第123話 本当に、疲れた
「ふざけるんじゃないわよ!!」
私の叫び声に、男はひっぱたかれた頬を抑えながら私の顔を見ている。
「私だって、綺麗ごとばかり言ってるわけじゃ無い。みんなにそれぞれ色々な過去があるだろうから無理に仲良くなれなんて言わない。でも、関係のない人を自分の感情のはけ口にするなんて絶対に間違ってる。そんな真似は、絶対に許さない」
今度は、父親の方を振り向いた。幼い娘をかばい、抱きかかえながら私を見ている。
一度同情するような目線で女の子を見た後、オホンと咳をした。
「貴方も。娘を殴られたから 大目に見ている。けど、怒りに任せて必要以上に暴力に訴えるようなことだけはしないで。お願い──」
罪悪感を感じながら、たしなめるような口調で言う。
父親の方は、不満げな表情で私をにらみつけてきた。どうして俺が注意されなきゃいけないのか──とでも言わんばかりの表情をしている。
その気持ちは、痛いほどわかる。
本来であれば、悪いのは亜人の方だ。
しかし、だからと言ってただでさえ差別や偏見を受けているとかんじている亜人達の前で、一方的に人間だけをかばい、亜人達だけを責め立てるようなことをしたら、
亜人達からすると一方だけに加担しているという印象を持たれてしまう。
そしたら、私の言うことを彼らは無視し続けることになるだろう。それだけは、避けなければいけない。
(ちょっと言いずらかったでしょう)
(当然よ。彼が怒るのも、全く無理が無いもの)
私たちは再び亜人達の方に視線を向けた。元凶となった亜人の男は唾を道端に吐いた後、頬を抑えながら私を見る。
「分かったよ。去ればいいんだろ」
そして、その男がこの場所を去って行くと、他の人達もこの場所から離れていく。
何とか暴動にならずに済んだ。
ほっとして、大きく肩を落とす。しかし、安心なんてできない。
現状を何とかしないと、同じようなことがまた起こるだろうからだ。
何とかして、街を平和に戻さなきゃ──。
帰り道。どぼとぼと宮殿に向かって帰り道を歩いていく。
どんよりとした気持ちで歩きながら、貴族たちに言われた言葉を思い出す。
「知らねぇよ。なんで下民たちの面倒なんて見なきゃいけないんだよ。ほっとけよそんなの」
「貧困層だろ? 俺にゃあ関係ねえよ。そんなことより今日は酒と女だ」
けんもほろろに突っ返されてしまう。まるで他人事のようだ。階級社会の中で、互いに自分たちの生活圏のことにしか興味がなくなり、結果社会が分断されてしまっているのだ。
結局、私の考えに賛同してくれたのは全体の3割くらい。しかし、実際に協力となると彼らですらためらってしまう様子だ。
がっくりとため息をついて、肩を垂らす。
(で、どうするの。諦めちゃう?)
挑発するようなセンドラーの言葉に、強気な笑みを作り親指を立てて答えた。
「冗談」
(でしょうね)
センドラーは、最初から分かっているような表情をしている。にこっと笑みを作っていく。
確かにそうだ。自然と、表情が前を向く。
私に、あきらめるなんて選択肢はない。どんなにつらい状況でも、やるしかない。課題はいろいろある。でも、それを一つづつ解決して、前に進まなきゃ。私のことを待っている人が、絶対にいるから。
そう強く心に記して、宮殿へと帰っていった。
その後、夜。
パンとフィッシュアンドチップス、野菜スープの食事を頂いた後。
再び残っていた政務に取り掛かった。
政務自体はそこまで量があるわけではなく、1時間ほどで終わる。しかし──。
はぁ~~。
椅子からだらんと肩を落とし、大きく息を吐いて肩を落とす。
今日は──というか最近の出来事にとても疲れている。
色々な出来事があって、それを何とかしようとしてもさらに現状を悪化させるような出来事の連続。
まるで、大きな川の流れに逆らって泳いでいるみたいだ。
そして、椅子に体重をかけ、天井に視線を置く。
何も考えず、座りながら体を休ませていると、誰かが後ろから抱き着いてきた。
後ろから頬を私の顔にくっつけてきて、腕をだらんと私の腕や胸のあたりに垂らしてくる。
こんなことをしてくるのなんて、一人しかいない。
「ライナ。今日は甘えてくるわね」
「はいセンドラー様、とても疲れていたようなので何とか励まそうと──」
マシュマロのような、柔らかいフニフニとしたほっぺの感触が私の頬全体に伝わる。
私は、苦笑いをしながらライナの頭を優しくなでた。髪を優しく、ほぐすように撫でる。
「ありがとう、気持ちはとても嬉しいわ」
「えへへ~~ありがとうございます」
デレデレと笑って言葉を返すライナ。とっても笑顔が似合う。
「ずいぶんと、甘えてくるわね」
「たまには、甘えたいです~~。だっていつも忙しそうで一緒に入れなかったじゃないですか」
「ああ、それもそうね」
「でも、センドラー様とても活躍していると思います。とても素晴らしいです。私だって、力になりますから。一緒に頑張りましょう」
その気持ちが、とっても嬉しい。
「じゃあ、お願いね。ライナのこと、信じてるから」
ライナの表情がぱっと明るくなる。
「はい、これからもよろしくお願いします!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます