第13話 キーン、魔術大学付属校に入学する
[まえがき]
紹介文をちょっとだけ変えました。
それに伴い、2021年8月17日23時ごろ、第1話に(注)として、
サルダナ王国
サルダナ王国は北をセロト王国、北西をローエン王国、西と南をダレン王国、東をギレア王国と接する中小国の1つ。ギレアを除く3国はいわゆる大国である。ダレン王国との関係は険悪とも言っていい状態が30年ほど続いている。
を付け加えました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔術大学付属校で指定された制服は、男子の場合、鼠色のズボンに前開きのボタンの付いた白い襟付きシャツ。赤、または紺の無地のネクタイに黒に近い紺の長そでのジャケット。ジャケットの左の袖口に1本だけ白いラインが入っている。靴は黒の革靴。それに冬の防寒用に黒のフード付きローブが学校指定の制服となる。
ちなみに女子の制服で男子と違うところは、下が鼠色のスカート、ローブの色が
入学式までに
真新しい制服を着込み、キーンは学校の正門を目指した。学校への道すがら、付属校の生徒のほとんどがフードを後ろに垂らしてローブを着ていたが、キーンは寒さ暑さについては身体強化魔術で何とでもなるため、ローブを最初から作っていない。
入学式は正門を入って少し先にある講堂で行われるということだった。保護者も講堂に入り子弟の晴れ姿を見ることができるということだったが、アイヴィーは今日の入学式には顔を出さないようだ。
講堂に入ると、すでに多くの新入生と保護者が集まっていた。保護者の座る椅子はないようだったが、生徒たちは並べられた木の椅子に座っていた。キーンは空いている席に適当に座って式の始まりを待ちながらクリスはどこかにいるのだろうかと目で探したが、目だけでは見つからなかった。
さすがにキーンもこの場でサーチ系の魔術は使わない方がいいくらいの
講堂の前の方は一段高いステージになっており、そこに教官と思われる人が順に現れ、奥の方に横並びになった。ステージの真ん中には小さな机が一つ置いてあり、校長のドジョウひげおじさんが最後にやって来て、その机の後ろに立ってなにやら話し始めた。
もちろん、キーンはテンダロスの葬儀を含めてもこれほど多人数の集まった
キーンの感覚的にはほんのしばらくして、誰かが自分の肩をたたいている。ハッとして、そちらを振り向くと、キーンの肩をたたいていたのは一人の女子で、見上げるとクリスだった。
「キーン、お目覚め?」
「やあ、クリス、寝てたわけじゃないんだけれど。気付かせてくれてありがとう」
「入学式が終わったので、みんな教室の方に移動して行ったわよ。わたしたちも急ぎましょう」
たしかに、講堂の中に残っているのは、キーンとクリスだけだった。
「教室の場所は分かるの?」
「大丈夫、1年生の教室の場所はわかるから」
「そういえば、1学年2クラスだけど、クリスのクラスは?」
「きみと同じAクラスよ。っていうか、きみ、もしかして自分のクラスを知らなかったの?」
「知らなかった」
「やっぱり。まあいいわ。急ぎましょう」
クリスと一緒に講堂を出て、校舎の中の廊下を通り1年のAクラスの教室に向かったキーン。
「ここが、教室よ」
確かに扉の横に『1-A』と書いてある。
扉を開くと、教室は座席が階段状になった、いわゆる階段教室だった。キーンとクリス以外の生徒で前の方から席は埋まっており、一番後ろの席しか空いていなかった。
階段を上ってその空いた席に二人並んで座っていたら、すぐに担任の教師と思われる女性が教室に入ってきた。
その人は教壇に上がり教卓を前にして、
「さきほど入学式でも自己紹介しましたが、私はこのAクラスを受け持つドーラ・フィッシャー。専門は魔術理論なんだけど、1年生で受け持つ授業は基礎魔術1。皆さんにいろいろな呪文を暗記させる授業ね。このクラスには、入試の実技で満点のキーン・アービスくんもいるし、筆記試験で最高点のクリス・ソーンさんもいるから、みんなも二人に追いつくように頑張るのよ。授業は明日からなので、みんな最初の授業位は遅刻しないでね。それと教室での席が決まっていないのは不便なので今座っている席を明日からの自分の席ということにして下さい。いいわね。
せっかくだから、みんなにも自己紹介してもらおうかしら。
順番に名前と出身地、得意な魔術と好きなことくらい言ってくれればいいわ。右前のあなたから順に、教壇まで出てきて、みんなに向かって自己紹介してくれる?」
「はい。
……。メリッサ・コーレル、出身はここ王都です。得意な魔術は『火』系統、好きなことは、魔術の訓練です」
「コーレルさん、ありがとう。
それじゃあ、次の人、……」
……
ここまで自己紹介を聞いた限りでは、このクラスには前年度の1年生、いわゆる留年生はいなかったようだ。
「それでは、クリス・ソーンさんよね」
「はい。
……。クリス・ソーン、出身は王都です。得意な魔術は『水』系統、好きなことは、魔術で遊ぶことです」
「ソーンさん、ありがとう。魔術で遊ぶというのは余裕があって
「それでは、最後に、キーン・アービスくん」
「はい。
……。キーン・アービスです。出身はバーロムです。不得意な魔術はおそらくありません。あっと、禁呪指定魔術はまだ知らないので使えません。好きなことは、大剣を振り回すことです」
「不得手な魔術がないとは、さすがは大賢者アービス師の
それでは、みなさん、明日から授業が始まりますから、遅れないよう登校してください」
そういって、フィッシャー先生は教室を出ていった。そのあと、生徒たちも三々五々教室を去って下校して行った。
キーンとクリスは一緒に教室を出て並んで校門に向かった。制服を着てちゃんとした付属校の生徒になった今は裏門も通行可能なのだろうが、クリスとおしゃべりしているのが楽しいので、正門の方に連れ立って歩いて行った。
「ねえ、きみ、大剣が趣味なの?」
「趣味というか、振り回すのは好きだよ」
「強いの?」
「どうだろう? まだ実際に戦ったことはないんだ」
「それはそうよね。でもきみのことだからきっと大剣も恐ろしいほど強いんじゃない?」
「そうだったらいいんだけどね」
「きみは、杖なんかの発動体を使わないんだから、大剣を発動体なんだって言って学校に持ってきてよ。ちょっと見てみたいわ」
「大剣が発動体ってあるのかな?」
「王宮の
「へー、そうなんだ。おもしろそうだね」
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