ACT15 見守られる新堂由仁
「し、新堂さん! 俺と付き合ってくださいっ!」
「ごめん。うち、キミとは付き合えへんっ」
「うぐっ……!」
放課後の校舎裏。
面と向かって想いを告げてきた別クラスの男子に対して、
その男子は、断られた直後こそ残念そうに頭を垂れたのだが、最後には何処かスッキリした顔で立ち去っていくのに、新堂由仁が丁寧に手を振って見送るのを。
――同じクラスの女子達が、遠巻きから見つめていた。
「うわー。新堂さん、相変わらずの一刀両断ね」
「あれ、六組の
「知ってる~。成績もトップテン入りだったじゃん。あたしが付き合いたいくらいだよ」
「……これで、玉砕は十件目を超えたか」
新たな学生生活が始まって一ヶ月と少し。
彼女達の言う通り、新堂由仁が、同学年もしくは上級生の男子の告白を袖にした回数は、遂に十を超えた。
それらを考えて、彼女達は改めて――新堂由仁という少女を吟味する。
「確か、この前の身体測定で、身長百六十六センチだったかしら? 女の子としては長身の方ね」
「それでいて、細身ながらも出るところはしっかり出ているっしょ? お胸で言えばD以上あるな、あれ」
「パッチリな焦げ茶の瞳に細面、お化粧のバランスも良い。あたしも見習いたいくらいだよ~」
「……あのピアスと指輪、確かあのブランドの新作だったはず。流行にも敏感、ということか」
容姿は、体型のメリハリは整っており、綺麗になる努力を毎日欠かしていない美少女といえる。
なおかつ、
「詠ちゃん、お待たせっ。待っててくれてありがとねっ」
「大丈夫だよ、由仁ちゃん」
「お礼に、クレープ奢ったげるっ。商店街で、美味しい店見つけたのっ」
「え。そんな、悪いですよ」
「いいからいいからっ。詠ちゃんには最近、勉強でもお世話になってるしっ、その分もちゃんと受けとってやっ」
「あ……じゃ、じゃあ、その、お言葉に甘えて」
「うんっ」
たった今、クラスで一番の友達といわれている
「関西弁による親しみやすい雰囲気かつ、友達にもとても優しいのよね」
「少なくとも、クラス内は男女問わずそんな感じっしょ?」
「男という男を虜にする魅力を存分に揃えているよ~。あたしが欲しいくらいだよ」
「……そりゃモテるはずだ。で、男は勘違いして玉砕していくと」
どうにもこうにも、新堂由仁はほぼ完璧に見える。
あくまでほぼなのは、一点だけ、学業の成績が危ういといったところか。そこを補えばまさに完璧になってしまうのだが、流石にそこまでは備わらなかったらしい。
ただ、その欠点を考慮しても、新堂由仁の女の子としての魅力は高い位置にあると見て揺るぎがない。
「でも、ここまでとなるとさ……」
「そうだね。……ちょっかい、かけたくなるっしょ?」
「調子に乗らないうちに……ちょっとシメておこうよ~」
だからこそ、なのだろうか。
自分にないものを持ち合わせている者への嫉妬、羨望、逆恨みといった負の感情を持つ者も、必ず居る。
それが彼女達であり、その場には不穏な雰囲気が走る――のだが、
「…………と、言いたいところなんだけども」
新堂由仁に対してそのようなノリになれないのを、彼女達自身が理解している。
その理由は、何か?
――たった今、それは来た。
「む……詠、それに由仁さん」
「お兄様」
校門に至るまでの校庭にて、新堂由仁と鐘鳴詠がばったり出くわした、竹刀袋と防具袋を担ぐ学生服姿の男子生徒。
体格は小柄で、ミディアムヘアと中性的な顔立ち、鋭い黒目に整った眉目はイケメンと評して良いが、何処か近寄り難い雰囲気。
彼の名は、
鐘鳴詠の実兄で、二年生。学年四位の成績を持ち、去年の剣道部の新人戦では見事に優勝を果たした、剣道部期待のホープ。
――そんな彼に対して、
「慧センパイっ!」
新堂由仁は、『パアアアアアァァァ』と満面のシャイニングスマイルを浮かべて、ぶんぶんと手を振っているのだ。
「うわー、これまたわかりやすい」
「ありゃもう、仕事に出かけていたご主人の帰りを待ちに待ちに詫びていたわんこっぷりっしょ」
「あの手の振り方、言って見りゃ全力で振られてるわんこのしっぽにしか見えないよ~」
「…………ありゃ、絶対に惚れてるな」
アレだけわかりやすく、しかもほぼ完璧なはずの新堂由仁があそこまで可愛らしくなってしまうとなると、流石に彼女達も毒気が抜けざるを得なくなってしまう。
その上、
「こんにちは、慧センパイっ! これから部活ですかっ!?」
「うむ。そろそろ大会も近いしな」
「お兄様、今回は団体戦でしたっけ?」
「如何にも。大将を務めるように、トキ先生に言われている」
「すごいですねっ。頑張ってくださいっ。うち、絶対に応援に行きますんでっ!」
「…………うむ」
新堂由仁のわかりやすいアプローチの勢いに押されている、鐘鳴慧も鐘鳴慧で、
「その、なんだ、わかりやすいね」
「あそこまで戸惑ってるのは、絶対に脈ありっしょ」
「女の子が近寄り難い堅物でわりと有名なのに、今はあんだけ年相応だもん。その認識で確定だよ~」
「……まったく」
と、まあ。
新堂由仁と鐘鳴慧のそんな場面を、彼女達は既に何度か目撃しているだけに。
嫉妬も羨望も逆恨みも、そういった負の感情がまったく浮かんでくることもなく、むしろ癒されてしまうまでになってしまい。
彼女達の総括は、
『Good Luck!』
で、あり。
あと、もう一つ。
『つーか、はよ付き合えっ!』
そのように、聞こえない程度に彼女達四人は声をそろえて。
仏のような顔で、帰り支度を始めるのだった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ばいばい、慧センパイっ!」
「お兄様、また後で」
部活に向かう兄を見送ってから、詠は一息をついて。
「じゃ、帰ろうか、由仁ちゃん」
「ごめん、詠ちゃんっ。あともう少しだけっ」
「…………」
兄の姿が見えなくなるまで、ぶんぶんと手を振っている友達の由仁に……詠はなんというか、感心した。
アレだけわかりやすく好意を表すことが出来るのって、なんだかすごくて、羨ましくも思える。
「……それに気付かないお兄様もお兄様、なんだけどね」
兄の鈍感っぷりに、詠はこっそりため息。
……ただ。
「お兄様も、案外……」
なんとなく、なのだけど。
詠は、兄も由仁に対して何らかの気持ちを抱いているのを察している。それが表に出かける場面も、何度か見かけている。
何故か、その寸前で自分で引っ込めている様子についても然り。
いつもは気難しい兄だけに、この変化は、詠にとって実にわかりやすい。
それらを踏まえて、言えることは。
「――早く、付き合っちゃえばいいのに」
「え? 詠ちゃん、何か言った?」
「えっと……ううん、なんでも」
「? ま、いっか。じゃ、帰ろっか、詠ちゃん」
「はい。帰りましょう」
由仁や兄に対して、それ以上を自分から言うのは、野暮というものか。
……自分も自分で、由仁にはいろいろ応援してもらっている立場なだけに。
頑張ってね、由仁ちゃん。
そんな思いで。
鐘鳴詠は、これまでもこれからも、由仁のことを温かく見守っている。
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