FPSで伍長だから雑魚だと思った? 実は最強クラスです。僕を追放した奴等は後悔しても、もう遅い。あと、リアルで会ったフレンドはメスガキでした。一緒に仲良くゲームします。
番外編 経験者不在のゲーマーチームはどうやってプロチームに対抗していたのか
番外編
番外編 経験者不在のゲーマーチームはどうやってプロチームに対抗していたのか
◆ まえがき
これはカズ、アリサ、ジェシカが居ない状況でゲーマーチームがどうやってBoDプロチームと互角以上に渡り合っていたかを紹介する番外編です。
◆ 本編
イベント二日目の午前、声優チームは和気藹々と雑談をしながら対戦に参加していた。
そんな中、唯一のBoD経験者である青葉の目に一つのキルログが飛びこんできた。
「あれえ。アリサちゃんがカズ君をTKしちゃった」
「TKって何、青葉ぁ」
「チームキルの略で。味方プレイヤーを殺すことだよ」
「ええ~。味方を間違って撃っても死なないんじゃないの~?」
「えっとねえ。
キルログって『誰が、何で、誰を』殺したのかが出るんだけど、厳密には違うの。死んだ人が最後に喰らった攻撃が表示されるの」
「分からないよ。青葉ぁ~」
青葉は動画配信中のため、分隊員の声優だけでなく、一般の視聴者も意識して丁寧に説明したのだが、簡単には伝わらない。
「んー。例えば、私が美貴さんを鉄砲で撃ってもノーダメージなんだけど」
「うん。それは分かる」
「美貴さんが、炎上中の車両の上に乗ってライフがゴリゴリ減っているときに、私が美貴を撃ったとするよ。そうしたら、キルログには私が美貴さんを殺したって出るの」
「焼死じゃないの?」
「うん。私が最後に攻撃を当てたから、私が殺したことになるの」
「難しい、難しいって。青葉、ホント、ガチプレイヤーだね」
「もーう。そんなにガチプレイヤーじゃないよ。BoDの総プレイ時間100日くらいだもん」
「プレイ時間の単位が『日』って。ヤバい。ガチすぎる」
「もーう。ガチじゃないもーん!」
青葉は配信を意識して、明るく振る舞っているが、内心では混乱中であった。
理屈では分かっていても、爆発物以外で味方が味方をキルするログなど、100時間に一度見ればいいくらいのレアなケースだ。
(意図的にTKするなら、車両で走り寄って、キルしたい相手の直前で飛び降りる! そうすれば無人の車両は走り続けて味方プレイヤーをひき殺す。キルログには、不審死として記録される……。カズ君やアリサちゃんなら、それくらいのことは出来るはず。じゃあ、いったい、なんでアリサちゃんがカズ君を……。ナイフで斬られそうになっているカズ君をアリサちゃんが助けようとして誤射した? でも、ダメージ入らないよね? FF禁止ルールで、狙撃で味方を殺すってどういう状況?)
長考が油断につながり、青葉達声優チームはビルとビルの間を移動している最中、横合いから撃たれた。
「あっ。死んじゃったー」
「もーう。経験者は青葉だけなんだから、しっかりしてよねー」
「ごめーん。あれ?」
再出撃待ちの画面で青葉は、カズとアリサが死亡したまま再出撃していないことに気付く。
(あれ? ふたりは再出撃可能になっているのに、プレイヤー一覧のIDの横が死亡マークになったまま……。どうなってるの?!)
仲間の声優達が、BoDがいかに興奮するかアピールしている。
ゲームメーカーがスポンサーの大会だから、当然のことだ。
しかし、青葉は会話に参加せずに、思考の海へ深く潜る。
(もしこのラウンドを落として殲滅戦になったら、いくらなんでも勝ち目はないよね? なんとしても、このラウンドで勝たないと……。そうなると、あの作戦を実行するしかない?)
