第17話 正

「ママ。 オレ昨日。 大変なものを見たよ」

「タクちゃん、また? 今度は何?」

「やーさんがぼーさん捕まえてた」

「ん?」

「駅の反対側に、山に向かうほうの畑の間の一本道あるだろ」

「ああ、農道みたいなとこ?」

「そう。そこで昨日、殺人犯が捕まったんだよ。その、犯人っていうのが、ぼーさんだった」

「えぇえ???」

「そんで、馬乗りになって、捕まえてた警察が、やーさんだったんだ」

「ちょ、ちょまって。話しが、ややこしいな」

「だからね、ここに来てた、ぼーさんというお客さんは実は殺人犯で。なんでも自分の奥さんを川に突き落として死なせたらしい。

そんで。ぼーさんによく似たやーさんというお客さんの正体が、刑事だったわけ」


「っはぁーーーー  驚いたっ」

「似て非なる二人だったね」


     🚓…*🚓…*🚓…*🚓…*🚓…*

久しぶりに麻由美を食事に誘って、食事に出かけたんです。私が運転する車で。もともと酒が好きだった麻由美は結婚してから、いろいろあって酒の量が増え、まあ、いわゆるアル中になりました。

アル中治療のために、それこそ闘いでした。

捨てても捨てても、、いつの間にか隠して飲むようになる。麻由美もそんな自分が情けなくなるんでしょう。私は責めていないのに、泣いて泣いて詫びるんです。必ずもう止める。酒は止めるからと。

しばらくね、、止められてたんですよ。

ちゃんと朝起きて、家事をして、夕食を作って、私を待っていてくれた。

それなのに、あの夜、食事中に仕事の電話があって少し席を離れたすきに、麻由美がワインをオーダーして、一人で飲んでたんです。

席に戻って、ワインを手酌で飲んでる、赤いワインを夢中で飲んでる麻由美の姿を見た時、私の中で何かが切れた。もう、終わりにしたいと、、思って。食事の帰りに、あの橋の上に麻由美を連れて行って落としました。

自分も死ぬつもりだったのに。

なんだか、麻由美が消えたら、ほっとしちゃいましてね。もうしばらく生きていたくなったんです。なんというか、逆に地獄から開放されたような気がして。でも、麻由美を殺して平気で生きていられるわけはありません。

そろそろ死ななきゃな。と思っていたんです。そしたら病気になりました。、、、多分、私は、もう長くない。

私、刑務所で死ねるでしょうか。

   *…🚔*…🚔*…🚔*…🚔*…🚔*





「なあ、小塚。オレはお前に憧れたぜ。皆に慕われるお前にさ 」

「刑事さん。私もあなたに憧れますよ。 

 正義のために走れる人に…」

「………そっか」


正義かぁ。

俺は正しい事をしたのだろうか…。


                〔完〕


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ぼーさんとやーさん モリナガ チヨコ @furari-b

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