第3話 ネコと和解せよ。ネコの国が訪れる日は近い。
前回までのあらすじ
いくら切羽詰まっていても怪しい人と取引しちゃいけないぜ!
ーー起きなさい、
なんだろう。どこからか私を呼ぶ声が聞こえる。
その声が嘘を言っていないなら、どうやら今私は眠っているらしい。
確かに、なんだか凄まじい出来事を経験した私は、誰かの手によって強制的に(
んー、なんか疲れてるからまだ起きたくないんだよねぇ……。寝よ。
自分の行動は自分で決める。人生のレールは例えそれが最終的に崖に通じていたとしても自分で敷いていきたいタイプの私は、声を無視してもう一眠りを決め込むことにした。
しかし、そんな私を追い撃つように再び私を呼ぶ声が響く
ーー起きなさい、聞こえているでしょう猫魔美依子。
あ、これ私が反応しないと強制的に声を聞かせ続けられるパティーンじゃない? 「魔王を退治してくれ」って王様に言われて「→はい」の選択肢を選ぶまで話が進まないやつ。私、こういうのは詳しいんだよね。
私を呼ぶ声が無限ループタイプの強制イベントであることに気がついたIQ1000万(私の脳内調べ)の私は、とりあえずループを断ち切るために声の主に返事することを決める。
「すみません、今めっちゃ眠いので少し待ってもらえますか? 具体的に言うと8時間ぐらいなんですけど」
ーー8時間は、少し待てのレベルではないでしょう? もう少し謙虚になりなさい、猫魔美依子。
ええー……、謎の声にダメ出しされた。初対面なのにグイグイ来るタイプなの? なんか松戸さんもしかり、今日はそんなタイプの人に縁があるなぁ。
「じゃあ、7時間位で……あ、ダメですか。じゃあ、6、いや、5.5ぐらいならなんとか」
ーー競りやオークションじゃないんですからそんなに細かく刻まずにもっとズバッと減らしなさい。
「うえー……これ以上減らすと健全な美少女女子高生の心身の成長に悪影響が出ますよ?」
ーー安心なさい、猫魔美依子。「寝る子は育つ」と言いますが、貴女はこれ以上どれだけ寝ても、身長も胸も尻も頭も育ちませんから。なんなら、貴女はあまり美少女でもないですし。
「流石にひどくない!?」
謎の声の唐突な私へのディスの嵐にツッコミを入れるため、思わず私は飛び起きた。
あー、今ので完璧に目が覚めたよ。というか、私はまだまだ育つから! 特に頭! まだ手遅れじゃないからね! ……多分。
しかも、あまり美少女でないとはなんたる言い種か。これでも私はその愛くるしさでフレンズたちの間でこれ以上ないほど愛でられていたというのに。
「猫魔さんってさ、ネコみたいに何するかわからないから見てて飽きないよねー」
「猫魔さんは、遊びに誘ったら犬みたいに尻尾ふってついてきてくれるからメンバー集めるのに助かるよ!」
「ご飯食べてる時の猫魔さん、ハムスターみたいでかわいい……」
……あれ? もしかして、私って美少女枠というよりもペット枠じゃない? マジか。
過去のフレンズたちの言葉を思い出して、自分の扱いが愛玩動物レベルだったことに驚愕する私。
しかも、そんな私に更なる驚愕を与える存在が目の前に急に現れたのだ。
「ーーようやく起きましたね、猫魔美依子」
「そりゃ、あれだけディスられたら嫌でも起きるよ……って、え!? ネコが喋ってる!?」
目を覚ました私の目の前に急に現れた声の主。それはなんと喋るネコだった!
……ジ●リ? ねえ、ジブ●なの? というか、私がペット枠だからって何も話し相手までネコにする必要ないじゃん! 泣くぞ? 泣いちゃうぞ? にゃーん。 あ、間違って鳴いちゃった。
突然目の前に現れた超常的な存在に私が脳内で混乱を起こしていると、目の前のネコは呆れたといわんばかりの表情で「ハァ……」とめちゃくちゃでかいため息を吐いた。
ネ、ネコに呆れられた……! めちゃくちゃ屈辱的! ……というか、このネコどこかで見た記憶があるような?
私のことを唐突にディスった目の前のネコ。なにやら見覚えがあるような気がした私は、50MBもの大容量を誇る私の中の記憶領域からその情報を呼び出すことを試みる。
ポク,ポク,ポク,チーン!
