第二夜 ボクト悪夢ト忍ビ寄ル暴力
3:想像と妄想がものをいう世界で
…… ZZZ ……
僕らが睡眠治療室に到着した時、看護師らの作業は終わっていた。
看護師らは、事前に睡眠時の無呼吸障害を緩和するための酸素マスクや、筋肉の
すでに、真彩さんが眠る治療用ベッドの電磁シールド層を有したカバーは閉じており、磁場の形成が始まっていることが見て取れる。
こうなると、看護師は手を出せなくなるため、自然と、僕らへ現場の主導権が渡される。
看護主任の川口さんから、患者に対してどういった
そのすべてに目を通し、確認できたうえで、僕は指示を飛ばした。
「
僕の指示で看護師の方々は、足早に睡眠治療室から退室すると、治療に向けて最低限の照明だけが残された。
周りが暗くなったことで、これから治療が始まるのだと、嫌でも意識させられる。
「じゃあ、いつも通り、治療前のチェックを終わらせたら知らせてほしい」
そう言うと、
また、それをペアになってダブルチェックした後、互いの
僕は嶺吾と、黒衣と肌の表面間の空気が抜けきっているか、また
これがきちんと機能していると『
それゆえ、念入りな点検が要求された。
「僕たちの方は大丈夫だね」
「そうだな。
「……問題ない」
僕は再度、みんなを呼び集めると、治療に
「今回の患者、
「なにもない、さっさと始めるか」
「……
「私も質問無いです!」
「なら準備ができた人は完了ボタンを押してほしい、カウントを始めるから」
それを合図に、おのおのが自分のベッドに潜り込むと、磁場を迎え入れるため、ベッドのカバーを手動で閉じた。
僕も同様にベッドに入り、所定の手順を踏んだ後、内部にあるタッチパネルで先ほど確認したハーネスの電気信号回路を
それにより、タッチパネルには、磁場を感知したことを示す警告画面が表示される。
全員の準備完了を示す認証マークが確認できたのは、すぐだった。
患者の悪夢に感染するべく、腰元のホルスターから非接触式体温計の形に似た脳波測定器を取り出し『
最終準備も終わり、タッチパネルを操作すると、手術室内に『5』から始まるカウントダウンが響き始め、引き金に掛けた指へ力が
次第に数字が減っていき『0』になる瞬間、引き金を引くと、脳周波数を低下させる電気信号によって、僕の脳は強制的に睡眠状態へと移行する。
意識喪失に向けて、ぼうっとした感覚が襲ってきた直後、視界が暗く狭まる。
薄暗い睡眠治療室の天井に浮かぶ、四つの青白い閃光が、
…… ZZZ ……
ぼやけていた視界が
それは、この周辺の地域で生活する人なら誰しもが、一度は利用する駅に類似している。
全面ガラス張りのここには、古びて剥げかかった椅子が連結して置いてあり、天井からは、扇風機がぶら下がっている。
確かこうだったな、と自分の記憶と照らし合わせながら視線を動かすと、やはり、どれも見慣れた看板が線路の向こう側に存在し、飲食店やパン屋なども記憶とほぼ同じ位置に。
ただ、ここが決して、現実世界ではないことを意識できたのは、そのどれからも
すべてが
それら要因から、この空間が、
夢とは本来、記憶の整理と定着を行うもので、日々の体験をふるいにかけ、重要なものを長期記憶に蓄えるためのもの。
一方で、ストレスなどを抱え込むと、寝ている間にそれを解消しようとして悪夢に投影されてしまう、しかもそれが色濃く。
そのため、夢界では、記憶に深く根付いてしまった光景が投影され、仮想現実と捉えても差し支えないほど、景色に
ただ、ストレスで脳が
「今回は凛が一番遅かったみたいだな。俺たちは少し前に身体を慣らしておいたから、あとはお前待ちだぞ」
「――っ! ……なんだ、先に着いてたのか。すぐいくから、ちょっと待ってて」
待合室の扉が急に開かれ、思わず
僕が一番遅いってことは他のみんなも無事、患者が発した磁場に、脳波が同調して感染できたということだろう。
この磁場に脳波が同調した者は、もれなく、全員が同じ脳周波数になるため、『
この現象の例えで一番しっくりきたのは、全員が同じサーバー内で、ゲームをプレイしている状態、と研修中に言われたものだった。
僕ら医師は、夢を夢と認識した
そのおかげで、夢界にいる間は、自分の身体能力などをある程度、思い通り変化させられる特性がある。
早速、その特性がどこまで、この夢界で通用するか確かめるために、待合室を出ると、助走を付けずに線路の反対側に設けられたフェンスに飛び移り、そのままホームの屋根へともう一度飛んだ。
今イメージしたのは、自分の
「どうだ、今回の夢界は、あまりイメージとの
「そうだね、いつもと比べて、ずいぶん治療しやすそうな雰囲気だけど、これがストレス
それに対し、嶺吾も同じような苦言を
…… ZZZ ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます