第12話 合格発表


 入学試験が午前の実技試験だけで終わってしまったキーンは、持参した昼食の弁当を食べることなく家に帰ってきた。


「ただいま」


「キーン、こんなに早く帰って来てどうしました? お弁当が足らなかったとか?」


 さすがのアイヴィーもキーンがこの時間に戻ってくるとは予想外だったため、とんちんかんなことを口にしてしまった。


「合格したことを早くアイヴィーに知らせようと思ってすぐに帰ってきたんだ。弁当はまだ食べてないよ」


「キーン、まだ試験中なのに合格したというのはどういったことでしょう? 勝手に試験会場から帰ってしまっては失格になりませんか?」


「実技試験で満点だったから午後からの試験は受けなくて大丈夫なんだって。明後日あさっての合格発表の時、手続きがあるから来てくれって言われたよ」


「入試要項にそういう規定もありましたね。キーンは魔術にかけては天才ですから」


「天才っていまでも何だかよく分からないけれど。

 そういえば実技試験の始まる前に他の受験生たちと列に並んでいたら近くに立っていた女子にバカって言われたんだけど、バカって何?」


「そんなことを言われましたか。どういったいきさつでそんなことを言われたのかは分かりませんが、バカというのは頭の働きが弱いってことです」


「ふーん、そうなんだ。じゃあ、僕は頭の働きが弱いのかな?」


「キーンの頭の働きは常人をはるかに上回っていますから安心してください。キーンの頭の働きが悪いなら、世の中のほとんどの人は頭が全く働かない人になります」


「あと、インチキって言われた」


「それもどういったいきさつで言われたのか分からないので良く分かりませんが、言葉の単純な意味合いは、嘘をいたりごまかしたりすることです。嘘やごまかしもキーンには難しい言葉だと思いますが、相手にとって嫌なことをすることの一つだと思えばいいです。そのうちキーンも学校に通うようになるのでそういった言葉を知るようになると思います」


「ふーん。あんまりいい言葉じゃないよね」


「そうですね。キーンはそういった言葉を他人ひとに向かって言う必要はありません」


「分かってる」


 そんな会話をアイヴィーとして少しばかり知識を増やしたキーンだった。





 そして、今日は入試結果の発表日。


 入学手続きをするためアイヴィーもキーンと一緒に付属校に向かった。


 付属校の裏門はキーンの自宅のすぐそばなのだが、教職員と在校生以外は通行禁止らしく、表門に素直に回って校庭に入っていった。校庭の脇、掲示板の立っている辺りに人が集まっているので、そこで合格発表が行われるらしい。


 二人がその掲示板の近くまでやってきて様子を見てみると、掲示板にはすでに合格者の受験番号が張り出されているようで、保護者と一緒に悲喜こもごもと言った状況だった。


 キーンは人混みをかき分けて掲示板の正面まで進み、そこに張り出された合格者の一覧表に書かれた合格者の受験番号を順に見ていった。取りあえず、自分の受験番号の207が合格者として書かれていることを確認してキーンは一安心。自分の番号のすぐ下、一覧表の一番最後にクリスの受験番号208もちゃんと書かれていたのでこちらも一安心したキーンだった。


 キーンは気にしていなかったがメリッサ・コーレルの受験番号206も合格者の一覧表に載っていたようだ。


 安心したキーンは邪魔にならないよう掲示板の前からアイヴィーの立つ後ろの方に移動しようとしたところ、掲示板の脇にクリス・ソーンが立っていた。彼女は一人で受験結果を確認しに来たようだ。一人でいるということは手続きも自分でするのだろう。


 彼女もキーンを見つけたようで、


「あら、キーン・アービス、こんにちは。わたしも受かったわ」


「やあ、クリス・ソーン、おめでとう。いま合格者の番号を見てたらきみの番号があったから安心してたんだ」


「それはありがとう。お隣はきみのお姉さま?」


「私はキーンの従者のアイヴィーといいます」


「わたしは、クリス・ソーン。大賢者の養子のキーンとアイヴィー? えっ! あの・・アイヴィー? 失礼しました、アイヴィーさん」


「おそらく、その・・アイヴィーと思います。これからもキーンをよろしくお願いします」


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 急にクリスがかしこまってしまったのに驚いたキーンだが、キーンには、『あの』とか『その』アイヴィーが何なのかは全く分からなかった。



 用事で遅れてくる祖父と待ち合わせがあるというクリスとはそこで別れ、二人は入学手続きのため校舎の玄関の先にある事務室で手続きを済ませた。


 入学式は翌月の初日。制服などは学校指定の仕立て屋でその日までそろえる必要があるため、早めに注文するよう窓口でアドバイスされた。




 場所は変わって、ここは王都セントラムの中央にある王宮宮殿内。


 サルダナ国王ローデム2世の執務室に宮内省のサイモン長官が訪れたところだ。


「陛下、ご報告があり参りました」


「なんだね?」


「アービス師の養子、キーン・アービス殿が魔術大学の付属校に入学することが決まったようです。アービス師以来の成績だったそうです」


「おお、そうか。亡き師もさぞやお喜びであろう。サイモン長官、表立って特別なことはできないが、彼のことは気に掛けておいてくれ」


かしこまりました」




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