6話

……疲れて眠ってしまっていたのか……


気付いたらそんなに時間は経っていないようだ


俺は寝ても自分の心の高鳴りは抑えられていないと実感する。


ツルッ


何かに躓いて転んだのだ。こんなことは滅多にない。


「王子は現在、この街の南で貴方を捜索中?」


昨日から俺は何も持ち込んでいないし、何よりこれが公のものなら「貴方」にはならないか


そう思って魔女が置いていったのだと理解した


それと同時に魔女の言葉を思い出す


王子は俺を探している


もう一度会えばこの気持ちはクリアになるのだろうか


それともより強くなってしまうのだろうか


わからない……しかし行動しなければ何も起きない


俺は家の外に出て、王子が探索中に滞在する場所を目指すことにした


幸いここから遠くはない


藁にもすがる思いでそこへと向かう。家族を信じれなかったわたしにはもう彼しかいない……いいから抱きしめて欲しい



はやる気持ちを落ち着けて、歩いた。


道中の記憶はない……と言うか何も考えてなかったのだろう


俺が王子滞在中の建物の扉に手をかける。立派な建物だ。ドアには「ガラスの靴をお持ちの方は入っていい」と書いてあった


ドアを開けて進もうとすると首根っこを掴まれた。


「何奴!!」


「……探されものです」


そう答えるや否や、笑い声が響いた。


「お前みたいな男がか?笑わせるな……探してるのは絶世の美女だ」


「うるさいぞ……ッ」


「……ッ」


目と目があって、相手も俺のことを察する……鼓動がはやくなるのが自分でもわかる。心臓の音が聞こえそうだ。しかしその高鳴りは一気に落胆へと変わる。


「……なんだ見つかったわけではないのか……そんな男早く追い返せ」


鋭い光が投げかけられると、外の空気が体に当たる。


その言葉が重くのしかかる。そしてそのまま外へと放り出される。


……トボトボと歩きながら……色々なことが頭をよぎる


確実に相手も気付いたし、俺も気付いた


だがその瞬間に俺らは会話をしたのだ


言葉にならない会話を


……俺らは一緒にはいれない


それは……俺が最初に考えた言葉だった


男同士の友情は許されても、愛情は許されない


そしてそれは王子という階級に着けば尚のことだ


「……ここは……」


拾って貰った街……この真っ白で、妙に高い橋を知ったのは拾われた時だった。長いこといたはずなのに、こんな景色があるんだって驚いたな……


拾って貰ってからも、いじめられたり、父さんが亡くなったり、はたまた女になっちゃったり


……色々な後悔の念が押し寄せて自己嫌悪に陥る


……この気持ちを忘れられたのは踊っていた時とさっきの2回だけ


そしてもうその瞬間は訪れない


気付くと自分の足は橋の手すりにかかっていた


大丈夫……来世はきっと可愛い可愛いお姫様だ


それで……3人で幸せになって結婚する


大丈夫……怖くない


自分に言い聞かせて力を込める



……愛してる


そう言って私はカラダを宙に投げ出した



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サンドリヨン、小さく歪んだガラスの靴 桜咲春亜 @tukikageroufuu7

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