい。読めます。今の言葉に訳すと、

『モーデル帝国の藩屏たる天空の覇者が天に昇り下界を睥睨へいげいするとき、なにものもモーデルにあらがうことあたわわず』

 というような意味になると思います」


「この『天空の覇者』っていうのもすごいけど、書いてることもすごいね。それに名まえがデクスフェロに似てるけど、これもアーティファクトだよね」


「おそらくそうなのでしょう」


「『天空の覇者』というくらいだから、空を飛べるんだろうな。『モーデル帝国の藩屏はんぺい』ってことは?」


「モーデルはその昔、このロドネア全土を支配する帝国だったようですから、その時代モーデルのために働いたということでしょう」


「こんなのに空を飛ばれちゃどうしようもないよね。じゃあなんで今モーデルは小さくなってるんだろう?」


「このアーティファクトが動かなくなってひさしいからではないでしょうか」


「ああ、そういうことか。逆に言うと、これがちゃんと動けばモーデルは昔のようになるってことかな」


「きっとそうだと思います」


 キーンはデクスシエロの後ろに回って見上げたが、人が乗り込めるような穴など何もない。


「……。中に人が入って動かすんじゃなさそうだけど、どうやって動かすのかな?」


「このアーティファクトのために『鍵』が必要なのかもしれません。

 それより、ここは聖王都の真ん中あたりだと思いますが、こんな穴がみやこの真ん中に開いていればこの場所をみんな知っているでしょうし、どうなんでしょう? こういった穴がモーデルにあるとはこれまで聞いたことはないのですが」


「そう言えばそうだよね。こんな穴があれば誰だって何だろうと思うし、うわさになるはずだものね。

 もしかして、ここって聖王都の真ん中は真ん中でも聖王宮の中かも?」


「それなら、一般の人が目にすることはないでしょうから可能性は高そうですね」


「階段を登ってみようか?」


「キーンの言うようにここが聖王宮だとすると最悪警備隊に捕まるかもしれませんから、そろそろ帰りませんか」


「そうだった。それじゃあ帰ろう。壊した壁の孔は元通りにはならないけど大丈夫かな」


「誰かがここにきたことはわかるでしょうが、簡単には掘り起こせないようにキーンの魔術で固めてしまえば大丈夫でしょう」



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