No.100 悲劇への予感

第二部へのプロローグ


 エスターダ国の隣国である、デールズローン国(デール国)その中心にある王都バークレイ。


 その王都バークレイにある貴族街の端にステイン邸があった。ここにあるステイン邸は他の貴族街の屋敷よりか、質素な作りになている。


 その屋敷の二階の窓から、美しき少女がバークレイの町並みを眺めていた。彼女の名は、エレノア・テル・ステイン。緑を基調としたドレスを身にまとい、右手には手紙を握っていた。


「お嬢様、厳しいお顔をされてますが、どうされましたか? カトリーヌ様からのお手紙には何と?」


 男はそう言ってエレノアの横顔をチラリ見た。整えられた髭と優しそうな目元。その目尻に小さな皺を入れながら微笑むのは彼女の執事であるクラークだった。

 クラークは紅茶を入れ、コトリとエレノアの前に置いた。その時、彼の左手の義手からギギッと小さな音が漏れる。


 エレノアは紅茶を一口飲むと深いため息を吐いた。

 

「あぁっもう、本当に悲劇だわ。信じらんない」


「また、悲劇ですか?」


「悲劇はいつでも起こるのよ。私の人生なんていつでも悲劇ばっかりだわ」


「それは、いつも仰ってますね。で、手紙の内容は?」


「情緒がないわね。だからクラークはモテないのよ? まぁどーでも良いけど。手紙の内容はね、エスターダで王族のお家騒動があったんですって。ステインはそれに巻き込まれたって書いてあったわ」


「なんと、それは大変ですね。皆様ご無事ですか?」


「手紙の内容から見れば皆んな生きてはいるんじゃないかしら? カリーの馬鹿は足をダメにしちゃったみたいだけど、そんなことより【結婚最悪】って書いてあるわね。コレ私に対しての嫌味かしら? カリーだって散々王妃になりたいと馬鹿みたいに言っていたのに……。いいえ、違った、あの女は馬鹿だったわね」


「お嬢様、本音を言い過ぎです」


「あんたしか聞いてないから良いのよ。それにしても、クレイン家は大変ねぇ。王妃と王子二人が死亡、ぼんくら第四王子のエームは国外追放。残ったのは瀕死の陛下と行方不明だった第三王子のルイだけ。私、ルイ殿下なんて知らないけど、このままカリーと結婚でしょう? 可哀想にねぇ。カリーが王妃だなんてエスターダも終わりよ。本当悲劇だわ」


「どうでしょうか、案外上手になさるかもしれませんよ?」


「馬鹿言わないでよ。あのカリーよ?」


「まぁまぁ、それで、ご当主様は?」


「パパ? パパはちょっとしょぼくれてたみたいだけど、今回の件でステイン家はだいぶ資産を失ったようで、それを取り戻すために躍起になって仕事してるみたい」


「しょぼくれ……? あのデンゼン様が!? それは一大事ではないですか」


「まぁパパも歳ってことかしらね。年齢には敵わないなんて。あぁ、なんて悲劇」


「それは悲劇とは関係ないのでは?」


「いちいち煩いわね。そもそも、ステインに心配なんて無用なのよ。私とは違って潰したって死なないような、しぶとい人間ばかりですからね」


「いや……お嬢様もたいがい…」


「クラークゥ? 余計なこと言うなら、その義手引っこ抜いてもいいのよ?」


「も、申し訳ありません」


「まぁいいわ。それよりも心配だわ」


「何がです?」


「エリッサが行方不明みたいなのよ」


「エリザベート様が? それは……」


「嫌な予感しかしないでしょう? あの殺しても死なないような女が行方不明だなんて、何か企んでるに違いないわ」


「いや、しかし、それでも行方不明は穏やかではありませんよ」


「どーでも良いのよ。私にさえ関係無ければ! あぁっもうステインなんて知らないの! クラークこの手紙燃やしちゃって」


 エレノアはそう言いながら手紙をクラークに差し出した。しかし、その瞬間「痛っ」と小さく叫び手紙を落とす。

 エレノアの細い指から血が滲んでいた。


「お嬢様!? 大丈夫ですか? あぁ、手紙で切ってしまわれたのですね。でも良かった、傷は浅いので大丈夫ですよ」


「だ……大丈夫じゃないわ。全然大丈夫じゃないわ。悲劇よ。この手紙が来てから私ずっと嫌な予感しかしないもの。まさかエリッサ、デール国に来たりしないでしょうね?」


「そんな、まさか、あのエリザベートお嬢様が……?」


 エレノアとクラークは落ちた手紙を見つめ続けた。






………第二部へつづく。





あとがき。


無事に第一部の終わりを迎えました。ここまで読んで頂き本当にありがとうございます。

さて、悪癖令嬢第二部ですが、時間をあけての再開を考えています。


必ず第二部は再開いたします。ビシッ!


また、イデアの処刑につきまして、考えた結果第一部番外編で投稿したいと思っております。不定期になりますがご了承ください。

引き続き、皆様に楽しんで頂けるような物語を執筆できるよう、筆者も楽しみながら長くゆるーく活動したいと思います。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


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