アラン・ベックフォードの推理(2)


 その場に水を打ったような静寂が訪れた。


 誰一人身じろぎを立てる者はない。声を上げるものもない。かろうじて、喉の奥から死にかけの獣のようなうなりが出てくるのみである。


 アランは自分の演出がもたらした光景に得意顔で、


「ダンジョンの中で殺されたのでないならばどこで殺されたのか? 外ですよ。ジャン・クルックがダンジョンの外に出て、そこで何者かに殺害されたのです。幸い、ランプの消えた二〇分間にダンジョンの外へ出るチャンスはあった」

「だ……だけど……なんのために?」


 おびえたような声で、エリザベス・アリスンが言った。


「さあ、それは」


 アラン・ベックフォードは極めて無感動な声で言った。「神のみぞ知る、だね」

「馬鹿馬鹿しい!」


 今までずっと黙っていたジョン・ジョーンズ――『暁闇』随一のタフガイが、ここで口を開けた。「さっきから聞いてりゃうだうだうだうだ言いやがって。結果だけを言えばいいじゃねえか! それとも、分からんのか?」


「まずはお詫びを申し上げましょう、ミスター・ジョーンズ。僕はあなたをうすのろだと決めつけていました」


 アランはあざけるような目で彼の眉間を見やった。「ですがね、ジョンさん。推理は往々にして迷路のようなものです。そして、その迷路の出口に着くためには、正しい道を歩かなければならない。正しい道を歩くには、間違った道を潰すことです。お分かりか?」


 ジョン・ジョーンズはまだ何か言いたげだったが、口をもごもごと動かしながら、椅子の背もたれにそのマッチョな巨体をもたせかけた。


「続けましょう」


 アランは短くなった葉巻を消し、新しい一本を取り出した。「理由はまあいいとして、ジャンは何らかの理由から外に出た。しかも、ランプが消えたタイミングで――いや、消したと言ってもいいかな。水の魔法で消すことはできたでしょうし。そしてそこで殺された。いったい誰に? 当時ダンジョンの外にいたのは――」

「マーリン・オーウェン……」


 どこからともなく呟きが漏れた。


 当のオーウェンは、信徒のように黙然として探偵の説教に耳を傾けていた。


「そうです。ジャンが外に出てきたのを見計らって、彼はジャンを殺害した」

「ただ、それだと」


 エリーが顎に手を当ててうなった。「死体はどうするの? 『暁闇』は外に出てきてからも死体を見てないんでしょ?」


『暁闇』の一行はうなずいた。


「簡単な話だよ、エリー。馬車の荷台にでも隠しておけばバレやしない。そして茫然とするメンバーをギルドへ送還すれば、死体を処分する機会はいくらでもあった」


 アランは深く煙を吸った。そして眉間にしわを寄せ、


「ただ、この推理はあまりにも稚拙すぎる。第一、動機がない。ああ、そうそう。財産目当ての犯行も疑ってみたんですが、ジャン・クルック氏の下宿には金目の物は見当たりませんでしたよ。盗まれた後だったのかもしれませんが」


 そして、長い間を取って、煙を肺の底から噴き出して、「ただ、やっぱり外に出て殺されたという仮説には無理がある」と、つぶやくように言った。

「これで、内と外の他殺説――つまりジャン・クルック殺害の線は消えました。同様に、自殺の線も材料がありません。そりゃあダンジョンの深い場所へ潜れば危険なモンスターも増え、したがって死ぬことも叶ったでしょう。しかしなあ、話を聞いている限り、氏にその動機があったとは思えない……ましてや公爵の御曹司が……」


 公爵が椅子を蹴って立ち上がった。その目はひどく興奮しているとともに、どこか一縷の――蜘蛛の糸のような希望を見出しているようにも思えた。


「そ、そ、それならば」


 公爵は震える声で言った。「わ、わが子――ジャンは!」


「ええ」


 対するアランは、ひどく無機質に言った。


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