第2話
ある日青年Bが黒のアストンマーチンに轢かれた。
車は大幅な速度制限オーバーで交差点に進入、その後Bに衝突した。どうやらブレーキが間に合わなかったらしい。
「何があったんだ?」Bは横たわりながら混乱していた。状況を把握するため立ち上がろうとしても体が言うことを聞かない。激痛が走り、見ると下腹部の辺りからドブドブと湧き水のごとく血が流れている。
「このままじゃまずい!」そう思い、周りに助けを求めようとするも人々は見向きもしない。
こうして、いや案の定と言うべきか。ともかく誰にも手を差し伸べなれないまま、Bは失意のどん底で死んだ。
この事件をマスコミは大々的に報道し、それを知った人々は嘆き憤った。
「我々はBの死から学ばなくてはならない!」この言葉をスローガンとして、人々は事件現場の跡地にBを象った銅像を作った。
「歴史を繰り返してはならない!」そう宣言した政治家を中心に、国会で新たな法律を作り始めた。
Bの事件から学ぼうとする動きに世間は溢れた。
これを受けて人々は「ああよかった」と安堵した。「ここまでしたらもう大丈夫だろう。これで平和になった!」
人々は熱中の真っ只中にいた。Bの事件にあやかった、BクッキーやBせんべいなどが好評を博し、Bの事件をテーマにしたアイドルグループの歌がレコード大賞を獲得した。
「万歳! 万歳! 万歳!」平和を祝した万歳三唱の声は各地で聞こえた。
だが、その熱中の陰で人々の頭の中から抜け落ちているものもあった。
何年か前の自動車事故のことだ。ましてや被害者の名前など覚えているはずもない。かつてあったモニュメントと献花台は不要なものとして取り壊され、今では関係のないオフィスビルが建っている。当時作り始めた法律も結局施行されることの無いまま計画は白紙となった。
「万歳! 万歳! 万歳!」無責任な声がここまで聞こえてきた。
エンドレス 回鍋肉 @supernabenabe
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