十話 お母さんたちの絆があったから


 今夜の種明かしがあってから、みんなでお腹いっぱいに食べて、これまでのことをよく話した。


「結花ちゃん、本当に元気になったねぇ」


「うん。きっと別人だと思うよみんな」


 茜音さんだけでなく、学校で最後まで一緒にいてくれた千佳ちゃんまでがそう言ってくれるなら、間違いはないのだろう。


「一時はどうなるかと心配もしたけど。本当に茜音と菜都実には感謝してるから」


 あんな騒ぎを起こした私を昼間一人で家に置いておくのは、お母さんも本当はお仕事なんかしている心境じゃなかったのかもしれない。


 でも家族だと感情の輪がぐるぐる回ってしまうから、敢えて一番信頼している友達に託したということなんだって。それだけの信頼関係を作れたお母さんたち。


 聞けば、もともと高校の同級生からスタートして、もう三十年年近い付き合いだし、お父さんや保紀さんもお母さんたちの付き合いがあったから、みんな顔見知りだという。


 私はそんな人たちの温かさに支えてもらえたから、こんなに短い時間でここまで帰ってこられたことを忘れてはいない。


「ねぇ結花ちゃん、今度から夜の時間もお願いできる?」


 そう、約束どおり今日で十八歳になって夜の制限がなくなるから、四月からは夜の時間もお仕事を入れてもらえる事になっていた。


 仕事場としては本当に居心地もいいし、場所や環境としても両親に心配をかけなくて済む。


「はい。もちろんやらせてください!」


 私の返事に誰も異論を挟む人はいなかった。


「ねぇ結花、時々みんな連れてきてもいいかな……?」


「うん……。大丈夫だと思うよ……。今はもう学生でもないわけだし、私のことなんて、ライバルでもなんでもなくなっちゃったんだから」


 千佳ちゃんのお願いにもそう答えた。まだ少し心配ではあるけれど、きっと大丈夫。


 考えてみればこのお店は私も学生時代に時々来ていたんだ。


 だから仕事をしてきた半年間でうちの学生がいなかったなんてことはないはず。それでも変なトラブルはなかった。


 私たちの学年の卒業式も終わっているはずだから、もう学校は関係ない。


 それに雑談していたときの千佳ちゃんの言葉が気になった。


『結花がいなくなってからね、学校がつまらなくて。受験もギリギリだったんだ……』


 千佳ちゃんには私も知っている彼氏さんもいる。一緒の大学に入学して、普段からフォローしてもらっているなんて笑っていたけど、千佳ちゃんにも、その彼氏さんにもちゃんと謝らなくちゃいけないよ。


 いつまでも私だけが傷ついたと篭の中で甘えているわけにもいかない。これからは少しずつでも自分の足で歩いて行かなくちゃいけないと思っていたから。


「結花ちゃん、無理して焦らなくていいの。きつくなったときは遠慮なく言っていいんだからね」


 菜都実さんが安心させてくれる。これなら心配はいらないよ。





 あとになって知ったのだけど、この日の臨時休業は大きな事前告知がなかったから、お店を見に来た常連のお客さんも何人かいたんだ。


「原田……。元気だったのか……。よかった……」


 ブラインドの間から見えるお店の中を見て、その男性は安心したように呟いた。


「休みじゃ仕方ない。コンビニでも寄るか」


 桜の開花宣言も出たこの日、すっかり暖かくなった街に流れる冷たい潮風が気持ちよく感じる夜のことだった。

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