第15話 突然に体が
突然に体が軽くなるのを感じた。なにかが抜けていった感覚に襲われた。足の踏ん張りがきかなくなり、危うく崩れ落ちそうになった。それでも中腰状態で両足に力を入れて、なんとか体勢を立て直した。とその時、頭上からの声を聞いた。
「シンイチクン、アリガトウ」
その声にかぶさるように「新一さん、きょうはありがとうございました」と、車から降りた真理子が満面に笑顔を称えて、手を振っている。
そうだ、ぼくは新一だ。坂井新一だ。松田聡くんじゃない。
聡くんは、聡くんは、死んだんだ。
ぼくを恨んで死んでいったんだ。
だから、だから、ぼくは聡くんの思いを……。
聡くんは強かった、ひとりになっても頑張っていたんだ。
それをぼくが、弱い聡くんにしてしまったんだ。
ぼくが聡くんに関わったばっかりに。
そしてそして、最後には、ぼくは聡くんから逃げてしまった。
彼ならどう考えるだろう、彼ならどうするだろう……。
そんなことばかりに囚われていた。
そしていつの間にか、えそらごとの世界に入り込んでしまっていた。
ぼくのことなのに、彼は…だなんて。
ぼくは、ぼくは、ほんとに卑怯者だった。
何年も前のような気もするし、つい先日のような気もする。
彼からの新一への、懐かしみ溢れる手紙が死後に届いた。
新一にとっても忘れられない夏休みの冒険談が、嬉々として綴られていた。読みながら、頬を伝う涙と自然にほころぶ笑みとが混じり合った。
最後に書かれてあった「休ませてもらうことにした」という言葉が、新一の心に突き刺さった。
(ぼくのせいじゃない)。心の中で何度も繰り返した。
新一にとって、ただ一人の友であった彼の死は、簡単に受け入れられるものではなかった。
友を失った ―― 死なせてしまったという後悔の念が、重くのしかかっている。
(あの日、あの時に追いかければ良かった。「ぼく帰る」と捨てゼリフを残して歩き出した君を追いかければ良かった。そうすれば、君は今でも僕の隣にいてくれたはずなのに)。
えそらごと としひろ @toshi-reiwa
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