3:大和撫子は猛獣を
…… ZZZ ……
気付けば、午後の診察業務は、終わりの時間を告げ、時刻は17時。
途中、合流していた
いつも通りであれば、午後の診察は、『
それに合わせ、僕の治療班からも『
例え、レベル2患者が治療中にレベル
しかし、新人がパニックにならない保証はない。
だからこそ専門治療医の立会が必要なのは分かるが……。
「にしても多すぎだよ。ヒットしちゃった件数もそうだし」
「おいおい。心の声が
待機ステーションの中央に置かれる木目があしらわれたテーブルに突っ伏していると、挟んで対面に座っていた男が、僕の頭に軽くチョップをお見舞いしてきた。
顔を上げると、奥二重で目つきが悪く、茶髪にツーブロックとガラの悪い大男、
僕は、
傍からみれば、嶺吾は
「流石に疲れたもんは仕方ないよ。それより
「なにも問題はなかったぞ。『
「ほう、嶺吾がそこまで褒めるなんて
「お前は俺を何だと思ってんだ、あまのじゃくでもへそ曲がりでもねえぞ」
「わるいわるい、
鼻を鳴らし、
彼、
背は僕より少し高く、180センチはあり、趣味の筋トレの成果か、体表面に浮き出た筋肉が、その体格の良さを際立たせる。
髪形や見た目は、ガラの悪く感じさせるが、実際の所、それらがまったくの偏見だということは、あまりにも有名だ。
顔に似合わず特撮アニメを好み、仕事がない日曜は、リビングのデカいテレビに
病院では、ちびっこたちと話が合い、24歳ではあるものの、精神年齢も近いことからたいへん好かれ、看護師からも影では人の
ただ、本人も『ガキは好きだ』と
「――って事は、『
「考えてみればそうだな、『
「……他の女性をそんなにべた褒めしてるといくら
嶺吾と女性の認定治療医である『
今だけは
「出してから言うな! それにいつも言ってるだろ、怒りの感情は五秒もしたら消えるからまずは頭の中で考えろって」
「……五秒以内に相手にとどめを刺さないと、この感情がもったいない」
「んなもったいない精神があってたまるか!」
嶺吾は、自分の隣に座る桐谷さんに向かって、
そんな常識が通じるわけがないことは、当の本人が、一番付き合いが長いため知っていると思うのだが……。
「いや、今のは桐谷さんが隣にいるのに、不用意な発言をした嶺吾に、非があると思うが?」
「……
「お褒めに預かり光栄です」
「お前がそうやって聖を
「えっ、わ、私がですか⁉ え、……えぇっと。聖先輩、耳は引っ張る力よりせん
僕の隣に座っていた木下さんへと急に話題を振ったため、テンパったのか見当違いのキラーパスをそのまま返した。
「……わかった」
「いや木下おま、ちがぁぁぁぁああああ‼」
なんともご
木下さんも何かまずいことを言ってしまったな、とバツの悪そうな表情を浮かべた。
「……
「院内で俺に何をやらそうとしてるんだ、んな要求は業務時間外にしてくれ」
そんな嶺吾の抗議も意に
彼女、
整えられた前髪から覗く、切れ長な目の下に二つ縦に並ぶ小さなほくろが、桐谷さんの
がしかし、これらはすべて嶺吾が絡まなければ、のイメージだ。
桐谷さんは嶺吾が絡むと、途端に
一日暇な休日なんかは、ずっと嶺吾の行動について回るほどの嶺吾バカで、『……私は嶺君の嫁だ』と
それくらい個性的な女性だ。
ほどなくして、桐谷さんの
「まあまあ、桐谷さんにとってストレス値の減少方法は嶺吾とくっつく事なんだから
「……
「バカ言え、もう休憩も終わるぞ。患者のカルテには目を通したのか? 回診の順序も決めないとだぞ」
嶺吾の指摘に桐谷さんは目の色を変えると、身に纏う空気感を即座に変えた。
「……それはもう終わってる。優先するのは411号室の田中さんと462号室の八宮さん。起床時間が普段より一時間遅れてた。恐らく
「なら必然的に体温や血圧も下がるし、後は回診で直近の筋肉運動量とか見る必要があるな」
「……看護師さんのほうには
さっきまでイチャイチャどったんばったん騒がしかったあの二人が、急に仕事モードに転換した。
基本、この二人は業務時間と休憩時間をくっきり分ける性格なため、どれだけ休憩中にバカをやっていたとしても、業務に支障をきたす事はしない。
だからこそ、僕は二人が休憩中に何をしていようが
「あ、そういえば忘れてないと思うけど今日は682号室の
「了解した」
「……わかった」
「かしこまりです!」
と、了承の返事が重なって帰って来ると同時に、夕方業務の開始を告げるチャイムが院内に鳴り響いた。
僕らは席を立つと、おのおの色が落ち着いた私服の下に着込んでいた『
すると、
これは、専門治療医と認定治療医が、業務時間中は常に着用が義務付けられた
普段私服の下に隠れているため、あまり表に見えることはないから、常時着ていても悪目立ちすることはなく、靴や手袋もこれに
あとは上に白衣を
僕は木下さんとレベル3患者を、嶺吾と桐谷さんはレベル1・2患者を担当として、
…… ZZZ ……
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