第五章 先生と私だけの秘密
十四話 私の毎日最後のお客さまと…
翌日からも、先生は約束どおりにお店に来てくれた。
それも、ちゃんと食べ終える頃に私の仕事終わりの時間になるように少し時間を繰り上げると約束してくれた時間に。
菜都実さんも、先生の応対はお迎えからお見送りまで私に任せるようになって、先生が食事を終えてお会計が終わると、私の仕事も自動的に終わりになった。
「先生が結花ちゃんのタイムレコーダーみたいなもんね」
そんな流れから、仕事着から着替える私を先生が外で待っていてくれて、一緒に歩いて帰ることがいつの間にか定着している。
先生のアパートは私の家よりもう少し行ったところだという。
「それじゃ、毎日遠回りをしてくださっているなんて。申し訳ないですよ」
「たかだか大人の足で数分だ。気になるような遠回りじゃない。夜道を一人で帰すわけにいかないからな」
「ありがとうございます」
私が学校にいた頃はもっと遠く、駅も違っていたはず。こんな近いところに引っ越していたなんて知らなかった。
「それでは、また明日お待ちしています」
私の家の前で、いつもどおりに送って貰ったお礼をする。
「原田はあの頃と変わらないなぁ。安心したよ」
「そうですか? そうですよね、変わりようもなかったかもしれません……。今日もありがとうございました」
先生が角を曲がって姿が見えなくなるまで、私がその場で見送ってから家の中に入るのがすぐに当たり前に変わっていた。
あの頃の私には、なかなか退院の許可が下りなかった。
確かに病気を再発をさせないために、一時的にとはいえ強い薬も使っているし、内視鏡を使ったとしても、実際に腫瘍が見つかった卵巣を片方摘出するという手術もしたのだから、体力が落ちているというのも仕方ない話だったよ。
三年生を迎える直前の時期は進路調査なども始まる。まだ希望を聞く段階で、よほど背伸びをしなければ先生から呼び出しを受けることもないけれど、それが三者面談などのベースになっていく。
先生が持ってきてくれたプリントにそんな紙が入っていたっけ。
でも、私はどうすればいいのだろう。進度も遅れてしまっただろうし、追い上げに入っている他の生徒に比べれば学力も落ちているだろう。
それにも増して、相談する相手というものがごく限られてしまうことも厳しい。
もちろんそんな時期だから、志望校や勉強の話で「勉強していない」と言いながら徹夜に近いことをしているような裏表があることはみんな暗黙の了解で承知の上のはず。
受験期に入れば、クラスメイトとはいえ、みんなライバルになってしまうものだから。
だから手に入る学校の情報と言えば、千佳ちゃんと先生が持ってきてくれるものだけど、この二人は私に対する敵意がないから、きっと私が直接行ったときとは、空気は全然違うのだろうと思っていた。
実際、一時期外泊許可が下りたとき、数日間病院には内緒で登校もしてみた。
けれども、その時にはすでに私の居場所は教室の中はもちろん、学校の中のどこを探しても存在しないように思えた……。
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