アラン・ベックフォードの推理(6)



 一同が息を呑んだ。


 しばらく間をおいて、


「……ええ、私はテイマーです。それが私のジョブでした」


 ジャンヌ本人が言った。


「なんてことだ!」


 ルートヴィヒ・ヴェイマンがうなった。「俺はてっきり彼――彼女はシーフだとばかり!」

「無理もないでしょう」


 アランはうなずいた。「彼女は盗賊としての技能――トラップ看破、敏捷性に長けていたのですから。しかし、僕が分からないのは、なぜテイマーであることを隠していたかなのですが」

「それなら私にも分かるわ。だってテイマーは不人気ジョブなんですもの」


 ミシャ・ウントが答えた。


「そうでしたか。まったくもって非合理的だ――なぜなら彼女は、既にシャドウ・ウルフをテイムできるほどの能力を持っていたのだからね」


 アランは続けて、


「話を戻しましょう。ジャンヌは入れ替わりによってジョンにアリアを殺させると、素早くその死体から服をはぎ取って身にまといました。彼女の服装は厚手のローブ一枚あれば十分まねることができます――それ以外は目につきませんからね。ジャンヌはシーフ的な能力に長けていたのだから、暗闇の中でもある程度目がきいた。そして、テイマーとしてのスキルによってシャドウ・ウルフを呼び出し――あるいはあらかじめ控えさせておいて――アリアの死体を食わせた。当然血なまぐさい臭いが漂いますが、あそこはグールの悪臭がひどい場所なもんですから、ごまかしが利いたのでしょう」


「そんな……そんな馬鹿な! 娘が――かわいい娘がそんなことするはずがないだろう!」


 公爵が立ち上がり、烈火のような怒りでステッキを振り回した。アランは平然と、


「どうです、ジャンヌさん。僕の推理に間違いがあれば遠慮なくご指摘を」

「……いえ、探偵さんのおっしゃる通りです。私はシャドウ・ウルフを使って、アリアの死体を食わせました」


 公爵は一言も口がきけなくなった。アランはあきれたように、


「続けましょう。アリア・キールに成り代わるとしても、顔や声はやはり差が出るものでしょう。しかし、彼女の趣味はなんでしたっけ――アイリス嬢」

「兄――姉の趣味は演劇ですわ、探偵さん」

「それはやる方と観る方どっちだったかね」

「両方。でも姉には演劇の才能がありました」

「素晴らしい」


 アランは満足げにうなずいた。「とすると、顔も化粧によって似せられた――なにしろアリア・キールは女の子らしい女の子なんですから、真似るのも難しいことじゃない。しかもぶかぶかの帽子を被ってるんだから、入れ替わり直後もひさしを深くすれば区別はつかない。声だって、彼女にかかれば七色の声色を使い分けられたというのだから、いくらでもごまかしようがある。事件後に彼女の宿に置いてあった化粧品が使われた形跡があったのは、そういうわけだったんですね」


 もはや誰も口を聞くものはいない。鮮やかな手管で真相を暴くアランの手腕に魅せられていた。


「これで僕の推理は以上です。後はどうぞ、お気に召すまま」


 ロビン・マンチェスターの合図があって、ギルドの外に待機していた騎士団が乗り込んできて、ジョン・ジョーンズとジャンヌ・クルックの身柄を拘束した。二人とも抵抗はしなかった。

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