「青葉、青葉~。聞いてる? 次はみんな援護兵になって救急パックで回復しながら移動しようよ」
「……待って」
青葉は、プレイヤー一覧を見て、ほぼ全員が死亡中であることを知り、決断。
不幸中の幸いだが、多くのプレイヤーと会話が出来る。
声優チーム以外は動画配信に配慮しているため、死亡中の待機画面では口を閉ざしているが、聞こえているはずだし呼びかければ返事はあるはず。
「みなさん。聞いてください。奥の手を使いましょう。カズ君とアリサちゃんに何かトラブルかも」
「……あの。僕の左、3人、部屋に居ないみたいですよ」
遠慮しがちな男の声だ。
動画配信されることへの羞恥と、女性声優に話しかけることへの緊張で、声は震えている。
「え? 居ない……? 機材トラブル?」
全プレイヤーが再出撃可能になった。
出撃しているのはGameEvent12のみなので、いつまでも、作戦を練っているわけにはいかない。
青葉は決断する。
「殲滅戦でプロを相手にしたら勝ち目はありません。私達が勝利するには、このラウンドで相手の隙を突いて旗を奪うしかありません。けど、カズ君とアリサちゃんが居なければそれも無理。だから、私達はカズ君達が帰ってくるまで、全力で時間を稼ぎましょう。先ずはなんとかして、拠点を砲撃している戦車を倒さないと」
「だったら――」
「――俺達に任せてくれ」
名乗り出たのはカズの分隊員A2とA3だ。
彼等はBoD初心者だ。
どうあがいてもBoDのプロプレイヤーには勝てない。
だが、ふたりともゲーム自体は大ベテラン。
彼等には、彼等のジャンルでゲーマーとして培ってきた経験がある。
「俺が移動のタイミングを指示する。みんなは俺に従ってくれ」
「みんなが敵の注意を分散させてくれたら、俺が敵戦車を排除する」
A2とA3にはふたりで温めてきた作戦がある。
彼等もまた、声優青葉と同様に、カズとアリサの不審な状況を目の当たりにして、対策の必要性を感じていた。
そして、ふたりは反撃の嚆矢となる決意をした。
こうしてゲーマーチームによる反撃が始まる。
BoDでは素人。
だが、彼等はイベントスポンサーのゲーム会社が「ゲームが得意な者」として集めた精鋭だ。
プロへの反撃を決意する8人の兵士が米軍拠点に出現する。
同時に無数の銃弾が降り注ぐ。
「伏せろ」
A2の指示に従い全員が伏せる。至近弾を浴びた者は体力が大きく削られる。
声優陣による援護兵集団が素早く治療を開始。
「まだだ。耐えろ……。耐えるんだ。このリズムは危険だ……」
A2は全神経を研ぎ澄まし、ゲームの世界に深く深く潜っていく。
彼はゲーム画面を見ていなかった。
現実世界の彼は瞼を閉じ、ヘッドホンに手を当てている。
安藤昇平、37歳。
音ゲー《Beat! Beat! Maniax》最高難易度における日本国内最高得点保持者。
この二日間で安藤は戦場に流れる音を全て記憶していた。
ダダダッ、ダダダッ。
三点バーストのライフル音が聞こえる。
ズドンッ!
銃撃を上書きするように、戦車砲の轟音。
その全てのリズムを、安藤は解析した。
「今だ! 走れ!」
安藤の指示で兵士が一斉に駆けだす。
「止まれ! 伏せろ!」
2名が死亡した。しかし6名が生き残る。
「歩け! ダッシュ! ジャンプ! 歩け!」
安藤は戦場から最善のリズムを見付けて仲間に指示。
発砲音の違いを聞き分け、リロードのタイミングを察知。
戦車砲の着弾数を記憶し、無意識の内に次弾が撃たれるまでの間隔を意識し、砲撃の気配を察知。
彼はFPSの戦場に在りながら、音ゲーをプレイしていた。
すべての弾丸を避けることなど不可能。
しかし安藤はたぐいまれなる音楽センスにより、安全な瞬間を見極めることに成功。
さらに2名が死亡したが、安藤の変人スキルにより、4名が自拠点からの脱出に成功した。
そして、安藤と同じく、生き延びた井上もまた、別ゲーの変人スキルを所持していた。
井上が拠点を飛びだし、道路を走る。
四方から弾丸が迫る。
井上は進行方向を半歩ずらし、無傷で弾幕をくぐり抜ける。
再び敵の銃撃。
井上はまたしても僅かな横移動で弾を回避。
「狙いが正確で避けやすい!」
彼は、弾幕シューティングの達人であった。
二次元のゲームになれきっていた彼は序盤こそFPSになじめなかったが、ようやく、三次元空間での弾道を理解した。
「敵は俺を狙って撃ってくる……。タイミングは安藤が教えてくれる。なら……避けるのは容易い!」
井上はFPSの画面を、頭の中で二次元の縦スクロールシューティングに変換していた。
彼は常人には理解できない領域で戦っている。
