風と少女とオートバイ-3
狩野晃翔《かのうこうしょう》
若き新婚カップルのエピソード
【1】
昔、東京の片隅に、新婚3か月というほやほやカップルがいました。
ある日、ある時、その新婚さんのパパが仕事で3日間、大阪、広島、福岡に出張することになったときのことです。
その出張の朝、若きママは着替えなどの身の回り品をバッグに詰めながら、3通の手紙をパパに渡しました。
1通目は、大阪に着いてから、読んでください。
2通目は、広島に着いてから、読んでください。
そして3通目は、福岡に着いてから読んでください。
若きパパはその手紙と身の回り品が入ったバッグを持って、新幹線に乗り込みます。
でも若きパパは、ママから貰った手紙が、気になって仕方ありません。
そこでパパはこっそりと、ママから貰った3通の手紙を、新幹線の中で読んでしまったのです。
【2】
1通目。
パパ。お疲れさま。今は大阪ですね。
私、大阪は何度も行ったことがあるので詳しいんですよ。
大阪でたこ焼きを食べるなら、難波グランド花月のそばにある
『たこ焼き道楽 わかな』がお勧めです。
そこでお酒を飲むのはいいけれど、飛田新地に行ってはいけませんよ。
そこにはエッチな夜の蝶々さんがいて、パパを狙ってるからなんです。
【2】
2通目。
パパ。お仕事、お疲れ様です。
パパは今、広島ですよね。
私は広島にも詳しいんで、いいこと教えてあげますね。
広島でお好み焼きを食べるなら、
広島駅の駅ビルの中に『麗ちゃん』というお店があります。
そこのお好み焼きは、ホッペが落ちそうなくらい美味しいんですよ。
でもパパ。流川とか研薬堀に行ってはいけませんよ。
そこにはエッチな魔女さんがたくさんいるから、パパなんかすぐ食べられちゃいますからね。くわばら、くわばら。
【3】
若きパパはそこで首をかしげました。
なぜなら若きママは十和田湖と修学旅行以外、東京周辺から一歩も出たことがないという話を聞いたことがあるからです。
やがてパパは気づきました。
ははん。これはママが雑誌とか本で大阪や広島を調べたんだ。
美味しいお店を紹介して、そこで食事するよう勧め、夜の蝶々がいる歓楽街には近づかないようクギを刺しているんだ。
若きパパはそんなことを考えながら、こんな手紙を書いたママを思い出して顔をほころばすのでした。
さて、最後の手紙には、どんなことが書いてあるんだろう。
パパは胸を躍らせて、3通めの手紙を読むのでした。
【4】
3通目。
パパ。お仕事お疲れ様です。
パパは今、福岡ですよね。実は私、福岡にも詳しいんです。エヘン。
福岡のグルメト言えば、元祖長浜屋のとんこつラーメンです。
このお店は赤坂駅から徒歩9分の場所にあります。
ここで出されるとんこつラーメンは、舌がとろけるほど絶品です。
ラーメンは絶品、私はべっぴんですけどね。あはは。
でも注意してくださいね。
福岡には日本有数の歓楽街・中州があるんです。
ここにはエッチな妖怪お姉さんがわんさかいて、跳梁跋扈しています。
だからパパは、絶対そこに近づいてはいけません。身ぐるみはがされて、ラーメンの具にされてしまいますよ。
追伸
そうそう。パパに渡した着替えのワイシャツや下着はには、わからない場所に全部目印が付いてます。もしも持ち帰ったワイシャツや下着にその目印がなかったら、お尻ぺんぺんですからね。
【5】
若きパパは最後の追伸箇所を読んで、爆笑してしまいました。
そうか。その手があったのか。
でもママ。安心していいよ。ぼくは渡されたワイシャツや下着だけを持って帰るから。
パパは心の中でそうつぶやきながら、新幹線の窓から外を眺めました。
窓の外には青い空を背景に、雄大な富士山がそびえ立っています。
若きパパはその景色を眺めながら、5年前、初めて若きママと出会って流れ星を数えた、、あの日の十和田湖を思うのでした。
《了》
風と少女とオートバイ-3 狩野晃翔《かのうこうしょう》 @akeey7
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