第6話 12時までの1時間

 「じゃあ、こういうのはどう?ジャンケンで勝った方が、自分の体の好きなところを言って、負けた方がそこにキスをするっていうゲーム。」

レイジが妖艶な微笑みを浮かべながら、そう言った。

「ふっ。いいねえ。やろうぜ。」

テツヤは落ち着きを取り戻し、レイジに賛同した。

「ジャンケンポン!」

「イエーイ、勝ったー!」

ジャンケンに勝ったレイジは、

「じゃあ、ここ!」

と言って、手の甲を指し示した。テツヤはレイジの手を取って、キスをした。

「ジャンケン、ポン!」

次はテツヤが勝ち、

「うーん、ここ!」

テツヤはちょっと考えて、首の後ろを指す。レイジがそこにキスをすると、

「うひょひょ。」

テツヤがくすぐったそうに首を竦めた。

「ジャンケン、ポン!」

レイジが勝ち、おでこを指す。テツヤがそこにキスをする。次のジャンケンにもレイジが勝ち、

「じゃあねえ、ここ。」

と言って、また妖艶な笑みを浮かべ、首の、喉仏の辺りを指す。テツヤはレイジの首の後ろを抑え、喉元にキスをした。次のジャンケンはテツヤが勝ち、

「じゃあ・・・ここ。」

テツヤはシャツを少しめくり、お腹を指した。それを見てふっと笑ったレイジは、

「じゃあ、いくぞ~。」

と言って、お腹にキスをする。

「ぎゃはははは。」

テツヤがくすぐったさに耐え兼ね、大笑いした。次に勝ったレイジが、

「次は・・・ここ。」

と言って示したのは、頬。テツヤはレイジの肩に手を添えて、軽くチュっと頬にキスをした。

「よし、もう一回!」

テツヤがそういい、ジャンケンをすると、また、レイジが勝った。

「じゃあ次はぁ・・・ここ。」

レイジはじっとテツヤの目を見ながら、指を唇に当てた。

「・・・・・・。」

一瞬時が止まったかのように、二人は数秒間見つめ合った。

「・・・それはダメだ。おふざけでするもんじゃない。」

テツヤが、真面目な顔でそう言った。はっとしたレイジは、

「そ、そうだよね。ごめんなさい。」

早口でそう言うと、ベッドから立ち上がった。

「どこ行くんだよ。」

だが、すぐにテツヤがレイジの腕を掴む。

「部屋に戻る。」

レイジはテツヤの顔を見ずに行った。

「まだ12時じゃないぞ。」

テツヤはそう言うと、腕をぐっと引いてレイジを再びベッドに座らせ、後ろから優しく抱きしめた。

「レイジ、拗ねたのか?」

レイジは黙って首を横に振った。

「本当か?うーん、そうだな。おふざけではダメだけど、本気でならしてもいいよ。」

テツヤがそう言ったので、

「え?」

レイジは振り返った。

「して欲しいのか?」

テツヤがちょっと目を細めてそう言う。

「べつに、そういうわけじゃ・・・。」

レイジはそう言いかけたが途中で止め、

「もし、俺がして欲しいって言ったら、するの?」

と言いながら、上目遣いでテツヤを見た。

「お前が望む事なら、何でもしてやる。」

テツヤが優しくそう言った。レイジは迷った。これはなんだ?冗談か?それとも本気なのか?本当に、キスしてくれるのだろうか?だが、滅多にないチャンスである事には変わりない。ダメ元だ。レイジは意を決した。緊張と恥じらいで、少し泣きそうな顔になりながら、

「して、欲しい。」

素直にそう言った。テツヤは満足げにニヤっと笑うと、指をレイジの顎に添え、唇と唇を重ねた。

「うん、悪くないな。」

唇を放すと、テツヤはそう言った。

「え?」

レイジが聞き返すと、テツヤは、

「親友同士でキスするのも、思ったより悪くないな。そりゃそうか。お前が溺れたら、躊躇なく人工呼吸するもんな。」

などと言う。

「じ、人工呼吸?・・・って言うか、親友・・・。」

レイジは気が遠くなった。


 レイジは深く項垂れ、ため息をついた。

(キス=ゴールインだと思っていた俺がバカだった・・・。俺がどうしてキスして欲しいのか、考えないのかなあ、テツヤ兄さんは・・・。そもそも、この人に常識は通用しないんだった。)

深く項垂れた結果、頭をテツヤの肩に乗せる形になったレイジ。そんなレイジを、テツヤはぎゅうっと抱きしめ、頭をなでなでした。

(やっぱり、レイジは俺の事が好きなんだなぁ。よしよし。可愛いやつだ。)


 恋人同士への道のりは、まだまだ遠い二人であった。

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末っ子 夏目碧央 @Akiko-Katsuura

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