ゲーマーチームが全方向に駆けているため、敵歩兵の銃撃が散漫になっている。
もはや、弾幕シューティングの最高難易度周回を日課にしている井上を止められる者は居ない。
しかし、相手は腐ってもプロ。
歩行とダッシュを繰り返し、時にジグザグに移動する井上の未来位置を予測して、精確な攻撃を放つ。
「背嚢には当たり判定はない!」
弾丸は井上の兵士が背負う背嚢に命中した。
しかし、肉体には当たっていないため、ノーダメージ。
弾丸が防弾ヘルメットを擦る、やはり、ノーダメージ。
井上はあらゆる攻撃を、避けていく。
「温いぜ!」
ついに井上は敵戦車の側面に到達した。
戦車は強力な大砲を持つ反面、密着された歩兵に対しては攻撃手段が無い。
ここで敵プレイヤーが判断ミス。
C4爆弾を設置されて殺されると判断した敵プレイヤーは、戦車から降りた。
プロは、戦車から降りると、C4爆薬を設置しているであろう井上を撃ち殺そうした。
しかしプロの目に敵は映らない。
井上は無人となった戦車に乗りこんだ。
「やった! 昨日アルファワンが言っていたとおりだ! 手ぶらで戦車に張りつくと、戦車を降りて逃げだすやつが居る!」
前日の練習中に「もし敵チームの車両を奪ったら、とにかくマップの端まで逃げてください。味方が乗っている限り、敵拠点で次の車両が湧かない」とアドバイスを貰った。
井上は戦車を米軍拠点まで持ち帰ろうとした。
しかし、油断していたとはいえ相手はプロプレイヤー。
自分が乗り捨てた戦車を奪われたと気付いたと同時に、地雷を足下にばらまいていた。
そしてRPGを撃ち込んで起爆。
戦車が加速しだすまでの一瞬の技だ。
井上の戦車は破壊され死亡。
プロプレイヤーは自ら起こした爆発に巻き込まれて死亡しつつも、戦車の強奪を阻止した。
だが、これにより、リスキルしていた戦車は退場。
生き延びた青葉と井上がビルの谷間に姿を消す。
ふたりは発砲せずに走った。
相手拠点の旗を取れば勝利というルールなので、プロチームは消えた青葉と井上を警戒しなければならない。
プロプレイヤーは、ふたりを過度に警戒した。
何故ならプロはキルログを見ていたので「ここ数分間、Kazu1111とOgataSinのふたりがデスしていない」ことに勘づいていた。
もしかして、拠点を突破したのはKazu1111とOgataSinではないかという疑念がプロ達の脳裏をよぎる。
プロチームはリスキルを諦めて前線を下げるしかなかった。
ゲーマーチームによる反撃のチャンス到来。
声優ユニットは拠点から、堂々と歩いて、マップ中央の橋まで進軍した。
撃たれない。
プロチームは撃てなかった。
銃を構え、声優チームを狙いながら近づき、その動きを見守った。
いや、鑑賞した。
声優チームは、アニメプリチュアのオープニングテーマを歌っていたのだ。
本来はアニソン歌手が歌っているので、声優によるオープニングの歌唱は希少。
ゲームはオープンチャットの設定なので、歌は敵味方問わずに聞こえる。
だから、プロ達は、声優の歌を聴くために撃てなかったのだ。
ゲームだから撃たなければならない。
しかし、歌っているだけだから、倒さなくてもいいのでは?
自拠点近くに迫られるまでは放置してもいいのでは?
様々な思惑が交錯し、プロチームは撃てない……!
橋を越えたら撃とう。それがプロの暗黙の了解であった。
青葉は敵の様子を窺いながら、進軍可能なのは橋までだと察する。
(お願い、カズ君。アリサちゃん。早く戻ってきて……! 歌っていい許可を取れたの、オープニングとエンディングだけなの!)
タイムリミットは10分であった。
同タイミングに、地下道でガレキを避けながら索敵するプロプレイヤーが居た。
「さっき敵プレイヤーが地下に入ったはずだが……。ここを抑えられると裏取りの危険があるから、なんとかして排除しなければ……」
プロはショットガンを構え、油断なく周囲を警戒する。
地下道は天井が崩落したため、足下には大小無数のガレキが積もっていて、視界も狭い。
直線距離は長くても10メートルだ。
いくら相手が素人でも、一瞬の気の緩みが命取りになる可能性は高い。
だから、プロは警戒を怠らない。
そこへ、不意に反響してくる声。
「BoDプロチーム。リスペクトするよ。その反射神経、賞賛に値する」
ゲーマーチームの内田だ。
声は反響して位置が分かりにくい。
だが、プロプレイヤーは、後方に敵が居ることを察知、瞬時にマップのガレキ配置から、内田の居場所を絞り込んでいく。
(後方。近い。けど、撃たれない……。撃てない位置! なら、右後ろ、ガレキの陰!)