「あ! よく見たら、君はさっきのぶちゃいくなネコじゃないの! ……でも、なんかさっきよりも可愛くなってるけど」
そう、私の目の前にいるのは先ほど私が登校中に見かけたぶちゃいくなネコに違いなかった。体型や顔のラインがシャープになって、折角のぶちゃいくが損なわれているものの、特徴的な毛の模様が一致しているので、間違いなく同一猫物だ。
そして、そんな私に向かって、ぶちゃいくじゃなくなって魅力が半減したネコは、私の言葉を理解したかのように頭を下げる。実際、本当に理解して頷いているのだろう。本当に人ができたネコである。
「そうです。私は先ほど貴女と一緒にトラックに跳ねられた猫ですよ。姿が違うのは、ここは現実の空間ではない夢の中みたいな場所なので、私も全盛期の姿でいられるからです」
「なるほど、ということはここは私の夢の中な訳だ。……まてよ、夢の中でもう一度寝たらめちゃくちゃ安眠できるとかないかな?」
ふと、頭の中に舞い降りてきた天啓に私が瞳を輝かせていると、目の前のネコは再びため息を一つ吐く。
「……はぁ、貴女はそんなことにしか貴重な頭を使わないんですね。まったく、この先が思いやられますよ」
「ガーン! ネコに将来の心配をされた!?」
に、人間なのにネコに心配されるなんて……! 普通逆じゃない? でも、夢の中ならそういうこともあるのかな?
まさかのネコに将来を気遣われる展開に打ちのめされていると、ネコは「やれやれ」といった表情で再び口を開く。
「そりゃあ、心配もしますよ。だって、私と貴女はもう同じ存在なんですから」
「……へっ?」
ど、どういうこと?
言葉が飲み込めず狼狽える私に、目の前のネコは更なる追い撃ちをかける。
「私と貴女は先ほど一緒に事故に遇いましたよね」
「はぁ」
「そのときに、混ざったんですよ私たちは」
「はぁ」
あまりのことに脳が理解を拒む。返事もどこか気のないものになってしまう。
「まだ、理解できてないようですね、猫魔美依子。横にある鏡を見てごらんなさい。それが今の貴女の姿ですよ」
「えっ……」
そう言われた私はいつの間にか横に立っていた全身が映る大きな姿見タイプの鏡を恐る恐る覗き込む。
そこに映っていたのは、いつも見慣れた花丸元気印の美少女女子高生の私ではなく、ぶちゃいくな顔をした二足歩行の巨大なネコだった。
「にゃっ、にゃんじゃこりゃぁ!?」
慌てて自分の手を確かめると、そこにはふかふかの毛に埋もれるようにピンクの肉球が鎮座したネコの手があった。
あ、気持ち良さそう。……じゃにゃくて!
気がつけば、なんだか言葉遣いまで若干ネコっぽくなっている。
安っぽい猫耳コスプレ喫茶の店員みたいだにゃ! ……にゃんと!? 今気づいたけどモノローグまでネコっぽくなってるにゃ!?
「そ、そんにゃ……、この先私はどうすればいいのかにゃ」
絶望にうちひしがれる私に、ネコはもっともらしいアドバイスをくれる。
「んー、とりあえず目を覚ましてみればよいのでは? いつまでもこんなところでこうしているわけにもいかないでしょう」
「それもそうだにゃー」
でも、この姿で現実に戻ったところでどうにかなるビジョンがまったく見えにゃいんですが!
「それでは猫魔さん、これからよろしくお願いしますね。貴女は私、私は貴女なのですから」
「あ、こちらこそよろしくですにゃー」
挨拶されて、自然に私も挨拶を返していたが本当にこれでいいのだろうか。
いいのかにゃ? いいんだよにゃ?
「じゃあ、夢から覚めましょうか」
「はぁ、でもどうやって覚めるんですかにゃ?」
「それはもちろん夢の中ですからね。こういう便利なものがあります」
そう言ってネコが懐(?)を漁ると、その手にはいかにも怪しい赤いボタンのついたスイッチが握られていた。
「え゛、にゃんですかそれは」
「もちろんスイッチですよ。それでは猫魔さん、またお会いしましょう『ポチッ』とな」
「あっ、ここってそういうシステムにゃのねーーーー!?」
ネコがスイッチを押したその瞬間、私の足下がネタが滑った芸人よろしく、突如としてパカッと開く。
そのまま、自由落下の速さで私は夢から覚めていくのだった。
元女子高生猫型怪人ニャンダコリャーの憂鬱 @owlet4242
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