0:誰がために医師になったのか
…… ZZZ ……
嶺吾たちが目的地に向かう
そこは周りこそ燃えているが、一定の範囲には火の手が回っておらず、不思議と無傷のままで、異質そのもの。
その空間の中心には、泣き崩れ、
その姿は実に異様なもので、身体の一部が炎と同化し、朱く揺らいでいる。
嶺吾たちは、周りの注意を怠ることなく凛に近付くと、彼もまた、その存在に気付き振り返った。
しかし、再度、虚ろな表情で地面を見つめる。
凛は、女性のような顔立ちをしており、それに似合う大きな瞳から大粒の涙を垂らし、嶺吾たちではなく、別のなにかに、ずっと謝罪を続けていた。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。死なせてしまって、助けられなくて。ごめんなさい。見捨ててごめんなさい。――全部、全部忘れてしまって」
凛は、壊れたレコードのように、ぶつんぶつんと途絶えながら謝罪の言葉を紡ぐ。
その姿はいたたまれなく、嶺吾は慎重にならざるを得ない場面で、思わず言葉が漏れてしまう。
『凛、大丈夫だ、俺たちと帰ろう。もともとお前は【
「
有栖は、嶺吾が何を言わんとしていることに気づき、寸での所で、地雷を踏みかけた嶺吾を止める。
しかし、時すでに遅かった。
「そもそも僕は助けてほしいなんて言ってなかったんだ……、【 】を助けるためだったのに、ううっ、くそっ! くそっ! 【 】! 【 】!! ダメだダメだダメだ!! もう誰への償いで、医師になったかすらも忘れてしまったんだぁぁぁぁぁァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!」
凛は、抱え込んでいた想いを世界にぶちまけた。
発狂する同時に、その体を媒体に炎の巨人へと変貌させる。
黒い炎を纏った凛だったものが、
先ほどまで相殺治療のために対峙していたメアが放つ炎を、凌駕する熱波が、嶺吾たちの肌を焦がす。
よく知る人間が、目の前で
「……どうするの、こうなったらメアを全部消すしかないけれど、そうしたら彼のPTSDの原因を、すべて忘れさせることになっちゃうわよ」
『ああ分かってる分かってるさ!! でもこうなったら全員死ぬよりはマシだ!! 先のことより今すべきことをするんだ!!』
聖の提案は至極真っ当なものであったが、それをした結果、凛に及ぼす影響は計り知れなかった。
ただ、凛の想いが消えるか、ここで全員丸焦げになるかの二択の前では、非情にならざるをえなかった。
「貴方なにもわかってない! それが凛にとってどれだけ苦痛かを! 雫姉もそれを避けながら凛に接してきたのに!」
有栖の言うことも分かる嶺吾だったが、今まさにメアと【
凛の姉さんの名前を出され、一瞬、迷いが生じたが、その意志は、もう変わりようがなかった。
『聖と有栖は先に
嶺吾は、有栖の言葉を跳ねのけると【
嶺吾が認識できなくなったことで、なにをするつもりか完全に理解した聖は、
『嫌いか……、本当にそのまま嫌いになってくれたら、どれだけ楽なものか』
嶺吾は、そうは呟いた後、同じように書き連ねた複数の
有栖は、この後、凛に降りかかるであろう困難を予期し、涙を堪えることができなかった。
ひとしきり、嶺吾にありとあらゆる罵声を浴びせた後、聖に諭され、嫌々ながら、意識を現実世界へと帰還させた。
普段より、彼女の罵倒を浴びる嶺吾だったが、今日ほど想いの籠った罵倒は、彼の心に強く突き刺さった。
が、今は動揺し【
二人の意識が夢界から現実世界へ戻り、姿が見えなくなったのを確認した嶺吾は、片膝をつき、祈りをささげるかのように
『ごめんな凛、全力をぶつけること、許してくれ。……
込めた想いと裏腹に、力なく零れ落ちる様な【
…… ZZZ ……
これは
…… ZZZ ……
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