プロは研ぎ澄まされた洞察力で、相手の位置を推察し、振り返る。
しかし、プロが目にするのは乱雑に積み重なったガレキのみ。
「居ない?!」
内田が居たのは左後ろだった。
内田は隠れてなどいなかった。
「俺はFPSは初心者だ。撃っても当てられん。だから、こうする」
内田はプロを背後からナイフで攻撃。
内田の操作する兵士は、プロ兵士の口を左手で塞ぎ、右手のナイフで喉をかき切った。
そこへもうひとりプロ兵士が現れる。
「そこか!」
アサルトライフルの三点バースト。
プロの肩書きに恥じぬ、頭部を狙った正確な射撃だ。
「外れた?」
タタタンッ!
再びプロは発砲。
しかし、ヒットマークは出ない。
そして、三度放たれた攻撃を、内田は半歩、横へずれて避けた!
「リアルなグラだ。故に、見切れる。指が動く4フレーム後に、弾が飛んでくる」
「な、何を言っている?!」
「この大会に出場しているプロが自分達だけだと思ったか?」
「な、何を……。ま、待て、その声、何処かで聞いたことが!」
「そうだ! 俺が、賞金獲得額1位の格ゲー、プロだ!」
内田のナイフが敵プレイヤーの喉を貫く。
「ば、馬鹿な……」
「銃口と指に注意すれば、発砲後の回避、余裕」
プロ兵士の死亡を確認すると、内田は暗がりに身を潜める。
「要は、一人称視点の3D対戦格闘だ。昨晩、家庭版≪鉄脚Ⅲ≫のリマスター版をDLして練習して良かったぜ。飛び道具が強すぎるが、この格ゲー、見切れてきたぜェ!」
わずか60分の1秒で敵の動きを見切って回避する天才的反射神経と予測能力により、内田はFPSの世界でただひとり3D格闘を遊んでいた。
彼がモニターの前に設置したのは、家から持ってきた格闘ゲーム専用のコントローラーだ。内田はレバー操作で兵士を操縦していた。
敵プレイヤーは地下道に強敵が居ることを知った。
だから、再び地下道に同じプロふたりが訪れたとき、油断は一切なかった。
ふたりのプロは、別ゲーのプロに最大限の敬意を払い、本気で挑もうとしている。
だが、そこへ、一般ゲーマーチーム最後の男が現れる。
「問題です」
瓦礫の下に伏せて身を隠している江原が呟く。
声は遮蔽物の多い地下道に反響し、江原の位置を特定困難にする。
プロプレイヤーに緊張が走る。
「だ、誰だ。その声、内田プロじゃないな!」
「油断するな。相手チームは何かしらのゲームスキルに長けている!」
プロプレイヤーは迅速に発煙手榴弾を投げ、ただでさえ照明が限られていて視界の悪い地下道を、さらに暗闇へと変貌させる。
その様子を江原は瓦礫の下から見つめる。
撃ち合いになれば確実に負けることは分かっている。
だから、彼は、安藤、井上、内田を見習って、彼の得意とするゲームテクニックで戦うことにしたのだ。
内田もまた、あるジャンルのゲームで日本屈指の実力を誇る。
「AK-47といえば、ミハイル・カラシニコフが開発したソ連製の自動小銃ですが、『世界で最も使用された自動小銃』としてギネスに登録されている。○か×か、お答えください」
「な、何を言っているんだ」
「くそ、どこだ……!」
「正解は、○。ギネスに登録されています。続いて第二問。その形状から、パイナップルという通称で呼ばれる手榴弾は――」
タタタンッ。
クイズゲームの達人、江原は撃ち殺された。
「な、なんだった、こいつ……。てっきり、俺達が使っているAK-47に弱点でもあるのかと焦ったぜ……」
「あんなに喋り続けていて、見つからないとでも思っていたのか」
雑学王として地元ローカルのケーブルテレビにも出演したことのある江原は、クイズゲームの監修もしているため、その知識量は計り知れない。
だが、BoDは完全なる素人であった。
早押しクイズの特技を活かせば、撃ち合いで先手を取れるかもしれないが、普通に下手くそなので、プロの反撃に遭い、撃ち殺されていただろう。
だが、彼は役目を果たし終えていた。
「ナイスだぜ、江原!」
江原の声で足音を消した内田が、プロ兵の背後に迫り、立て続けにナイフキル。
こうして地下道は護られた。
カズ、アリサ、ジェシカが戻るまで、残り1分――!
◆ あとがき
本作はカクヨムコンに応募中です。
☆が150個くらいが読者選考通過の目安だそうです。
本作を楽しんでくださった方は、是非、☆をつけていってください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます