最終話 次元の狭間にて
エイミとアルドはこの旅の始まりである、次元の狭間に戻ってきた。
ここにはアルドの時代の月影の森を始め、古代や未来へワープできる時空の穴がいくつか存在しており、時の忘れ物亭といういわゆる喫茶店のような建物まで建っている。
マスターがぽつりと独り言をつぶやいた。
「どうやら今日は客人が多いみたいだな。」
扉を鳴らし、中へ入ると見慣れた緑色のつやつやとした後頭部が見えた。
「サイラス、ただいま。」
振り返ったのは姿形がカエルの見た目をした侍、最初に二人を快く送り出してくれた仲間である。
「おお、二人ともよく戻った。どうだったでござる?此度の旅は。」
ケロケロと答えるサイラスの笑顔が懐かしく感じた。
エイミが答える。
「ええ、とても楽しかった!美味しいものも食べたし、貴重な時間を過ごせたわ。サイラスの住んでいるアクトゥールのデザートも食べてきたのよ。ワガママ聞いてくれて本当にありがとう。」
「おお、それは良かったでござる。拙者も扉の向こうでしっかり修練してきたでござるよ。ほれ、報酬だ、なかなかのものであろう。」
サイラスが渡してきたのはダンジョンでないと手に入らない、貴重な異節や夢詠みと呼ばれる書である。
「すごいじゃないか、サイラス!これは役に立つぞ。」
ふふん、と胸を張り得意げなカエル、いや侍が言う。
「なんの、拙者にかかればこれくらいのもの、お安い御用であるぞ。」
その姿を見ながら、
(うふふ、サイラスのこの威張った時の表情、すごく好き。その真っ白な首元、いつかツンツンしたいなあ)なんて妄想をエイミがしているのは内緒である。
すると、扉が音を立て、金色の長い髪をした若い男性が入ってきた。
「良かった、アルド、ここにいたか。」
息を切らしながらこちらに向かって速足で歩いてくるのはアルドと同じバルオキー村の警備隊、幼馴染でもあるダルニスだ。
アルドが驚いて振り返る。
「おっ、ダルニスじゃないか。そんなに慌ててどうしたんだっていうんだ。」
「すまない、月影の森で魔物が暴れていてな、ちょっと加勢してほしいんだ。今すぐ来れるか?」
「ああ、もちろん!二人ともすまない、ちょっと行ってくる!」
そう言うや否やアルドとダルニスは店から走って出て行き、月影の森に続く時空の穴にあっという間に吸いこまれていった。
「ああ、私たちも手伝おうかって言う暇もなかったわね。」
「せっかちであるな。まあ、アルドがいれば大丈夫でござろう。あの森にはさほど強敵はおらぬしな。」
「うふふ、そうね。私も、本来の仕事しに帰ろうかな。いっぱい楽しんできたし、自分で言うのもなんだけど、なんだか成長できたような気がするのよね。エルジオンで合成兵士に襲われている人がいたら私が助けなきゃ。そんな使命感に満ちてるわ。」
「・・・エイミ殿、いい顔をしているでござるよ。」
「ありがとう、サイラス。これからもよろしくね。」
すっきりとした笑顔でエイミは自分の時代へ帰っていった。
さて、では拙者も寝床に戻るとするか。
サイラスはマスターに礼を言い、時の忘れ物亭から出た。
(ゾル平原から帰ると致そう・・・)自分の時代へ続く時空の穴へと歩みを進めた時だった。
次元の狭間の扉の隣には少女がいつも佇んでいる。だが今は、しゃがみこんで何かを拾っているではないか。よく見ると手にはほうきを持っていてどうやら掃除の最中だったようだ。
「おお、立派な心掛けであるな。そなた、掃除などしてくれておったのか。」
少女がビクッと肩を上げたものの振り返って答える。
「あらら、ばれちゃった。みんなには内緒ね。他にすることもないから、誰もいない時にお掃除してるの。今日は人通りが多かったから、お掃除のしがいがあるんだ。」
「左様でござったか、かたじけないでござる。うぬ?おぬし、手に何かついてござるよ。」
「あ、これ?そこの時空の穴の近くで拾ったの。キラキラしてて綺麗だから拾って見てたの。」
どうやら先ほどバタバタとやってきたダルニスの落とし物のようだ。
「ほう、確かに美しいでござるな。」
そう言うサイラスの胸中は複雑である。
(拙者も人間であった頃はふさふさだった筈だが・・・)
つるつるでつやつやの緑色の頭を撫でながら、この時ばかりは口惜しく思ったのであった。
アクトゥールに着いたサイラスはふとエイミの言葉を思い出した。
「そうだ、拙者も久々にあの甘味を頂こう。」
自室に戻る前に宿屋へ立ち寄る。
「すふぃあ・こったを一つ頂戴できるかな。」
すると困ったように店員が言う。
「あらいやだ、サイラスさん間が悪いわね。ごめんなさい。今日はもう、一つも残っていないのよ。」
「なんとまあ、それはまた珍しいこともあるのだな。」
「ええ、つい先日も来られた方なんだけどね。なにやら遠くから来てくれたみたいで、見慣れない格好だったから覚えてるの。せっかくだから、あるだけ全部お包みしてお渡ししたのよ。喜んでもらえたみたいで良かったわ。」
「左様でござるか。まあ、拙者はいつでも食せるのでな、また明日立ち寄ろうと致すよ。気になさるな、客人に喜んでもらうのが一番でござる。」
「そうしてちょうだい。申し訳ないねえ。」
その頃、包みを大事そうに抱えながらユニガンの門を潜る一人の影があった。
「王様へ献上する分、ディアドラの分、ラキシス様にソイラ、お世話になっているマリエルちゃん・・・うん、これだけあれば大丈夫だわ。鬼竜に頼らなくても行ける方法あったじゃない。あと残りは・・・」
笑みがこぼれる口元。
甘い香りを漂わせながら先を急ぐ騎士、その持ち主は綺麗な金髪をなびかせていた。
~Quest Complete~ 報酬獲得
クロノスの石×10
夢詠みの書×1
New フォルトゥーナの異節×1
エイミと食べ歩き隊 ねこのふでばこ @nekonohude
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